第13話「未完成の家」
翌朝、ハルは夜明け前に目を覚ました。
砂浜に横になっていた。隣にミナがいた。体温があった。七日間、コックピットの壁に背をつけて眠っていたのとは違う、砂の上の感触だった。
空が明るくなっていた。
ハルは起き上がって島の様子を確認した。夜の間に何かが変わっていないか——兵士としての習慣が抜けなかった。でも何も変わっていなかった。波が打ち寄せ、鳥が鳴き、遠くで魚が跳ねた。誰も来ていなかった。
ゴッグ二号機が砂浜に傾いて横たわっていた。
夜明けの光の中で見ると、損傷がより分かった。外装の三割以上が剥落していた。推進器のユニットが脱落しかけている。内部のフレームが数か所で露出していた。七日間の水底に加えて、ACAS発動時の負荷が、機体を限界まで消費させていた。
ハルは機体の前に立った。
「よく来た」
声に出した。機体に向かって。昨日も言った。今日も言いたかった。
機体は答えなかった。でも、今日は風が機体に当たって低い音を鳴らした。それが答えのように聞こえた。
ミナが目を覚ました。砂浜に起き上がり、周囲を確認して、それからハルを見た。
「おはよう」
「おはよう」
「眠れた?」
「久しぶりにちゃんと眠れた気がする」とハルは言った。
「私も」
二人で朝食を探しに行った。昨日確認した岩場の貝と、内陸のヤシの実と、湧き水。当面はそれで生きていけそうだった。慣れれば魚も獲れるかもしれない。ハルは釣りの心得が少しあった。
「いつまでここにいる?」とミナが食べながら聞いた。
「分からない」とハルは正直に言った。「でも——急いで出る必要もない」
「そうね」
「戦争が終わったら、何かが変わるかもしれない。でも今は、戦争の外にいる方がいい気がする」
「MIAとして」
「そうだ。記録されない場所にいる方が、今の俺たちには合ってる」
ミナはそれを聞いて、少し考えてから言った。「うん、そう思う」
午前中、ハルは機体の内部を確認した。
コックピットには生活用品がまだ残っていた。毛布、工具箱、医療キット、懐中電灯。耐圧服は使い終わったが、材料として使えるかもしれなかった。
第三区画の制御盤を確認した。
ACASのパネルは「STANDBY」のままだった。RESONANCE LEVELはゼロになっていた。LIFE SIGNのパネルは——まだ「STABLE」を示していた。
ハルはその表示を見た。
白い空間で見た女の顔を思い出した。ミナの顔に似た目を持つ女。名前を言わなかった女。ミナが「お母さん」と呼んだ——。
ハルはその思考を止めた。
今は考えすぎない方がいい。
ただ、この機体の中に何かがいて、それが二人を生かしてくれた——それだけを知っていれば十分だった。
「まだ動いてるな」とハルは機体に言った。「ゆっくり休め」
昼過ぎ、ハルは砂浜に落ちていた鉄屑を集め始めた。
機体から剥落した外装の破片が、砂浜の各所に散らばっていた。使えそうなものを選んで、機体の足元に積んだ。
ミナが来て、何をしているのかを見た。
「直してどうするの、ハル?」
ハルは少し笑った。七日間ぶりに、力の入っていない笑いができた気がした。
「こいつは俺たちの命を繋いでくれた。次は、俺がこいつを再生させる番だ。戦うためじゃない——俺たちの家にする」
ミナはその言葉を聞いた。少しの間、何も言わなかった。
「家」と繰り返した。
「コックピットを住居に改造する。雨が防げて、風が通って、波が来ない高さに置けたら、当分の住処になる」
「できるの?」
「できると思う。時間はかかるが——急いでいないから」
ミナは機体を見た。それからハルを見た。
「手伝う」と言った。
「そうしてくれ」
ハルが鉄屑を叩く音が、静かな砂浜に響いた。
最初の一打だった。工具で鉄の端を曲げ、別の破片に合わせる。不格好だったが、それでよかった。これは兵器を修理する作業ではなかった。
ミナは内部の清掃を始めた。コックピットの泥を掻き出し、配管を確認し、通気のルートを調べた。もともと生命維持のために設計された空間だった。住居として使う改修は、理にかなっていた。
二人は黙って作業した。
午後の光の中で、波の音を聞きながら。
鉄を叩く音が、一定のリズムで島に響き続けた。
夕方、作業を止めた。
海の向こうに太陽が沈んでいった。今日は雲が少なく、夕陽がはっきり見えた。水平線がオレンジと赤に染まった。
「きれいだな」とハルは言った。
「うん」とミナが言った。
それだけの会話だった。でも七日間のどんな会話よりも、柔らかかった。
ゴッグ二号機の傷だらけの外装が、夕陽を受けて橙色に輝いた。腕もなく、足もなく、外装が剥落した姿で。それでも、砂浜にある。確かにある。
ハルは夕陽に向かって伸ばしかけた手を、途中でミナの方に向けた。
ミナがその手を取った。
特別なことは何もなかった。ただ手を繋いだだけだった。でもそれが——七日間の全部よりも、少しだけ特別な感じがした。
二人は夕陽が沈むまで、手を繋いだまま立っていた。
【次回 第14話「鉄の揺り籠」へ】




