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第5話:【結・太鼓の更地と、オアシスの限界突破】


「――おい待てコラお姉様怪異共、ゲームのテンポに乗せて僕を天界(押し入れ)に強制連行しようとするなやボケナス第二形態ィィィ!!!」

大気を引き裂く、ドスの利いた関西弁の爆裂。

一瞬の迷いもなくツインドライブで物質化した二振りの『黄金のハリセン』が、僕の両腕の筋肉をフルパワーで駆動させ、タマさまとハヤテさんの美しい顔面へと同時に一直線に振り抜かれた。

――パコォォォォォンッッッッ!!!

ゲームセンターの爆音のBGMさえも一瞬でかき消す、完璧な打点の本本日一番の乾いた破裂音。

激しい霊力の火花を散らしながら、二大怪異お姉様はシンクロするような美しい放物線を描いて吹き飛び、ネオンが煌めく『太鼓のリズムゲーム』の筐体の左右の太鼓のド真ん中へと、それぞれズブズブと綺麗にめり込んでいった。

「はぁ、はぁ、はぁ……っ! 何が魂の波動を合わせた拉致メロディやねん! 周りの子供らが『あの太鼓のゲーム、叩いたら人が吸い込まれる仕様なんだ』ってガチのオカルトホラーを見る目でこっち見とるやろがい!!」

僕は手元でサラサラと消滅していくハリセンの残滓を握りしめ、息を整えながら叫んだ。

「ああ……っ、はぁ……っ! お姉様の神速のビート……! 脳髄の細胞一つひとつに、至高の協奏曲ツッコミが直接刻み込まれました……っ。男の器になられても、この魂を強制調伏する完璧な打撃のスナップ、やはり私のお姉様(姫)そのもの……っ(ぽっ)」

太鼓の筐体からズブズブと這い出てきたタマさんは、白のパンツスーツを少しも乱すことなく、鼻からたらりと一筋の鮮血を流しながら、恍惚とした表情で自分の体を抱きしめて身悶えしていた。どこまでもブレない狂信者っぷりである。

「あらあらぁ、太鼓の面ごと吹き飛びましたよぉ。お姉様のキレのある二重奏、眼福ですねぇ」

ハヤテさんも頭から火花を散らしながら、笑顔の目が一切笑っていない聖母の微笑みで筐体から抜け出してくる。

「嬉しそうにリズムゲームから生還してくるなボケ共ォォォ!! あと太鼓の面は完全にロスト(破損)しとるからな!!」

一息でマシンガンのごとくツッコミを叩き込む僕の隣で、ぬいぐるみの山から無言で這い出てきた陣内が、頭にクマのぬいぐるみを乗せたまま、ゆっくりと、その膝を砂利(ゲーセンの床)へと突いた。

その目は、もはやこの世のあらゆる感情の光を失った完全なる『虚無の深淵』と化しており、ガタガタと震える手で、店員さんに向かって財布から取り出した万札と、自分の『トリプルアタック胃腸薬』の箱を無言で差し出した。

「すいません……。あの太鼓、ちょっと連れのビートの霊圧が強すぎてリフォーム(器物破損)してしまいました……。お釣りは筐体の加護(修繕費)に充ててください。あと、これは俺の一般人としての限界の塊(胃薬)です……。俺、今から有給申請の書類を書いて、人生の防犯カメラのデータをハッキングしてくるわ……」

「店員さんに自分の限界を押し付けないでくれよ陣内くん。事務処理能力が高すぎて一般人の領域を超えとる」

夕暮れ時。茜色に染まるアパートへの帰り道。

陣内は「俺の現世のアンカーとしての役目は終わった」と言い残し、駅前のドラッグストアで一番強い胃薬をダース買いして自分の家へと逃げ帰っていった。

僕と、タマさんと、ハヤテさんの三人だけになった静かな路地裏。

僕の両手には、タマさんが獲ってくれた可愛いぬいぐるみと、ハヤテさんと爆走したレースゲームのスコアシートが握られていた。

ハリセンで二回もぶちのめして、カフェもゲーセンも物理的に更地にしてしまったけれど。

僕は、夕日に照らされる自分の影を見つめながら、少し顔を赤くして、隣を歩く二人の大怪異を振り返った。

「……タマさん、ハヤテさん。あの、色々ボコボコにしちゃって、ごめん」

「「え……」」

タマさんがその切れ長の琥珀色の瞳を大きく見開き、ハヤテさんもおっとりとした足を止めて、驚いたように僕を見つめた。

「でも、僕……今日、本当に楽しかった。普通の男の子として、こういう普通の場所に遊びに行くの、ずっと憧れだったから。……僕が男のままでいいって、今の僕が愛おしいって言って、こんな風にたくさん甘やかしてくれて、ありがとう」

僕が少し照れながら、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてそう言うと。

タマさんは一瞬だけ、気高い妖狐の品格を忘れた少女のようにぽっと頬を薔薇色に染め、それから男の僕が本気で胸を打たれるほどの、この上なく愛おしそうな極上のソプラノボイスで囁いた。

「何を仰いますか、お姉様。男の器であらせられる今日のお姉様のその愛らしき笑顔を拝見できただけで、このタマ、生涯の誉れにございます。……さあ、アパートへ戻りましたら、次はわたくしの作った特製の肉じゃがで、お姉様のお腹を限界まで甘やかし尽くして差し上げましょうね」

 その一瞬だけ、タマさんの琥珀色の瞳から、妖狐の気品が消えた。ただ静かに、目を細めて、僕の顔を見ていた。

「あらあらぁ! 私もお布団を最高にフカフカに温めて待っていますからねぇ、お姉様!」

 ハヤテさんも、大きな羽をほんの少しだけ僕の肩に向けた。風よけのように。

二人の大怪異の瞳に、再び限界突破した恍惚と喜びの輝きが満ちていく。

「うん、肉じゃがはめちゃくちゃ楽しみ。……だけどお布団は禁止だって言ってるんだよ」

夕暮れの街に、僕の静かな、だけどどこか幸せそうなツッコミの残響が響き渡る。

*  *  *

 夜、布団に潜り込んで天井を見つめた。

 タマさんが「男の器のままでいい」と言ってくれた。ハヤテさんが羽で風を遮ってくれた。二人とも、あんなにボコボコにされたのに、夕暮れの道を笑いながら歩いてくれた。

まるで、家族のように。

 胸の奥が、じんわりと温かくなった。痛くない。ただ温かい。

暁の放つ「運命の純愛」に揺さぶられ、お姉様たちの「日常の愛」に完璧に癒やされながら、僕のなよなよ男子高校生としての青春は、カオスな優しさに包まれてどこまでも続いていくのだった。


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