第4話:【急転・半拍遅れの絶対防衛ハリセンと、鏡の成仏】
お姉様たちの、どこまでも贅沢で耽美な抱擁と、深い口づけ。
タマさんの九つの尾が僕たちを優しく包み込み、外界から切り離された三人だけの神聖なロマンス空間が完成していた。
男の僕のままで、ここに生きていていい。
その言葉が、どれほど僕の傷ついた心に染み渡り、魂を救ってくれたことか。
お姉様たちの温もりに身を委ね、僕の胸の奥のモヤモヤが完璧に溶けていく――その、極上のタメ(余韻)の、わずか半拍後。
「ふふ、素晴らしい……。お姉様のお身体、すっかり私どもの香りに染まってしまわれましたね。何を仰いますか、男の器になられたお姉様とこうして合法的に契れるなど、正に天上の愉悦。さあ、このまま押し入れへ直送し、朝まで――」
「あらあらぁ! 私もお布団の準備は万端ですからねぇ!」
(待って、感動の全肯定シーンの裏でお姉様怪異たちの『お姉様アプローチ(夜這い)』の本能が全開になってないか)
現世の僕の理性が、別の意味での貞操の危機を察知し、静かに、それでいて確かな警戒を発した。
「――おい待てコラお姉様怪異共ォォォ!! ええ話の最中にドサクサに紛れて男の僕の純潔を上下から同時攻略しにくるなァァァアアアッッッ!!!」
大気を引き裂く、ドスの利いた関西弁の爆裂。
一瞬の迷いもなくツインドライブで物質化した二振りの『黄金のハリセン』が、僕の両腕の筋肉をプロレスラー並みに駆動させ、タマさんとハヤテさんの美しい顔面へと同時に振り抜かれた。
――パコォォォォォンッッッッ!!!
「「ひゃうんっ!?」」
完璧な打点――のはずだった。
衝撃で砕け散った鏡の破片が、まるで意志を持つかのように空中で反射し、まだ名残惜しそうに僕たちを見つめていた鏡の精の頬を、流れ弾のように巻き込んだ。
「ふぇ……っ!?」
狙ってすらいない、まさかの三人目への巻き込みヒット。二大怪異お姉様と鏡の精は、揃って嬉しそうに頭から霊力の火花を散らしながら、鏡の壁を何十枚も突き破って彼方へと弾け飛んでいった。
「……今の、僕も自分で何が起きたか分からないんだけど」
呆然と立ち尽くしたまま、僕は消えていく黄金のハリセンを見つめた。
空間がガラスのようにガラガラと崩壊を始め、僕たちはゆっくりと、現実の旧校舎の廊下へと引き戻されていった。




