第14話「鉄の揺り籠」
数週間が過ぎた。
ハルが鉄屑を叩く音は、島の風景の一部になっていた。朝に波の音があり、日中に鉄を叩く音があり、夜に焚き火が揺れる——それが二人の一日になった。
コックピットの内部は、少しずつ変わっていった。
泥を掻き出し、壁面を清掃し、通気口を整えた。計器盤が火花を散らしていた場所は、配線を切って安全にした。その跡に、島で見つけた乾いた草を敷いた。計器の枠には、拾ってきた貝殻をかけた。誰かに見せるためではなく、ただそうしたかったからだった。
外装の補修は難航していたが、雨風を防ぐための最低限の修理はできた。コックピット区画の天井部分に残る穴を、剥落した外装の破片で塞いだ。不格好だったが、雨が入らなくなった。
「家みたいになってきた」とミナが言った。ある日の朝、コックピットから外を見ながら。
「まだ途中だ」とハルは言った。
「途中の方が好きかもしれない」
「なんで」
「完成したら、次が思いつかないから」
ハルはその言葉を少し考えた。「お前らしいな」と言った。
食料は安定してきた。
ハルが作った簡易の釣り竿で、魚が獲れるようになった。針は機体の金属部品を加工した。糸はコックピットに残っていたケーブルの細い線を使った。最初は一匹も釣れなかったが、一週間もすると、コツを覚えた。
ミナは植物を探した。内陸に入ると食べられる葉や実があった。ヤシの実だけでなく、小さな野生のバナナに似た実もあった。岩場には海藻も豊富だった。
「コックが羨むメニューになってきたな」とハルは言った。ある夜、魚と海藻と野生の実を並べて。
「コック長なら怒るかもしれない」とミナが言った。
「シングルスターは何でも文句を言う。でも食べる時は食べる」
「そういう人ね」
「そういう人だ」
二人は笑った。コック長の話で笑えるようになったことが、ハルには少し不思議だった。あのベースキャンプの日々が、遠い過去のように感じられた。
ある日の夕方、ハルは機体の外壁を磨いていた。
工具ではなく、砂を布に包んで磨く、地道な作業だった。一センチずつ、錆を落とし、雨水を弾くための磨きをかけていく。
「なんで磨いてるの」とミナが聞いた。
「さびが広がると、機体が弱くなる」とハルは言った。「それと——」
「それと?」
ハルは少し黙った。
「こいつは俺たちを生かしてくれた。俺にできる礼といえば、これくらいだ」
ミナはそれを聞いて、機体の外壁に手を当てた。
「まだ振動してる?」とハルは聞いた。
「……かすかに。前よりずっと弱いけど。でもある」
「そうか」
「消えてないよ」とミナは言った。「ちゃんといる」
ハルは磨く手を止めて、機体を見た。
七日間、ずっとそこにいた「三人目の搭乗者」が、今も機体の奥底にいる。レモンの香りはもう漂わない。ACASは動かない。ひよごっぐも現れない。でも——機体は振動している。かすかに。
「レモンの香り、消えちゃったな」とハルは言った。
「うん」とミナは言った。「でも——意思は消えてないと思う。ただ、静かになっただけで」
「静かな隣人か」
「そう。そういう感じ」
夜、焚き火の前でミナが言った。
「ハル、もし世界が平和になったら、私たちはどうなると思う?」
ハルはしばらく考えた。焚き火の向こうの暗い海を見ながら。
「平和か。それは、どこか遠くの誰かが決めることじゃない」
「じゃあ誰が決めるの」
「今、俺がお前の隣にいて、明日もまた笑えること。それが、俺にとっての平和のすべてだ」
ハルはそう言って、ミナの泥に汚れた手を——砂と磯の匂いがする手を——力強く握り返した。
ミナは少しの間、その手を見ていた。
「泥じゃなくて砂だよ、今は」
「そうだな」
「進歩だと思う」
「そうかもしれない」
その夜、月が出た。
明るい月だった。波が月光を反射して、砂浜が白く輝いた。ゴッグ二号機の傷だらけの外装も、月の光を浴びた。
ハルとミナは机代わりにしている鉄の板の上に並んで座った。月を見ていた。
「きれいだな」
「うん」
「こういうのを見るために生きてるんだと思う」とハルは言った。「七日間は、それを教えてもらった気がする」
「私も」とミナが言った。「七日間前は、月を見てきれいだと思う余裕がなかった」
「今はある」
「ある」
ミナがハルの肩に頭をもたせた。
ハルはそれを受け止めた。
波の音と、月の光と、機体の低い振動だけが、砂浜にあった。
【次回 第15話「記録されない日常」へ】




