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You & I -Reverside Drunker-  作者:
第三章"電脳世界"
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さようなら、私の愛した日々よ

「くっくっく」


 いきなり何を思ったか、目の前の少女――ナナは手のひらで顔を抑えながら不気味に笑った。


「この世界は本当に面白い。なにもかもが馬鹿げている」


 そう言うと、携帯を取り出しボタンを忙しそうに操作し始める。


「こんばんは、姫。面倒なことになりましたね」


 ナナはそう呟きながら携帯を操作する。

 誰かとメールのやり取りでもしているのだろうか?

 やはりドランカー患者は突発的な行動が多い。


「誰かとメールか?」


 ドランカー患者の行動に正当性を求めるのはまったくもって無意味だが、それでもこの妹に似た少女を無視することはできなかった。

 尋ねてみると、ナナは口角を吊り上げまた不気味に笑って言った。



 ――ええ、あなたの妹さんと、と。



「……なんだと?」


 冗談でも笑えない。

 ドランカー患者の言うことを本気にするつもりはないが、この容姿も踏まえたうえで、謎の多いこの少女の発言はいちいち引っかかる。


「あなたの妹さんも馬鹿ですね。唯一のお友達――いえ、今はロボットでしたっけ? それを"破壊"するそうですよ」


「なんなんだ、さっきから。何が言いたいんだ」


「だから、あなたの妹さんは馬鹿だって言ってるんですよ。なんで変な妄想に取り憑かれているんですか? なんで自分の妹殺そうだなんて考えられるんですか?」


 ナナの言葉が途端に早口になる。

 妹を殺す?IRIAのことか?


「優は馬鹿じゃない。俺なんかよりもずっと頭のいい子だ」


「だったら何故妄想するんです?」


「病気だから仕方が無いだろう? そんなことよりも、妹を殺すっていうのはどういうことだ」


「そのままですよ。馬鹿が私のマインドコントロールで、今人殺しをしようとしてるところです」


 ほら。と、ナナがこちらに携帯の画面を向けた。

 そこにはIRIAを壊す……いや、愛璃を殺すように誘導している会話の一部が表示されていた。

 この会話の相手はおそらく――。


「てめぇっ!! ふざけんじゃねえ!!」


 気づいたときには、俺はナナの胸倉に掴みかかっていた。

 こいつが、こいつが優を引っ掻き回していたのか?



「痛いなぁ……やめてよ、"お兄ちゃん"?」



「うるさい! その顔で、うざってぇ言葉を吐くな!」


 俺はナナを降ろすと、手に持っていた携帯を引っ手繰る。

 その携帯を使い、すぐさま優にメッセージを送る。




 <やめろ!こいつの言うことを聞くな!>




「……くすくす、そんなことをしても無駄なのに」


 ナナは余裕の表情を浮かべている。

 優からの返信を見てみると、そこには<なんのこと?>と書かれているだけだった。



「もうすぐ、もうすぐ"世界は夏休みを迎える"!!」


 突如、車椅子から立ち上がりナナが叫んだ。


「あの馬鹿も、ロボットも、もういなくなる! 私は、私に勝ったんだ!」


 目の前には、ただ狂気があった。

 屋上の柵を乗り越えようと、よじ登り始める。


「全てアカシックレコードの通り! 見て、お兄ちゃん!」


 俺は柵の上に立つナナを見上げる。

 そこには吹き荒れる無数の粉雪と、俺の妹がいた。


「世の中バグだらけ! この世界すらもはやドランカーと言ってもいい!!」


 ナナが力いっぱい叫ぶ。

 雪がこちらにも降り注ぎ、その冷たさが俺の肌に触れては、消えていく。


「あの神気取りの、直人とか言うやつもこの世界線にはもう存在しない!! 全てはあの日! あの日の屋上! あのロボットが受け取った"銀"のせい!」


 ナナが飛び降りようと、その身を空へ投げようとしていた。

 俺は咄嗟に柵を駆け上り、ナナの手を掴んでこちらに引き寄せる。


「駄目なんだ! この世界線じゃ駄目なんだ! こんなんじゃ……!」


 ナナが暴れ、不意にそのバランスを崩す。

 柵の一部が壊れ、俺とナナの身体が空へ投げ出された。


「もういいから、"今回は"もうおやすみ」


 ナナを哀れに思った俺は、水無瀬和真に"なりきる"ことを忘れて、その頭を撫でた。

 俺達の体は一緒に落下していく。

 このままでは地面に衝突してしまうだろうが、何も問題はない。






 俺は画面上に表示された"ログアウト"のボタンを押すと、世界そのものが消えた。


 そうだ、次があるさ。

 "銀"さえあれば、全ての可能性を見ることができる。



 全てはあのロボット――IRIAの手に掛かっている。



 次にIRIAが見る世界はどんな世界だろうか。


 俺はしばらく眠りにつくことにする。

 これで狂気は一度終わり。


 俺は隣で眠ったまま動かないナナの頭を撫でながら、隣に寝そべり一緒に眠ることにした。

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