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第4話:【日常・ゲームセンターの神業と、お姉様方の無邪気な日常愛】


「凄いな。最近のゲームセンターってこんなに進化してたのか」

ピコピコと鳴り響く電子音、色鮮やかなネオンの光、そして最新の体感ゲームの数々。

一歩足を踏み入れた瞬間、僕は静かに目を輝かせていた。実家が古い神社で、普段から怪異に囲まれている僕にとって、こういう「同年代の男の子が普通に遊ぶ場所」は、ずっと憧れの眩しい空間だったのだ。

「ふふ、お姉様がそのように瞳を輝かせてくださるなら、わたくしどもがこの遊戯場ステージの全てをプロデュースして差し上げましょう」

白のパンツスーツのポケットに手を入れ、まるで劇場のロビーを歩くかのような優雅さで僕の隣を歩くタマさん。

「そうですよぉ、お姉様。まずはあちらの、景品を吊り上げる遊戯クレーンゲームに挑戦してみましょうねぇ」

ハヤテさんもおっとりとした聖母の微笑みを浮かべ、僕の歩調に優しく合わせてくれる。

ガラスケースの中に並ぶ、今流行りの可愛いキャラクターのぬいぐるみ。僕が「あ、これクラスの女子の間で可愛いって噂になってたやつだ……」と小さく呟いた、その刹那だった。

「お姉様、そこでお待ちください。お姉様が日常で愛用されるのに相応しいお品、わたくしの九尾の誇りにかけて、一瞬で掠め取ってご覧に入れましょう」

タマさんはスッと筐体の前に立つと、圧倒的なトップスターの気品を崩さないまま、100円玉をエレガントに投入した。

その切れ長の琥珀色の瞳が、獲物を狙う本物の妖狐の鋭さへと変わる。レバーをミリ単位で操作し、ボタンをリズミカルに叩く一連の動作が、無駄に洗練されていて美しすぎる。

ガコン、と小気味良い音がして、一発でアームがぬいぐるみの重心を完璧に捉え、取り出し口へと滑り落ちてきた。

「どうぞ、お姉様。現世の『男の器』で毎日を健気に生きるあなたへ、私からの小さなお贈りものです」

タマさんは懃懃に膝を突き、まるで極上の薔薇の花束を捧げるかのような手付きで、僕にぬいぐるみを差し出した。

「凄いな、タマさん。ありがとう」

受け取ったぬいぐるみのフカフカとした感触に、僕は静かな笑みを浮かべた。

暁の放つ愛が「千年の時を跨いで世界をリフォームする烈火」なら、タマさんが今こうして僕に見せてくれているのは、**【今、現世を生きる僕の目線に寄り添ってくれる日常の愛】**だった。前世の千鶴姫としてではなく、ただの『姫宮蓮』としての小さな喜びを、彼女は全力で満たそうとしてくれている。その優しさに、僕の胸がじんわりと温かくなっていく。

「あらあらぁ、タマばかりお姉様を笑顔にしてずるいです。お姉様、あちらの乗り物の遊戯レーシングゲームで、私の大天狗としての神速のドライビングテクニックをお見せしますねぇ」

ハヤテさんが僕の手を優しく引き、大型のレースゲームのシートへと僕を誘う。

ゲームが始まると、ハヤテさんはおっとりとした口調とは裏腹に、時速300キロの画面の中を漆黒の羽を羽ばたかせるがのごとき超絶テクニックで爆走し、ギャラリーの一般人たちから「おい、あの綺麗なドレスの女性、プロのレーサーか何かか!?」と歓声が上がるほどの大記録を叩き出した。

ゲームセンターの喧騒の中、お姉様たちの無邪気で、だけど僕を喜ばせようと必死になってくれる姿に、僕は男の子としても、前世の魂としても、完全に癒やし尽くされていた。

「……なぁ、姫宮。お前が怪異ハーレムの圧倒的な福利厚生に包まれて、少女漫画のヒロインみたいな潤んだ瞳でキュンとしてるの、本当に贅沢すぎて一般人の俺の神経がガリガリ削れてんだけど」

僕たちの後ろを、両手に大量のコインと胃薬の箱を抱えた陣内が、完全に生気を吸い尽くされた顔でトボトボと付いてきていた。

「俺さ、お前らがカフェを物理的にリフォームした損害を一般人としての事務処理(大人の対応)で揉み消してから、もうメンタルが限界突破してんだけど。なんで俺、カップルだらけのゲーセンの真ん中で、大怪異2人の『どっちがより姫宮をオギャらせるか決戦』のスコアキーパー(記録係)やってんの? マジでカウンセリング代請求していいか?」

「見捨てないでくれよ陣内くん。君がそうして一般人の限界をリアルタイムで実況してくれないと、僕、お姉様たちのバブみの泥沼に骨まで溶かされて現世に帰ってこれなくなるから」

僕が必死にオアシス(陣内)を繋ぎ止めていた、その時。

「ふふ……お姉様。日常の遊戯を十分に堪能された後は、あちらの『太鼓を叩いて音律を刻む遊戯リズムゲーム』で、私どもの愛の協奏曲デュエトを奏でましょう」

タマさんが僕の手首を優しく握り、琥珀色の瞳を妖しく濡らした。

「そうですねぇ、お姉様。私とお姉様が魂の波動を合わせて太鼓を叩けば、空間の境界線が開き、そのまま天界の最高級のお布団へと直送される極上のメロディが完成しますよぉ」

(待って。日常の楽しいデートのフリして、最後はやっぱりリズムゲームの超常現象で僕を拉致する気満々なんだな、この人たち)

お姉様たちの甘やかし欲が、ゲームの興奮によって再び臨界点を突破し、筐体の周囲に禍々しいまでの妖気と烈風がバリバリと渦巻き始めた。

だが、今日の陣内は一味違った。

「……はい、ストップ」

両手にコインの山を抱えたまま、陣内が地を這うような声で二人の間に割って入る。

「お前らのその『甘やかしのフリして拉致る』パターン、もう三回目なんだよ。学習したわ、俺。次に変な妖気出した瞬間、俺が先に店員さんとこ行って詫び入れてくるから、もう姫宮に指一本触れさせ――」

陣内が言い切るより早く、タマさんとハヤテさんの瞳が同時にスッと細められた。

「あらあら、陣内さん。一般人風情が、私どもとお姉様の愛の周波数に割り込もうだなんて」

「ふふ、可愛い邪魔ですねぇ。でも、お気持ちだけ受け取っておきますね」

二人の指先が、まるで何でもないことのようにそれぞれ陣内の肩に軽く触れた瞬間、彼の体は綺麗な放物線を描いてクレーンゲームの景品コーナーへとダイブし、山積みのぬいぐるみに埋もれて沈黙した。

「陣内くん!?」

学習したはずの一般人の犠牲を踏み台に、お姉様たちの霊圧は何の障害もなく、むしろ先程より禍々しく膨れ上がっていく。

ピキィィィン――。

社会的かつ肉体的な貞操のアラートが、僕の魂の最深部で本日二度目の強制起動を果たした。


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