第二場 忘れていたもの
机の中を整理する三人。
雪弥「うわ」
栞「何」
雪弥、机から丸めたプリントを出す。
雪弥「一年の数学の小テスト」
奏太「何点?」
雪弥「見んな」
奏太が奪う。
奏太「十二点」
栞「百点満点?」
雪弥「二十点満点」
奏太「嘘つけ」
雪弥「返せ!」
教室を少し追いかける
栞が笑いながら写真を撮る
雪弥「藤崎!」
栞「自然な表情いただきましたー」
雪弥「消せ!」
栞「嫌」
奏太「卒業アルバムよりいい写真やん」
雪弥「十二点とセットで後世に残すな!」
笑い
やがて奏太が自分の机の奥から何かを見つける
奏太「あ」
二人が見る
古びた紙
栞「何それ」
奏太が広げる
雪弥「……懐かし。一年の時のやん」
栞「何これ」
奏太「覚えてない?」
栞「全然」
雪弥「文化祭の準備んときじゃね? 三年になったらやりたいことって」
栞「こんなん書いた?」
奏太「書いた」
雪弥「お前よう覚えてんな」
三人、紙を見る。
栞「『屋上で昼飯』」
雪弥「やった?」
奏太「屋上立入禁止」
栞「終了」
紙に指を滑らせる
栞「『三人で海』」
沈黙
雪弥「……行ってへんな」
奏太「うん」
栞「『文化祭で優勝』」
雪弥「何に?」
栞「知らん」
奏太「たぶん何でもよかったんやろ」
雪弥「雑やな、一年の俺ら」
栞が最後の一つを読む
栞「『卒業しても三人でいる』」
三人が黙る
雪弥「……おるやろ」
栞「うん」
雪弥「普通に」
奏太「うん」
雪弥「何やねん、その反応」
栞「別に」
雪弥「会えばええだけやん。夏休みとか、年末とか」
栞「そうやね」
雪弥「LINEすればええし、電話やってできるし」
栞「うん」
雪弥「何なら毎日でも――」
栞「毎日はせえへんよ」
雪弥が止まる
栞、静かに続ける。
栞「大学行って、新しい友達できて、バイトして。雪弥は県外やし。奏太やって――」
栞、奏太を見る
栞「……そういえば、奏太って結局どうすんの?」
奏太の表情がわずかに固まる。
雪弥「ああ。俺も聞いてへんな」
奏太、紙を畳む
奏太「就職」
雪弥「知ってる。どこ?」
間
奏太「東京」
雪弥の笑顔が消える
栞「……東京?」
奏太「うん」
雪弥「聞いてへん」
奏太「言ってへんもん」
雪弥「いつ決まった?」
奏太「十一月」
雪弥「は?」
四か月前。
雪弥が立ち上がる。
雪弥「何で言わんかったん」
奏太「言うタイミングなくて」
雪弥「四か月あって?」
奏太「うん」
雪弥「あるやろ。なんぼでも」
奏太は答えない。
栞「雪弥」
雪弥「何」
栞「怒らんくても」
雪弥「怒ってへん」
明らかに怒っている。
奏太「ごめん」
雪弥「謝んな」
奏太「でも」
雪弥「謝られたら、俺が怒ってるみたいやん」
栞「怒ってるやん」
雪弥「うるさい」
長い沈黙
雪弥、窓際へ行く
外を見る。
雪弥「……東京って、遠いやん」
その一言だけ、ひどく子どもっぽい。
奏太が少し笑う。
雪弥「笑うな」
奏太「ごめん」
雪弥「だから謝んなって」
栞は二人を見ている。
窓からの光が少しずつ赤くなっていく。




