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ゴッグ・シンドローム 真 Call of Astrachion ハルとミナの物語  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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第7話「五日目、外へ」


 五日目の朝、ハルは送信システムの修理を試みた。


 第三区画の聴音パネルに接続された送信回路を一つずつ確認した。焼き切れているものが多かったが、バイパスを組めそうな経路があった。ミナが制御盤を操作し、ハルがケーブルをつなぎ直す。二人の作業は昨日より息が合っていた。


「これでどのくらいの出力になる?」とハルは言った。


「弱い。水中だと減衰するから、数キロが限界だと思う」


「上に誰かいるなら届く範囲か」


「届く可能性はある。でも受信機が水中対応じゃないと意味がない」


「やる価値はあるな」


「うん」


 接続が完了した。ミナが短波で試験発信をした。モールス信号で、位置と状態を示す短いコードだった。


 応答はなかった。


 一時間待って、また送った。また応答がなかった。


「今日は諦める」とミナが言った。「明日も続ける」


「送り続けることに意味がある」とハルは言った。


「そう思う」




 昼前に、ハルは外装アクセスゾーンへの道を探し始めた。


 断面図で見た限り、外装に繋がる経路は第三区画の先にあるはずだった。装甲扉の横に、別の細い通路があった。装甲扉ほど重厚ではなく、工具で固定を外せそうだった。


「行くのか」とミナが言った。


「外の状態を確認したい。損傷の程度、海底の地形、助けを呼ぶ方法が他にないか」


「耐圧服は?」


「探す。たぶんその先にある」


 ミナは少し考えた。「一人では行かないで」


「一緒に来るか?」


「来る」


 細い通路を二人で進んだ。十五メートルほど先で、小さな準備室に出た。壁にラックがあり——耐圧服が二着かかっていた。


 ハルは服を手に取った。重さがある。本格的な深海作業用ではなく、モビルスーツのコックピット外活動用の簡易タイプだったが、九十一メートル程度なら耐えられる設計だった。酸素ボンベのスロットもある。


「ある」


「あった」とミナも確認した。「サイズ……私には少し大きいけど、着られる」


「調整する。一緒に行けるか」


「行く」


 その言い方は、迷いのない言い方だった。




 準備に一時間かかった。


 耐圧服の点検、酸素ボンベの接続確認、万が一の場合の手順の確認。ハルは二回、三回と確認した。ミナも文句を言わずに確認作業に付き合った。


「九十一メートルでの外活動は、酸素消費が格段に上がる」とハルは言った。「一時間が限度と思え。それ以上は減圧症のリスクが高まる」


「分かった」


「俺から離れるな」


「分かった」


「怖くなったらすぐ言え」


「あなたは怖くないの?」


 ハルは少し間を置いた。「怖い。でも出ないといけない理由がある」


「理由?」


「お前をここから出す方法を見つけないといけないから」


 ミナは何も言わなかった。少し目を伏せてから、ヘルメットを被った。




 ハッチを開けた。


 水が入ってきた。ゆっくりと、制御しながら。コックピット側のドアを閉めてから外向きのハッチを開くエアロックの構造だったが、それが機能していた——これも機体が動いている証拠だった。


 水の中に出た。


 暗かった。懐中電灯の光だけが届く範囲を照らしていた。視界は二十メートルほど。冷たかった。耐圧服越しでも体温が奪われていく感覚があった。


 ハルはミナの手を掴んだ。


 二人で機体の外壁に沿って進んだ。


 ゴッグ二号機の外観は、想像していた以上に損傷していた。装甲の一部が剥落し、骨格が露出している箇所があった。外部からの衝撃、内側からの圧力、複数の方向からの損傷——やはり、ベースキャンプを壊滅させたのは一種類の兵器ではなかったようだった。


 機体の外壁に刻まれた名称を確認した。「MSM-03K」という刻印があった。その下に、消えかけた別の刻印があった。懐中電灯を近づけると、何かの文字が見えた。


「Hi4」まで読んだところで、残りは腐食で読めなかった。


「Hi4……」とハルはヘルメット越しに声に出した。


 ミナは手を握り返した。




 底を確認した。


 機体は深い泥の中に半分埋まっていた。完全に埋まれば浮上の可能性はゼロになる。今の状態なら、何らかの方法で浮力を得られれば浮上できるかもしれなかった。


 周辺の地形を見ると、機体から十メートルほど離れた場所に、沈んだ構造物の残骸があった。ベースキャンプ関連のものか、あるいは別の何かか。


 そしてその残骸の中に——小型の酸素ボンベらしきものが見えた。


「あれ」とハルはミナに示した。


 二人で近づいた。残骸の間に挟まった状態だったが、取り出せそうだった。ハルが引き出した。ボンベだった。残圧計を確認すると——まだ残っている。


「十時間以上はある」とハルは言った。


 ミナの手が強く握り返してきた。




 三十分で機体に戻った。


 エアロックを通過して内部に入り、耐圧服を脱いだ。体が震えていた。冷えた上に、緊張が続いていたからだった。


「体温を戻す」とハルは言った。


 二人は毛布にくるまって、並んで座った。ミナがハルの腕に寄りかかってきた。昨日までとは少し違う接近だったが、ハルは何も言わなかった。


「見つかった」とミナが言った。「酸素が」


「ギリギリ届く量になった」


「うん」


「外の状態も分かった」


「Hi4という文字が見えた」とミナが言った。「気になる?」


「気になる。でも——今はそれより、七日間を超えることが先だ」


 ミナは「うん」と言ってから、少し時間を置いた。


「ハル」


「なんだ」


「この機体、生きてると思う?」


 ハルは窓の外、真っ暗な水の底を想像した。泥の中に沈んでいる機体。腕も足もない。名前が半分消えている。でも——内部では何かが動いている。ひよごっぐが現れる。扉が開く。水が増える。


「生きてると思う」とハルは言った。「それ以外に説明がつかない」


「こいつ、俺たちを見てるんじゃないか」とミナが言った。


 ハルが以前言った言葉を、ミナが繰り返した。


「そうかもしれない」


 二人はしばらく黙って毛布にくるまっていた。外からは何も聞こえない。でも機体の深部から、いつもの振動が伝わってきた。


 五日目が終わろうとしていた。




【次回 第8話「悪意の地層」へ】


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