第三場 十年後の約束
気まずい空気を壊すように栞が手を叩く
栞「タイムカプセル作ろう」
雪弥「急やな」
栞「こういう時はベタなのが一番ええやん」
奏太「埋める場所ない」
栞「埋めんでええ」
雪弥「それただの箱やん」
栞「十年後に開ける箱」
栞が教室の隅から卒業式の飾りが入っていた空箱を持ってくる
栞「はい、一人一個入れて」
雪弥「十年後?」
栞「二十八歳」
奏太「想像でけへん」
雪弥「俺、絶対イケメンになってる」
栞「今からなんの?」
雪弥「お前ほんま最後の日まで失礼やな」
三人笑う
それぞれ自分の持ち物を探す
奏太はシャープペン
栞は写真
雪弥はなかなか決まらない
奏太「二宮は?」
雪弥「待て」
ポケット、鞄、机をさぐる
雪弥「なんもない」
栞「じゃあネクタイ」
雪弥「十年後返してもろてどうすんねん」
奏太「会社につけてく」
雪弥「高校の制服のネクタイで出勤する二十八歳嫌やわ」
笑い
雪弥が生徒手帳を取り出す
雪弥「これでええわ」
栞「ええの?」
雪弥「明日までしか使わへんし」
三人、少し黙る
栞、写真を箱へ入れる
奏太「何の写真?」
栞「秘密」
雪弥「見せろよ」
栞「十年後」
雪弥「忘れてそう」
栞「忘れててもええよ」
雪弥「よくないやん」
栞「忘れてて、開けた時に思い出すのがええねん」
栞、箱の中を見る
栞「ああ、こんなことあったなって」
奏太が静かに言う。
奏太「忘れるかな」
栞「何を?」
奏太「高校」
誰も答えない
奏太「この教室とか。先生の声とか。廊下の匂いとか」
少し考える
奏太「二人の声とか」
雪弥「俺の声は忘れへんやろ。うるさいから」
奏太「今はな」
雪弥が奏太を見る
奏太は机に腰掛ける。
奏太「中学の時、毎日一緒に帰ってたやつおって」
栞「初耳」
奏太「高校別んなって、最初は毎日連絡してた」
奏太、遠くを見る。
奏太「それが三日に一回になって、一週間に一回になって」
少し笑う
奏太「今、そいつの声、ちゃんと思い出せへん」
沈黙。
雪弥「……やめろ」
奏太「何が」
雪弥「そういう話」
奏太「ごめん」
雪弥「だから謝んなって!」
大声
言った雪弥含め三人、驚く
沈黙。
雪弥「……何なん」
拳を握る
雪弥「卒業、卒業って」
二人は黙っている。
雪弥「たった一日やろ」
誰に言うでもなく
雪弥「今日と明日の間に、何があんねん」
黒板を見る
雪弥「今日まで高校生で、明日卒業式やって、それで急に終わり?」
笑おうとする
雪弥「意味分からん」
栞、雪弥を見る
雪弥「昨日まで何とも思ってへんかったのに」
声が少し震える。
雪弥「もっと早く言えや」
奏太を見る
雪弥「東京行くなら」
奏太、黙ったまま
雪弥「そしたら、もっと……何かできたやん」
奏太、小さく答える
奏太「何を?」
長い間
雪弥「知るかボケ」
そして、吐き出す。
雪弥「分からんからいややねん」
沈黙。




