第3話:【便乗・側室希望の従者たちと、爆破リフォームの足音】
対面に座るさくらちゃんは、純白の神衣を翻しながら「にこ」と、一寸の濁りもない太陽のような笑顔を浮かべている。だけど、その愛らしい垂れ目の奥にある光は、完全に「蓮くんとの婚姻届(神の宣誓)」を力ずくで受理させる気満々の、極上のヤンデレ霊圧をピキピキと放っていた。
「ちょっと待ってさくらちゃん。また、君と一緒にいられるのは嬉しいけど、結婚はさすがに心の準備が……」
僕はコタツの布団をギュッと胸元まで引き上げながら、額に手を当てて言った。
「あらあらぁ。新入りの神様、ずいぶんと大胆な夜這い……いえ、プロポーズですねぇ。ですが、お姉様は今夜、私のお布団で赤ちゃんに戻る予定なのですよぉ」
右隣からハヤテさんが漆黒の羽をバサリと広げ、笑顔の目が一切笑っていない聖母のプレッシャーでさくらちゃんを牽制する。
「何を仰いますか、ハヤテ。お姉様が男の器であらせられる今世、合法的に最初の契りを交わすのはこの私にございます。お姫様だろうが神様だろうが、横からお姉様をかっさらおうだなんて品格を疑いますねぇ」
左隣のタマさんも九つの尾を逆立たせ、琥珀色の瞳を妖しく濡らしてコタツの和室の気圧をリアルタイムで【陥没】させにかかっていた。
(アカン、コタツの上の肉じゃがが怪異お姉様ズと新参神様の嫉妬の霊圧で完全にフリーズ(凍結)しとる……!)
僕の男子高校生としての貞操が、新年初手から三つ巴の包囲網によって完全に【消滅】の危機を迎えていた、まさにその瞬間だった。
さくらちゃんの後ろに開いていた桜色の光のゲートから、サラサラと眩しい粒子を翻して、あの二人の従者がさらに一歩前へと踏み出してきた。
「――お姫様の仰る通りにございます、お姉様。お姫様が正妻として蓮くんの元へ嫁がれるのでしたら……」
ハラハラと舞い散るピンクの花びらを身に纏い、あの艶やかなお姉様トーンでスッと跪いたのは、桜の精だった。彼女はさくらちゃんの神使としての品格を保っているかのように見えたが、僕の制服姿を見つめた瞬間、その琥珀色の目を信じられないほどの恍惚でドロドロに濡らした。
「お付きの者である私どものことは、ぜひ『側室(愛人)』として、その男の器のお布団へ同時に滑り込ませていただきたく存じます……っ! さあ、正妻の目を盗んで、今夜こそ私の花びらを一枚残らず散らす覚悟で、朝まで激しく――」
「従者が主君の婚姻に便乗して自分の肉食系な欲望(下ネタ)を100%詰め込んで帰って来てんじゃねえよ!」
僕の喉から、アパートの壁を物理的に粉砕しかねないほどの関西弁ツッコミが漏れた。
「何が『ぜひ側室に』やボケェ!! 神様のバーター(おまけ)みたいな手軽さで僕の純潔をサイドメニューから注文しにくるな!! お前らのやってることは純愛のサポートやなくて、ただの年中無休のサクラ満開パニックの再放送やろがい!!」
「うふふ、お姉様。私もお姫様の側室(二番手)の枠として、大人の事務処理並みの手際で、お姉様の健康寿命をカツアゲしに参りましたよぉ」
続いて一歩前へ出て、蛇の目傘をペロリと舐めるような手付きで微笑んだのは、第2章の雨女だった。彼女もまた、清らかな水の霊気を放ちながら、その頬を真っ赤に染めてうっとりと僕を見つめている。
「お姉様に毎日あの神速のスナップで調伏(どつき回し)していただけるなら、私どもの霊体が物理的に【溶解】して宇宙の塵になろうとも、一寸の悔いもございませんからねぇ……っ(ぽっ)」
「ドMのバグが天界の加護によってさらに強固なコンクリートで固まってるじゃないか。誰が魂まで溶解させる規模で毎日ハリセン振るうかよ。というかお前ら2人とも、成仏した引き換えにツッコミを求める禁断症状が天井抜けて帰ってきてるな」
一息で、全宇宙を論破するマシンガンツッコミを叩き込む。
タマさんの合法狂信、ハヤテさんのお布団バブみ、さくらちゃんのヤンデレお嫁さん急襲に加えて、桜の精と雨女のドM側室便乗。アパートの六畳間は、完全に現世の公序良俗が跡形もなく【蒸発】した怪異ハーレムの臨界点を突破していた。
「ふふ、蓮くん、騒がしくなっちゃってごめんなさい(にこ)」
さくらちゃんは、自分の従者たちの暴走すらも「愛の形」として全肯定するような女神の笑みを浮かべ、コタツの上から僕の手元へとそっと手を伸ばしてきた。
「でもね、これで準備は万端だよ。タマさんもハヤテさんも、みんなで一緒に蓮くんを世界で一番幸せにするハーレム(お布団)を作りましょ――」
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッッ!!!
地響きなんて生易しいものじゃない。アパートの敷地全体、いや、現世の時空そのものが底抜けるような、圧倒的に不穏で、そして聞き覚えがありすぎる「激重な足音」が、路地裏の向こうからリアルタイムで近づいてきたのだ。
同時に、僕たちの部屋の窓ガラスが、強烈な青い炎の霊圧によってパキパキと音を立てて【崩壊】の悲鳴を上げ始めた。
(……この、世界の不動産価値を一瞬で更地にしにくる、最悪の爆破予告の霊圧は……っ!?)
「――急急如律令ッッ!! 俺のいない数日間のログの裏で、しれっと側室だの正妻だの、お前たちの身勝手な不条理ハーレム設定を千鶴(蓮)に付け足してんじゃねえぞボケナスどもォォォアアアッッッ!!!」
大気を引き裂く、あの地獄の底から這い戻ってきたストーカー陰陽師の絶叫。
アパートの外壁が青い炎によってドガァァァンとリフォーム(爆破)される不穏な地響きと共に、物語は新年初手から、一寸の慈悲もない大爆発ギャグの局面へと突き進んでいくのだった。




