073 :// 来賓準備 -1-
「———と、いうわけなんだよ……」
クロアは南魔国から帰ってきて、早々にルミナディア意思決定評議会を招集した。
議題はもちろん、南魔国の使者対策である。
「別に見えてた問題じゃねぇの」
「まーね。でもさー。なんかさー。早過ぎない?」
「どの辺が問題なの?」
「使者って、貴族でしょう? それはかなり厄介よォ……! 貴族相手って大体大変だわ!」
オルウェンは貴族と揉めた経験があるので、よくご存じなのだろう。
困ったわねェ、と溜息を吐いた。
一方でシルフェアナとバーチェークがよくわからない、と首を捻る。
「バリラン先生、よろしくお願いします」
「しゃーねーな」
だるそうなバリランが指を3つ立てた。
「問題つーか、しなきゃなんねーことがあるのは大まかに3つだ。1つめ、迎え入れる設備の対応。
2つめ、ルミナディア自治区住民側への対応。最後に、ルミナディア自治区としての政治的な対応」
ふんふん、と皆が静かに頷く。
「順を追って説明するとだな。まず1つめ、迎え入れる設備の対応についてだ。
相手が貴族ってのもあるが、貴重な取引先、南魔王直属の使者だ。
ルミナディアは国じゃねーから国賓とは言わずとも、相応に賓客扱いしなきゃならんだろ。
物資も人手も常に不足してるってのに、対応しなきゃならねえ。
一日二日の訪問ならまだしも、中長期ってなると必要なものも増える」
「本来なら迎賓館が必要よねぇ~。貴族にも対応した、それなりに豪華なヤツよ」
「ウチにゃあ使用人すら出来るようなヤツぁいねーだろ」
ピンと来ていなさそうな半獣族の2人。
「2人とも、パルマファムの伯爵邸。思い出してみてー」
「……いないな」
「……いないわね」
クロアに言われて半獣族2人は納得したようだ。
ルミナディアの住民は多くが戦闘員。
給仕の一つも出来るか怪しいタイプばかりだ。
「一応、食事も寝泊まりする場所も、最悪住民と同じものになるってソルマンに言って、了承して貰ってるんだけどねー……」
「かと言って何もしないのはマズいだろうな。
最低でも、歓迎していることと、特別扱いしていることが伝わるような対応はしねーとな」
「食事はそう何日も専属対応するのは難しいんじゃないかしら?
ネェガたちもお料理上手だけど、この前食べたみたいなキレイな食事は……」
シルフェアナがクロアを見て、皆がクロアを見た。
「……うん。私が頑張ってそれっぽく作るのが一番いいと思う」
半獣族のメンバーが作るごはんは美味しい。
だが、結構豪快で雑であることは否めない。
貴族に出せるとは言いづらいのが現実だ。
「ネェガは結構ビビリだから、貴族の食事なんて縮こまっちまうぜ?」
「それなら余計にだねー。
口に合わない料理作りやがって、作ったヤツに責任とらせろ! なんてイチャモンつけられたら困るし」
「たしかにクロア……ルミナディアのトップが料理長ってのはおかしな話だが。
クロアが作ったモンなら、何も言えやしねーだろな」
「でも使者が何日滞在するかもわからないのに、クロアが3食作るのは厳しいんじゃないかしら~……。
この子、最近ただでさえ全然寝てないのよ?」
「うっ……」
悲しい現実が、グサリと刺さる。
さらりと家庭内(?)事情をオルウェンにバラされて、クロアは言葉に詰まる。
「初日だけ盛大に歓迎するのはどう? 翌日からは食堂に行ってもらうことにして。
それなら歓迎してるって伝わるでしょうし、口に合わないものがあっても、『みんな同じモノ食べてるから』で通せない?」
「ちょっと弱くねーか」
皆が唸り、各々考える。
「えーとよ。オレたちが使う食器じゃなくて、魔国のキレイな皿とかにすればバレないんじゃねーか?
ネェガが作ったメシだって、使者のやつだけキレイに盛り付けすればいいんじゃねーか?」
「……それだ!」
クロアの頭にピンと来た。
「特別感さえ出せればいい。
バーチェークの言うみたいに、食堂の料理をいい感じの食器によそって、別の場所で食べてもらおう」
「それなら、貴族的な体裁は保てそうじゃない? 庶民とテーブルもわけるんだしィ」
「ああ。現実的に最適かもしんねーなぁ」
「ヨシ。次に南魔国に行くときに、食器類揃えて仕入れてくるよ」
「あとはそれを食べて貰う、別の場所———迎賓館が問題ね」
「もっと色んなのが落ち着いてから、立派なのを建てたかったんだけどなー。
あんまりデカいのにすると、間に合わないよね。目安は2ヶ月以内ってとこかなー」
明確にいつ使者を迎え入れる、という話はまだしていない。
流れとしては、これから地下都市にある魔扉をベルガミュアに調整してもらう。
調整出来次第、ルジィに乗って魔扉を持っていく。
平行してもう1つの魔扉も調整してもらい、こちらで設置する。
ここまでのどこかで血統術による契約。
そして魔扉が開通したら、使者が訪問してくることになる。
魔扉の調整中と言えば時間稼ぎが出来るだろうが、立派な迎賓館が出来上がるほどの時間は稼げまい。
「とりあえず、小さくてもいいんじゃない?
だって今のルミナディアで一番大きな家って、アタシたちの家……いえ、最近はバーチィールたちの家よ?」
「貴族の馬小屋より小っせえな」
「難易度が低くて助かるわね」
「昔のオレん家のがデカいな」
「そーだけどさー。なんか切ない」
最近はバーチャームの家族が独立し、バーチィールの小家族の家が一番大きい。
それでも一階建ての20畳くらいだと思う。
これより立派な建物と言えば、かなりハードルが低いと言える。
「ねぇ、コレはクロアに一任するのがいいと思うの!」
「私?」
突然のオルウェンからの提案に、クロアは頭上に疑問符を浮かべる。
「だってホラ。いせか……いえ、えっと。海外ね、海外だったわね!
全然生活が違うみたいじゃない? それって“特別感”に一番近いと思うわ!」
「あ~なるほどなぁ。クロア、変な棒でメシ食うもんな?」
「確かにアレにはビックリしたわ。しかも小さいものまでキレイにつかむわよね」
「いい発想かもしれねーぞ。
海外の建築をルミナディアで作れたら、そりゃあ『使者のために一生懸命デザインした』ように見えるだろうぜ?」
「フム。言われてみれば……」
立派なものは出来ないかもしれないが、特殊なものは作れる気がした。
まだ建築や調度品に実装していなかったが、簡単な魔導具も取り入れれば、なんとかなるかもしれない。
「……そーだね。じゃあこの件は私がバーチャームに相談しつつ進めるよ」
「そんじゃあ2つめ、ルミナディア自治区住民側への対応。こいつぁオルウェンに草案をまとめて貰おうじゃねーか」
「アタシぃ!?」
バリランの言葉に、オルウェンがびっくりして飛び上がる。
「ルミナディアには身分制度がないけれど、かと言って失礼なことしちゃうのもマズいってことよね」
「そう、それ。変に勉強してまで敬う必要はないけど、最低限の礼儀と線引き……オルウェンが適任だと思うよー」
貴族について理解度が浅い、バーチェークとシルフェアナは当然不向きだ。
バリランか、オルウェンか。
と考えると、時折やかましいがコミュニケーション能力のバランスがとれた常識人、オルウェンが最適だ。
「そうかしら……。それじゃあ頑張ってみるわ」
「オレやることねーなぁ」
「バーチェークはここからの話じゃないかな」
しょんぼりと曲がっていたバーチェークの尻尾が、ピンと立ち上がった。
「3つめ、ルミナディア自治区としての政治的な対応だな。
クロア、おめーさんはどう考えてる?」




