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第8章:タマとハヤテの、秋のデート甘やかし頂上決戦 第1話:【日常・お姉様たちのおめかし合戦と、限界一般人の有給申請】



「……なぁ姫宮。俺、今日という日曜日をやり直すために、今からタイムマシンの開発に着手しようと思うんだけど、どう思う?」

日曜日の朝。僕の狭い六畳間の和室の片隅で、陣内が「トリプルアタック胃腸薬」のアルミシートを虚無的にペキッと鳴らしながら、掠れた声で呟いた。

「見捨てないでくれよ陣内くん。君が『万が一のときのハリセンのストッパー役』としてそこにいてくれないと、僕、今日一日で男子高校生としてのいろんな一線を越えさせられて、明日からアパートの押し入れに戸籍ごと埋没することになるだろ?」

僕はクローゼットの前で、お出かけ用の私服を握りしめたまま小さく息を吐いた。

事の始まりは数日前。旧校舎の幽霊鏡編で、男の身体である僕をまるごと全肯定してくれたタマさまとハヤテさんへ、僕がうっかり口を滑らせて「お礼のデート」を約束してしまったことだ。

あの瞬間の、二大怪異お姉様方の目が「キラーン(極上の獲物を見つけた音)」と輝いた恐怖を、僕は一生忘れない。

そして迎えた当日。僕のアパートの境内(ただの畳の間)は、新学期早々、完全に別の世界の社交場タカラヅカへと変貌を遂げていた。

「お姉様、お待たせいたしました。わたくしのこのおめかし、お姉様の美しい瞳に映るに値するでしょうか?」

スッと襖を開けて現れたタマさんは、男の僕が本気で惚れそうになるほど圧倒的な気品と色気を放っていた。

いつもの着物姿ではなく、白の気高いスリーピースのパンツスーツ。艶やかな銀髪をハーフアップにまとめ、切れ長の琥珀色の瞳には、宝塚のトップスターがそのまま現世に降臨したかのような、懃懃で洗練された麗人オーラが満ち満ちている。鼻血こそ出ていないものの、僕を見る目は完全に「男の器のお姉様を合法的にエスコートする気満々」のドM狂信者そのものだった。

「あらあらぁ。タマ、ずいぶんと男装の麗人を気取って格好つけていますねぇ。ですが、今日のお姉様は、私の天界の包容力バブみで丸ごと甘やかされる予定なのですよぉ」

対抗するようにハヤテさんがフワリと翼の羽を揺らして微笑む。

ハヤテさんは、透け感のあるおっとりとした漆黒のロングドレスを身に纏い、その圧倒的な「聖母の微笑み」で空間の酸素をすべて優しく吸い尽くさんばかりのオーラを放っていた。

二人の大怪異が、僕の狭い六畳間で「どっちがより僕を甘やかし尽くせるか」という静かなマウンティング合戦を繰り広げている。その結果、部屋の中の霊圧が限界突破して、僕のパソコンの画面が「甘・甘・甘」という謎のエラー文字で埋め尽くされていた。

「あの、タマさん、ハヤテさん。二人とも無駄に綺麗だしめちゃくちゃ気合い入ってるのは嬉しいんだけど、空間の気圧がおかしいから一回霊圧を引っ込めてくれないかな」

「何を仰いますか、お姉様」

タマさんがしなやかな足取りで僕に近づき、極上のソプラノボイスで僕の耳元に囁いた。

「男の器であらせられる今日のお姉様は、私が世界で一番贅沢なデートで骨抜きにして差し上げます。さあ、まずは私のお見立てしたこの衣服にお着替えを――」

「ダメですよタマ、今日のお姉様は私のお布団……いえ、私のエスコートで、最初から最後まで赤ちゃんのように甘やかされるのですからねぇ」

「……二人とも、距離が近いな。左右からの美形お姉様アプローチのカロリーが高すぎて、僕の脳内の処理が追いつかないんだけど」

押し寄せる耽美な誘惑に、僕の心臓はそれなりに騒いでいた。

そのとき、部屋の隅から「ズズズ……」と、ガチの生活の疲れを背負った男の重い声が響いた。

「……なぁ、お前らさ」

陣内が、完全に死んだ魚の目で僕たちを見つめながら、胃薬を冷たい缶お茶で流し込んだ。

「一般人の俺から言わせてもらうと、お前ら怪異2人は愛の出力の調整弁が消し飛んでるし、姫宮は姫宮で『左右からの二重純愛ホールド』を食らいながら顔を真っ赤にしてるし、画面の情報量が多すぎて俺の胃壁がさっきからリアルタイムで更地になってんだけど。俺、今日帰っていいか? マジで有給(高校生だけど)欲しいんだけど」

「置いていかないでくれよ陣内くん。君のその一般人としてのガチの疲弊だけが、僕をこの現世に繋ぎ止める唯一のアンカーなんだから」

僕は陣内の服の裾を掴み、引き止めた。

「ふふ、一般人の少年よ、安心なさい。お姉様の『お供』としての役目を果たすならば、相応の褒美(怪異の加護)を与えましょう」

「そうですねぇ、デートの後は私がお布団で一緒に看病してあげますからねぇ」

「それ一般人への嫌がらせ(恐怖)にしかなってねえよボケ共ォォォ!!」

出発前から安定のツッコミが炸裂する。

しかし、お姉様たちの「男の子のあなたのままでいい」という、あの旧校舎での甘い肯定の残響が、僕の頬をほんのりと赤く染めているのも事実だった。

「……よし。それじゃあ、二人とも。……行こうか、デート」

僕が少し照れながらそう言うと、タマさんとハヤテさんは、一瞬だけ少女のように嬉しそうに目を丸くし、それから極上の笑みを浮かべて僕の両隣にピタリと寄り添った。

こうして、一般人1名(瀕死)を巻き込んだ、不条理にして最高に贅沢な**『大怪異お姉様ズによる、なよなよ男子高校生甘やかし頂上決戦』**の幕が、ついに切って落とされるのだった。


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