第一場 最後の放課後
夕方の教室
舞台中央に机と椅子が数組
黒板に「卒業おめでとう」という文字
窓から差し込む夕日
遠くから運動部の掛け声や吹奏楽部が練習しているらしい、途切れ途切れの音 など
誰もいない教室に栞が一人
スマートフォンを構える。
間を置いて何回かシャッター音
机や黒板などを撮影している
最後に教室全体を撮ろうとしてやめる
雪弥が入ってくる
雪弥「何してんの」
栞、振り返らない
栞「盗撮」
雪弥「被写体おらんけど」
栞「教室を盗撮してる」
雪弥「本人の許可取った?」
栞「三年間お世話になったんで」
雪弥「答えになってへんやん」
雪弥、自分の席に鞄を放る
栞が雪弥にカメラを向ける
雪弥「おい」
シャッター音
雪弥「撮んなって」
栞「最後やから」
雪弥「昨日も撮ってたやん」
栞「昨日は最後やなかった」
雪弥「明日も会うやん」
栞「明日は卒業式」
雪弥「だから?」
栞、スマホを下ろす。
少しだけ間
栞「制服着て、普通に授業受けて、普通に放課後になって、普通にここで喋るのは、今日が最後」
雪弥は一瞬だけ黙る
すぐ笑う
雪弥「重っ」
栞「台無し」
雪弥「いやいや。卒業くらいで世界滅びませんから」
栞「分かってる」
雪弥「明日も会うし」
栞「うん」
雪弥「卒業しても会えるし」
栞「うん」
雪弥「グループLINEもあるし」
栞「うん」
雪弥「だから別に――」
栞「分かってるって」
強く遮る
雪弥が止まる
栞、窓の外を見る
栞「分かってるけど、同じやないでしょ」
沈黙
遠くからどこかの部活の声
雪弥、何か言おうとしてやめる
奏太、コンビニ袋をさげて入ってくる
奏太「おった」
雪弥「遅い」
奏太「購買閉まってた」
雪弥「知ってる」
奏太「やからコンビニ行った」
袋を机に置く
中にはジュースや菓子
栞「何これ」
奏太「最後の晩餐」
雪弥「死ぬの?」
奏太「高校生活が」
雪弥、奏太を見る
栞、吹き出す
雪弥「お前までそっち側行くなよ」
奏太「どっち側?」
雪弥「卒業をやたらエモくする側」
栞「ええやん。最後くらい」
雪弥「最後最後言うなって」
二人が雪弥を見る
雪弥「……何」
奏太「別に」
栞「別に」
奏太と栞、目を合わせる
雪弥「腹立つな、お前ら」
三人笑う
奏太が袋から菓子を取り出す
三人、それぞれ適当な席に座る
奏太「これ、誰の机やろ」
雪弥「知らん」
栞「三年間同じクラスやのに?」
雪弥「全員の机覚えてる方が怖いやろ」
奏太「二宮の席は覚えてる」
雪弥「そりゃ友達やん。覚えてて」
奏太「栞のも」
栞「ありがとう」
奏太、教室を見渡す
奏太「でも来月には、知らん人がここ座ってるんやな」
雪弥、菓子を食べる手を止める
雪弥「……やから?」
奏太「いや。変な感じやなって」
栞が空いている机を見る
栞「私たちがおらんようなっても、普通に次が始まるんやね」
雪弥「当たり前やん」
栞「うん」
雪弥「……何」
栞「何でもない」
時計の秒針の音




