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第4話:【急転・インフラ破壊の拡大と、雲の上の学級崩壊】


バリバリバリィィィッッッ!!!

天空の結界、その「時空の壁」が、ガラスが割れるような凄まじい音を立てて粉砕された。

「――お前ら、俺のいないところで俺の姫に妙な設定でイチャついてんじゃねえッッ!!」

空間の裂け目から燃え盛る青い炎と共に乱入してきたのは、般若の如き怒りの形相を浮かべた、あの世界一顔が良い天才陰陽師――神代暁だった。

制服のネクタイを乱暴に緩め、周囲の雲海を一瞬で蒸発させるほどの霊圧を放っている。

「あらあら……」

彼女は僕の上に覆いかぶさった姿勢のまま、おっとり首を傾げた。

「時空の壁を実家の引き戸感覚で爆破してくるなんて相変わらず野蛮ですね、陰陽師。せっかくお姉様が私の胸の中でオギャる一歩手前でしたのに」

「その薄汚い羽をむしって焼き鳥にしてやる、この害鳥が……ッ! 千鶴のシャツのボタンを開けていいのは、前世でも現世でも俺だけだ!!」

(君が言うとただの犯罪セリフなんだよ暁)

僕の脳内パニックが上限を突破するのを置き去りにして、二人の視線が空中で激突し、バチバチと青い火花が散った。

前世からの忠臣(天狗)と、前世の相思相愛(近衛騎士)。主君である僕の貞操と現世の衣服を巡り、千年の時を超えた犬猿の仲が、今ここに完全復活してしまった。

「そこを退け。さもなくば、この空中結界ごと世界を塵にしてやる」

暁が指の間に挟んだ十数枚の呪符が、不穏な黒い光を放ち始める。

「ふふ、お姉様を置いて逃げるわけがないでしょう? 聖母の抱擁、受けて御覧なさい」

彼女のおっとりした微笑みの裏で、漆黒の巨大な羽がバサリと広がり、周囲の空間が猛烈な大突風で歪み始める。

青い炎と、漆黒の嵐。

二人の規格外の霊力が激突した瞬間、雲の上の空間がミシミシと悲鳴を上げた。

「暁! ちょっと待って!」

僕は両者の間に割って入るように叫んだ。

「この人、神隠しの犯人かもしれない。外から見えない結界を張って、僕を空に連れてきた。神隠しで消えた人たちも、こうやって――」

暁の顔が、般若から別の何かに変わった。目が細くなり、呪符を構えたまま彼女と正面から向き合う。

「……害鳥。返答次第では、ここで千切ってやる」

「あらあら。お好きにどうぞ」

二人の霊力が、一気に解放された。青い炎と漆黒の嵐が激突し、空間がミシミシと軋む。雲が引き裂かれ、轟音が響き渡った。

その衝撃で、結界そのものが大きく歪んだ。

その歪みの隙間から、ぼんやりとした光が漏れ出してくる。時空の狭間に、幽霊たちが蠢いていた。ガタガタと震えながら、何かに封じられて動けない状態で。

(あれが……神隠しの本当の原因!?)

「今だ」

暁が言ったのか、彼女が言ったのか、分からなかった。二人が同時に動いた。

暁の青い炎が時空の狭間へと炸裂し、彼女の漆黒の羽が一閃した。幽霊たちの未練が、瞬きの間に白い光となって霧散し、空へ消えていった。

「……チッ」暁が舌打ちをした。「今回の神隠し解決、協力してやった。それだけだ」

「あらあら、ありがとうございます」彼女がおっとりと頭を下げた。「今回の神隠し、お力を借りました。感謝しますよ、陰陽師さん」

(……二人が、神隠しを解決するために組んでいた)

その事実が、じわじわと頭の中に染み込んできた。

ふわり、と。

彼女の大きな羽が広がり、僕の身体がすっぽりと包み込まれた。

「お疲れになったでしょう、お姉様。さあ、私の胸でゆっくりオギャりなさい?」

おっとりした声と共に、新緑の香りが鼻腔を直撃する。雲の上なのに、全方位から聖母の包容力がカンスト値で押し寄せてくる。

「……離れろ、害鳥」

暁の声から、神隠し解決モードが完全に消えた。般若の顔が戻ってくる。

「あらあら。お姉様はお疲れです。今は私が抱っこする番ですよ?」

「千鶴を抱くのは俺だ。お前に触れさせるくらいなら、この空ごと消し飛ばす」

「まあ、物騒ですねぇ。お姉様の筆頭家臣として、移送中の安全確保は私の職務ですよ?」

「職務ぅ? 作戦終わった瞬間に主君をオギャらせようとしてる時点で職務放棄やろがいッ!」

青い炎と漆黒の羽が、また空中でバチバチと火花を散らし始める。

「待て待て待て、主君を雲の上に放置して何ガチの領土争い始めとんじゃワレェ!!」

脳の血管が完全にブチ切れた。

現世の僕のなよなよ精神を、千鶴姫のゴリゴリの武闘派ソウルが完全に叩き出す。

僕は雲の上から跳ね起きると、両手に霊力で編まれた二振りの黄金ハリセンを同時物質化ツインドライブさせた。

「ハヤテお前は忠義の皮被ったただの『超高速・バブみ押し売り露出狂』じゃボケェ! ツッコミの軌道知っとるから何やねん、二刀流の変則軌道でそのおっとりしたつらから叩き直したるわ!!」

「あらあら?」

――パコォォォォォンッッッッ!!!

一閃。彼女のディフェンスをすり抜けた左のハリセンが、美しい顔面を完璧な打点で捉え、彼女はおっとりした顔のまま雲海を何十回も跳ねる水切り状態で彼方へと吹っ飛んでいった。

すかさず、僕は般若の顔で呪符を構える暁へと身体を反転させる。

「あと暁! お前は世界を守る側の陰陽師が、嫉妬のたびに時空の壁リフォームすな!! 爆破のスケールが毎度毎度テロリストのそれなんじゃボケナス!!」

――パコォォォォォンッッッッ!!!

「ぐふっ!? 千鶴……っ!」

完璧なスナップを利かせた右のハリセンが、暁の顔面国宝級の鼻面にクリーンヒットする。暁は嬉しそうに血を吐きながら、そのまま逆方向の雲の彼方へと、凄まじい速度で弾け飛んでいった。

「はぁ、はぁ、はぁ……っ! お前ら、主君の目の前で内乱起こすな言うとんねん!!」

黄金のハリセンを肩に担ぎ、ぜぇぜぇと荒い息を吐く。

二人の暴走ボケを同時に一喝したことで、空中結界の歪みは完全に正され、僕たちはゆっくりと地上へと落下し始めた。


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