第4話:【急転・千手観音の学園防衛ハリセン】
「――おい待てコラ身内一同ォォォオオオ!! 俺の唯一の現世のオアシスをガチの精神的【崩壊】に追い込んで引きこもり一歩手前まで不登校にすなやボケナス共ォォォアアアッッッ!!!」
大気をビリビリと震わせる、怒髪天を衝くような関西弁の怒号。
僕の魂の最深部から強制起動した『ツッコミ姫・千鶴』の防衛システムが、怒りのあまりトップギアを通り越してオーバードライブした。
純白のウェディングドレスの裾を激しく翻し、僕は両腕をクロスさせるようにして一気に振り抜いた。その瞬間、僕の両手に霊力で物質化したのは、一振りや二振りではない。怒りの霊圧によって千手観音のごとく無数に増殖した、黄金に輝く『学園防衛型・多連装ハリセン』だった。
「まずはお前や変態陰陽師ィィィ!! 劇のシナリオに1ミリもない爆破シーンをアドリブで勝手に追加して体育館の屋根を消滅させるなボケェ!! 建て替える予算がクラスの文化祭予算3万円の中に収まるわけないやろがい!!」
――パコォォォォォンッッッッ!!!
「ぶふぉっ!? 懐かしき千鶴の……乱れ打ち(ごほうび)……っ!?」
空気を爆縮させるような神速のスイングが、降臨したばかりの暁の無駄に整った顔面のど真ん中へと一直線にクリーンヒットした。暁は千年間待ち望んだ極上の衝撃に白目を剥き、恍惚の表情で鼻血を噴き出しながら、時速500キロの弾道ミサイルと化して天井の開いた秋空の彼方へと垂直に【一瞬で蒸発】していった。
「次はお前らやお姉様怪異共ォォォ!! ええ話風に僕の日常を守るフリしながら、どさくさに紛れてまた僕を拉致して押し入れに直送しようとしとんの全部バレとんねん!!」
――パコパコォォォォォンッッッッ!!!
「「ひゃうんっ!?」」
左右への完璧な同時スナップ。
白のパンツスーツを完璧に着こなしたタマさんと、ドレス姿のハヤテさんは、頭から盛大に霊力の火花を散らしながら、シンクロするような美しい放物線を描いて吹き飛び、ステージの左右の頑丈なコンクリート壁に綺麗な人間型のクレーターを並べてズブズブと【陥没】していった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ! ほんまにどいつもこいつも、僕のささやかな普通の青春を数分で世紀末の覇権争いにジョブチェンジさせるなや」
多連装ハリセンを肩に担ぎ、ドレス姿のまま息を整える僕の胸元で、全ての元凶である『魅了のドレス』の怪異が、あまりのツッコミの風圧と理不尽な破壊力にガタガタと震えながら僕を見上げていた。
「な、何よその激しすぎるドレス捌き(ツッコミ)……っ! 私、着た人間を絶世の美女にして周囲を狂わせる怪異なのに、中身のツッコミの霊圧が強すぎて、周囲どころか身内の理性が一番最初に【溶解】してるじゃないのよぉ……っ!」
「お前もやドレスの怪異ィィィ!! 人のクラスのヒロイン役を勝手に保健室送りにした挙句、僕にこんな画面のカロリーが高すぎる女装させおってからに! 誰が誰もが傅く絶世の美女や、こっちはなよなよ美少年として可愛い女子とタピオカ飲む現世の青春を夢見とんねんボケェ!!」
――パコォォォォォンッッッッ!!!
本日一番の完璧な打点。脳頭頂部へと炸裂した魂の説教ハリセンを喰らったドレスの怪異は、歪んだ魅了の未練を一撃で粉砕され、
「あふぅん……この圧倒的な正論の打撃、満たされましたわ……(ぽっ)」
ドレスの呪いが解けた瞬間、客席で生ける屍のようになっていた全校生徒たちの目がパチパチと瞬き、元の正常な意識へと戻っていく。
それと同時に、僕の身体を包んでいた純白のウェディングドレスもサラサラと光に溶け、いつもの見慣れた制服の姿へと戻っていったのだった。
静寂が、再び屋根の消え去った体育館に戻ってくる。
僕はハリセンを消滅させ、深くため息をつくと、ステージの袖でまだ【完全なる真顔】のまま固まっているオアシス(陣内)の元へと駆け寄った。




