第3話:【オチ・オシャレ空間の物理崩壊と、仕切り直しの日常愛】
オシャレなカフェの店内に、およそ鳴り響くべきではない「パコォォォン!!」という激烈な乾いた破裂音が二重奏となって轟いた。
完璧な打点とスナップを食らったタマさんとハヤテさんは、まるでラグジュアリーなインテリアの一部であるかのように美しくスピンしながら吹き飛び、カフェの頑丈なコンクリート壁に見事な人間型のクレーターを二つ並べてズブズブとめり込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ! オシャレカフェのど真ん中で何が試着室(密室)の個室攻略やねん! 周りのお客さんが恐怖と困惑で通報のダイヤルに指かけてるやろがい!!」
僕は手元でサラサラと消滅していく二振りの黄金ハリセンを握りしめ、息を整えながら言った。
周囲の一般人のお客さんたちは、大怪異たちの放つ高密度の霊圧のせいで「今、ものすごい突風が吹いてインテリアが激しく鳴った」としか認識できていないようだったが、僕に向けられる「あのなよなよした男の子が急に激しいパントマイム(ツッコミ)を始めたぞ」という不審者を見るような視線は防ぎようがなかった。
「ああ……っ、はぁ……っ! カフェの雑踏の中でいただくお姉様の神速の打撃……! 脳髄がラグジュアリーに揺さぶられます……っ。男の器になられても、この完璧な間はやはり私のお姉様(姫)そのもの……っ(ぽっ)」
壁のクレーターからズブズブと這い出てきたタマさんは、白のパンツスーツを少しも乱すことなく、鼻からたらりと一筋の鮮血を流しながら、恍惚とした表情で身悶えしていた。相変わらずボコボコにされて喜ぶ狂信者っぷりが天井抜けている。
「あらあらぁ、パフェの容器ごと吹き飛びましたよぉ。お姉様のキレのあるツッコミ、やはり最高ですねぇ」
ハヤテさんも頭から霊力の火花を散らしながら、笑顔の目が一切笑っていない聖母の微笑みで壁から抜け出してくる。
「嬉しそうに壁から生還してくるなボケ共ォォォ!! あとハヤテさんもパフェの容器は完全に弁償やぞ!!」
一息でマシンガンのごとくツッコミを叩き込む僕の隣で、対面の席に座っていた陣内が、ゆっくりと立ち上がった。
その目は、もはやこの世のあらゆる感情をパージした完全なる『虚無の深淵』と化しており、ガタガタと震える手で店員さんを呼び止めると、伝票と一万円札、そしてなぜか自分の『トリプルアタック胃腸薬』の箱を死んだ魚の目で差し出した。
「すいません……。ちょっと連れが急に激しい身内ノリのコントを始めてしまって……。お釣りは壁の修繕費(リフォーム代)に充ててください。あと、これは俺からの心ばかりの胃薬です……」
「店員さんに自分の胃薬をチップ代わりに渡さないでくれよ陣内くん。迷惑のベクトルが一般人の領域を超えとる」
陣内に襟首をガシリと掴まれ、僕は恍惚の表情のタマさんとハヤテさんを引きずるようにして、ほうほうの体でカフェを脱出したのだった。
「……申し訳ありません、お姉様。合法的に契れるという至高の愉悦に、つい私としたことが品格を失うような真似をしてしまいました」
賑やかな商業ビルの裏手、人通りの少ない路地裏。
タマさんは、スリーピースのスーツをキリッと正し、ハンカチで鼻血を綺麗に拭き取ると、宝塚のトップスターのごとき圧倒的な気品と懃懃さを取り戻して、僕の前に美しく跪いた。
「私も反省しておりますよぉ、お姉様。お姉様が男のお体で色々と悩み、疲弊していらっしゃるというのに、初手から天界のお布団へ連れ込もうだなんて、少々配慮が足りませんでしたねぇ」
ハヤテさんも、バサリと漆黒の羽を収め、僕のなよなよとした佇まいを労わるような、絶対的な理解者のオーラを放って小さく頭を下げた。
「あ、いや……分かってくれたならいいんだけど……」
お姉様たちのそのブレない懃懃さと、僕の「男としての疲れ」を察してくれる優しさに、僕の脳内男子高校生担当は、少しだけ居心地の良さを感じて頬を赤らめた。
「お詫びと言ってはなんですが、お姉様」
タマさんがゆっくりと立ち上がり、琥珀色の瞳に、狂気ではない『心からの日常の愛』を灯して僕を見つめた。
「あのような気取ったカフェではなく、お姉様がずっと『普通の高校生として行ってみたい』と仰っていた、あの賑やかな場所へ……私どもをお供させていただけないでしょうか?」
タマさんが細い指先で指し示したのは、ビルの向かいにある、大音量のBGMとネオンが煌めく賑やかな『ゲームセンター』だった。




