グランジュの過去
青木ななぎ様からご依頼のあったグランジュが恋バナ好きになったきっかけを題材とした番外編です。
舞視点となっています。
マリウスの性格も年相応になってきて、アーシアも新しい恋人と仲良くなり、舞は暇をもてあましていた。
ナイフ投げでもできれば気も紛れるだろうが、なんと2人目の子供を身ごもったのだ。
魔族にしては驚異的な速さで第2子が出来たため何もすることが出来ず、やさぐれていた。
そんな中、恋バナが好きな変な魔獣の事を思い出す。
思い出したらその魔獣、グランジュの事が気になりじっとしていられない。
ミシェナに散歩に行くと告げて舞は部屋を飛び出した。
グランジュは相変わらず木々の生い茂る森にいた。
記憶にあるのと違わず、黒い毛に銀色の縞がある優美な虎の姿だ。
実際は虎ではなく魔獣だが。
「グランジュ、久しぶりだな。」
「ん? ああ、魔王妃か。久しいな。わしのことなど忘れておるかと思っていた。」
「そ、そんなことはないぞ。」
図星をさされ、ついどもってしまう。
そんな舞を見てグランジュが笑った。
「誤魔化すのが下手だな。そんな状態で公務が務まるのか?」
言葉こそきついが、からかうように言われて舞も笑う。
「普段はもっとシャンとしてるからな。問題ないさ。たぶん……。」
「まぁ、お主が何かやらかしたとしても魔王が何とかするだろう。あの魔王は魔狸だからな。」
「魔狸?」
聞きなれない単語に舞は首をかしげる。
グランジュは舞を見てひとつうなずいた。
「魔王妃は外に出ないがゆえに、魔獣のことはわからんか。魔狸とは化かすのが得意な魔獣だ。上級魔族ではペットとして飼育している者もいたと思うぞ。人を化かす性質ゆえに腹の内を見せないの別称としても使われておる。」
「なるほど。」
日本のタヌキと同じ使い方なのか。
どこに行ってもタヌキのようなものはいるんだな。
舞がしみじみと感動していると、グランジュが両手で鼻の頭をペロッとなめた。
「して、魔王妃は何用だ? まさか魔狸について聞きに来たわけではなかろう?」
「いや、暇だったから来たんだ。特に何か聞きに来たわけではない。」
困った表情で舞はグランジュを見る。
するとグランジュは大笑いした。
「なるほど! 暇だったのか! 暇だからとわしのところに来るなどお主本当に魔王とよく似ておる。魔王も幼少の頃は暇だと言ってはよく遊びに来たものよ!」
ジェラルドもここに来ていたのか。
という事はグランジュはジェラルドの幼少の頃も知っているのだろうか。
ジェラルドはどんな子どもだったのだろうか。
子どもの頃から無表情だったのかもしれない。
ちっちゃいジェラルドを想像して舞は微笑む。
「ふむ、しかし暇とな。それならばわしの最近仕入れた恋愛話を話すしかなかろう! 最近の流行はな……、なんと実在する人物がモデルとなった歌だ。聞いて驚くがいい!」
はりきって恋愛話を始めようとするグランジュにジェラルドの過去を聞く事などできず、舞は口をつぐみグランジュを見た。
グランジュは高らかに声を張り上げる。
「なんとも珍しいことに異なる世界から魔王妃となるために召喚された女子がおった。その女子は輝かんばかりの黒髪に吸い込まれそうな黒い瞳の持ち主であった。」
異世界から召喚された人物?
私以外にもいるのだろうか……。
登場人物は実在すると言っていたし、会ってみたい。
どんな人なのだろうか。
黒髪黒目ということは日本人なのかもしれない。
召喚された人物と聞いて舞の目の色が変わる。
しかしそんな舞の様子に気づくことなくグランジュは朗読を続けた。
「誤って人の住む大陸にとばされてしまったが、魔王妃は魔王の部下に支えられて魔王の元にやってきた。さあて、魔王は一目で恋におち、無表情であった顔に表情を浮かべる。この魔王はなんと若くして政策を変え、西の魔国にさらなる繁栄をもたらした偉大なる魔王。その名もジェラ「ちょっと待て!!」」
「何か問題でもあったか? あ、わしが歌わずに朗読しているのが気にくわないのだな。すまぬかった。歌いなおすから許せ。」
「そうじゃない! それってもしかしなくても私とシェラルドのことか!?」
「もちろん、そうだ。何しろ魔王は結婚にしたいランキング第一位だったからな。皆興味があるだろう。しかも魔王妃は西の魔国初の異世界人だ。話題にならない方がおかしいだろう?」
「いやいやいやいや、この国に来てもう10年くらい経つが初めてそんな歌の存在を聞いたぞ! なんでそんな事になってるんだ……。」
微妙な顔をする舞にグランジュは虎パンチをする。
「それだけ民に慕われているという事だ。誇りに思うがいい。魔王や魔王妃の良い噂や歌が流行るのは良い事だ。」
「そうか……。確かにそうなのかもな……。」
悪い噂や歌が広まるよりはいいのだろうが、やはり何というか……。
歌詞もあれだし、うん。
何とも言えない気分になり舞はその場にへたり込んだ。
「そこまで照れるとは可愛いのう。これはわしが先ほどの歌を歌うしかなろう!」
気合を入れて歌を歌おうとするグランジュの口を恐るべき速さで舞がおさえた。
「う、歌わなくていい! じゅ、十分伝わった。」
何が伝わったのか舞自身もよく分からないが必死にグランジュに告げるとグランジュは物足りなそうな表情を浮かべる。
このままでは歌うまで納得しないと思い、舞は慌てて別の話題を探した。
「そ、そうだ、グランジュはどうしてそんなに恋バナが好きになったんだ? きっかけとかがあるなら教えて欲しい。」
「むぅ、わしが恋バナ好きになったきっかけとな? そうだのう……、明るい話ではないが聞きたいか?」
「きっかけとなるような話なのに明るい話じゃない? どういうことだ?」
舞は困惑してグランジュを見る。
グランジュはただ静かに舞を見、ゆっくりと口を開いた。
「西の魔国は恋愛に関してかなり寛容だ。故にどんな恋愛も今では認められておる。異種族愛から同性愛、上級魔族と下級魔族の恋愛にいたるまでな。しかしこれはほんの数百年前まではありえなかったことだ。数百年前までは同性愛や上級魔族と下級魔族の恋愛など迫害の対象でしかなかった。公に認められるようになったのはもっと新しく、現在の魔王が就任してからだ。異種族愛は昔から認められておったが今でも純血にこだわる考えを持つものはおる。他の2つにいたってはまだ、偏見の目で見られることも多いのう。」
同性愛はいまだに見たことがないが、異種族間の恋愛など当たり前だと思っていた。
でもよく考えれば前の半魚人族の族長は血にこだわっていた気がする。
上級魔族と下級魔族の恋愛も見たことがない。
伴侶という者が存在するから魔の大陸において恋愛は自由なのだと思っていたが、そうでもなかったのだな。
ようやく気付いた事実に舞は視線をおとした。
「わしも最初は恋バナが好きという訳ではなかった。ある時一組の伴侶同士がわしの結界内に入り込んで庇護を求めてきたのが全てのきっかけだのう。2人は上級魔族である半魚人族の男と下級魔族である氷狐人の女のつがいだった。わしはこの2人が哀れに感じてな。助けてやる事にした。当時すでに上級魔獣として今ほどではないが力もあったゆえ、半魚人族に結界を超えられることもなかった。」
「その2人はどうやってグランジュの結界の中に入ったんだ?」
「2人が庇護を求めてくるまでは強い結界をはっていなかったからだな。2人を保護した後は今よりも強い結界をはっていたから、たとえ上級魔族の族長といえども破れなかった。この2人を助けたことにより、わしは認められない恋があると知ってのう。できる限りの恋愛話を集めるようになった。一緒にいたくてもいることのできない魔族たちの逃げ場となれるようにな。」
グランジュは昔を懐かしむような、それでいて悲しげな表情を浮かべる。
しかしグランジュの瞳にそういった感情が浮かんだのは一瞬で、少し頭を振った後微笑んだ。
「そうしていくうちに徐々に恋愛に対して寛容な意見もでるようになった。おかげで今ではここが逃げ場として使われることも少なくなった。ただ、いつの間にかわしは恋バナを集めて幸せな話を聞くのが好きになったのだよ。むくわれない恋の話や悲恋などを多く知ったせいかもしれないな……。」
「なぜ、異種族や上級魔族と下級魔族の恋愛は許されなかったんだ?」
私とジェラルドは異種族愛に分類されるだろう。
それにアーシアも異種族愛だ。
同性愛は子ができいためだと思うが、異種族間にも子は生まれる。
上級魔族と下級魔族の間だと子ができないのだろうか。
「上級魔族と下級魔族の間でも子はなせる。それに異種族間でも子はできる。それも生まれる子はどちらかの種族として生まれ、種が混じった存在は生まれない。しかし、このことが公に知れ渡ったのは現在の魔王が堕天使族に調べ上げさせて発表させてからだ。それまでは異種族間では混じった子が生まれることが恐れられていた。上級魔族と下級魔族の間の子にいたっては何が生まれるかわからないとまで言われていた。だから認められていなかったのだ。伴侶という考え方が存在していたというのにな。」
「なるほどな……。」
「今もまだ同性愛や上級魔族と下級魔族のつがいは嫌がられる傾向がつよいようだ。今後も少しずつで良いから偏見がなくなっていって欲しいとわしは思っている。」
「そうだな。私にできることはそう多くないだろうが、とりあえず上級魔族と下級魔族の夫婦から生まれた子を侍女として採用してみるか。」
「それは良い案だ。生まれた子も差別の対象となっているからな。魔王妃が率先してそのようなことに取り組めば、感じ方が変わるものもでてくるやもしれん。魔王妃が純血を貴ぶものからは疎まれる可能性が高いが、そうしてくれると今もここで暮らしているものたちも外に出れるようになるかもしれぬな。」
グランジュは嬉しそうに笑った。
それに引き換え舞は驚き目を見開いた。
「今もここにいる人たちがいるのか!?」
「ああ、上級魔族と下級魔族のつがいやその間に生まれた子で行き場のないものはまだここにいる。」
「それなら今すぐにジェラルドと相談してみるよ!」
舞はいそいそと転移の魔法を使い、この場からいなくなる。
「もし、全ての伴侶同士が幸せになる時代がくれば良いのう。期待をしておるぞ、魔王妃。」
今よりもなお恋愛が自由に行われる日が来ることをグランジュは祈った。




