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066 :// ギルドと畑

「ぐえー……眠い……」

「しっかりしろクロア。もうオープン時間だぞ」

「うーん……」


 朝7時。

 ギルドのオープン時間である。

 バーチェークに頭頂部をべしべしされ、クロアは片足を突っ込みかけた夢の世界から出てくる。


 ギルドは緊急時以外、7時から19時までと決めている。

 基本的に皆が慣れるまで有人にして、慣れてしまえばニャスタに任せてしまおうとすら考えている。

 現在人手が必要なのは、仕事情報を紙に書くこと、そして請け負う人間が問題なくこなせそうかをチェックすることくらいだ。

 とりあえず紙にしているが、いずれはギルド管理ニャスタによる魔導ディスプレイにしたい。

 そして学習を詰めば、請け負う人間のチェックもニャスタが出来るようになる。

 時間さえかければ、ギルドは完全無人化出来る。


 それまでの辛抱だ、とクロアは欠伸を連発しながら受付カウンターに立つ。

 座ると眠りそうなので、立つ。


 ギルドの入り口はオープン前に開けておいたので、すでに人々がガヤガヤと雑談して待っていた。

 受付で眠そうにしているなら早くオープンして仕事を回せと言われたが、そこを譲るつもりはない。

 就業時間というのは大事なのだ。

 これを雑にすると、サービス残業が横行する。

 絶対に不許可である。

 入口を開けている理由は、ギルド前でたむろされると見た目状の治安がよくないのと、椅子や日陰が欲しいだろうという優しさによるものである。


 食堂で朝食業務をこなして移動してきて、少しだけウトウトして、そして今ギルドのオープンである。


「んじゃ、貼るよー」


 カウンターに用意していた仕事依頼の紙を、掲示板に貼っていく。

 とはいえ仕事も住民もまだ少ないので、5枚ほどだ。


「今日はトイレ作成人員がオススメだよー。

 半獣族には畑がオススメー。今だと半獣族だけ特別ボーナスがつくよー」

「特別ボーナス?」

「畑仕事、半獣族だと仕事が早いからね。特別報酬ってヤツさ」

「おお!」


 半獣族のマンパワーは一般的な人族と魔族の3倍は行くと見ている。

 よって体力と速度勝負の仕事には半獣族ボーナスをつけている。

 最初は文句があったが、出来る業務量というアンサーには誰も抗議出来なかった。

 その他にも優先して進めたい力仕事も半獣族ボーナスをつけている。


 ガヤガヤと皆が掲示板を見るが、大体もう流れは決まっている。

 外に出て狩猟をする組と、ルミナディア内で労働する組で早々に分かれているからだ。

 両方やるタイプもいるが、なかなか少数派である。


 ちなみに仕事依頼の紙にはカラーで分類をつけている。

 評議会発のブルーマーク、シロネ発のグリーンマーク。

 今のところないが、緊急と急募の意味を示すレッドマークもある。


「お願いします!」

「はいよー。今日も狩猟ね」


 最初に受付に来るのは今日も全くブレないアストルである。

 毎日必ず狩猟に行くのは、来るべき騎士になる時のための鍛錬だそうだ。

 敵と向き合ってこそ鍛錬、剣を振り魔法を行使することが大事、などと初日にそれは熱く語られた。


「ところでクロアさん。騎士の仕事はまだ募集ないんですか?」

「予定なーし。はい、ID登録完了。はよ行っといでー」

「くっ……行ってきます」


 このセリフも何度目か。

 数日にして、毎日のルーティーンがすでに完成しつつある気がする。


「みんなケガしないよーに、気をつけてねー」

「クロアも寝惚けて転ぶなよ」

「ダイジョーブ。ルミナディアの大地を信じてる」

「自分を信じろよ!」


 人が捌けたところで、ニャスタに任せて次の場所へと移動だ。

 自治区としてスタートしたばかりだから覚悟していたが、本当に忙しい。



          ■□



 次にやってきたのは、評議会管理の畑。

 今後の拡大を考慮し、ルミナディアのメイン地区から少し離れた南側に作っている。

 ここなら川も近いので水が引きやすいということもあった。


「ゼーグリオ、様子見に来たよー」

「クロアさん、いらっしゃい。精霊様もようこそ」

「にゃっす~!」


 ニャスタが楽し気に畑へ飛んで行った。

 そのニャスタとは別に畑常駐のニャスタもいるので、当然同期されていて目新しいところはない筈なのだが、歓迎への喜びの演出だろうか。


 迎えてくれたのは南魔国から来た魔族、ゼーグリオ。

 ビリヤノ酒造から酒造りのために来てくれた人員だ。

 見た目は40代ほど。

 年上にも拘わらず、クロアのあれこれとうるさい依頼や要望を素直に聞いてくれる優しい男である。


「大麦は今のところ順調ですよ。

 やっぱり開始タイミングで作付け時期に遅れてますが、半獣族の皆さんがすごくて」

「わかる。引くよね」

「はは」


 困ったような、嬉しいような顔のゼーグリオに同意する。

 すでにギルドで仕事を請けたメンバーが種を植えたり、畑拡大のための田起こし作業をしてくれているが、すごい。

 恐ろしく素早い身のこなしで速い上に、パワーが違う。


「今年の分は少量になるでしょうが、これでこの土地の特性が分かりますね」

「南魔国とは違うだろうからねー」


 ゼーグリオはあくまで南魔国での大麦育成の知識しか持たない。

 土地独特の特徴や、天候の動きは作物に大いに影響するので、これからどうなるかは未知数だ。

 およそ半年で収穫できるらしいので、始めたばかりの今年はまだまだテスト段階。

 これからが楽しみである。


 この大麦収穫後、この畑は水田となって稲作をする、二毛作になるのだそうだ。

 稲作は初めてとなるゼーグリオだが、ソルマンが稲作に詳しい人間をそのうちよこしてくれるらしい。

 南魔国のサポートもあれば、とりあえず形にはなる気がする。

 これからが本当に楽しみだと思いを馳せながら、ゼーグリオと畑を周る。


 大麦の他、野菜用の畑も耕している最中だ。

 ポタイモをはじめとして、南魔国で買ってきた種は葉物野菜もあり、こちらもまた楽しみである。


「あ、そうだ」


 ふとゼーグリオが声をあげる。


「ちょっとついてきてくれますか?」

「はーい」


 言われたままに、畑を進む。

 やがて畑の先、まだ開けたエリアの中に、ふと妙なものを発見する。

 木が4本、不自然に開けた草原に生えている。


「……あんなのあったっけ?」

「あれはトゥルエルの発案で、果物の木を持ってきたんです」

「木を持ってきた?」


 なんとも違和感ある言葉の並びに、ついきょとんとしてしまう。


「もうすぐ実がなる木らしいんですよ。クロアさん、果物も栽培したいって言ってたでしょう?

 野生の木の周辺の土ごと掘り返して、こっちに持ってきたんです。

 もちろん半獣族の皆さんが、ですよ?」


 なんというパワー技。

 そんなこと有り得るのか、とクロアは口を閉じるのを忘れて考えた。


(いや、なんなら木の枝を切って地面に植えれば育つ、みたいな夏休みの宿題やってたヤツいたな。

 根にあまりダメージがなければ、OKなのか……?)


 木を丸ごと持ってきて植える、というイメージがなかったので、なんとなく勝手に作物は種からのイメージを持ってしまっていたが、よく考えれば故郷の街路樹なんかは同じことをしているのではないか。

 育った木を持ってこられるのなら、どう考えてもその方が早い。


「———とまぁ、上手く行くかは分からないんですが。このまま実がなれば報告しますね。

 あれ? クロアさん? もしもし?」


 ゼーグリオがクロアの顔の前で手を振り、ハッとする。


「……いや、いい……すごいアイディアだよ!」

「ク、クロアさん?」


 一通り考え終えて、クロアは喜びの勢いのままゼーグリオの背中を叩いた。

 普通に考えてトラックのような運搬道具がないので、少なくとも現段階でクロアではこの発想には至らなかった。

 それを実践してみたというやる気もとても良い。


「ちょっとみんな集めよう!」

「みんなを……?」






「ということでだ!」

「なになに?」

「何の話だ?」


 畑にいたメンバーに集まってもらった。

 仕事を中断させて申し訳ないが、喜びを隠せないテンションのまま話始めた。


「あの果物の木だよ! トゥルエル、前に出てきて!」

「え? なんでなんで?」


 呼ばれたトゥルエルが困惑気味でクロアの前に出てくる。

 トゥルエルは最近ルミナディアにやってきた半獣族で、どこかビーバーを思い出すつぶらな瞳の穏やかな青年だ。


「私じゃ木を丸ごと持ってくるなんて発想なかった! すごくナイスな発想だよ!」

「そうかな? 前にそうやって移住したことがあったんだ~」


 照れ笑いするトゥルエル。


「こういう街の発展に貢献するアイディアは、クロア賞として随時賞金出すよ!」

「賞金!?」

「トゥルエルのは、果物が実際にちゃんと実ったら私個人から賞金出すね」

「本当? やったやった~!」


 頬を赤らめるトゥルエルの肩を、感謝の気持ちでバシバシと叩いた。


「みんなも是非トゥルエルを見習って、街を豊かにする協力をしてほしい!

 ニャスタに言ってくれれば、私のもとに届くからさ。

 どうかな? ってレベルの意見も聞くよ!」

「オレも賞金欲しい!」

「俺も!」

「よっし頑張れ! いいアイディアには賞金出すよ! ここにいない人たちにも、教えてあげてね」


 クロアの言葉に、皆のテンションが上がる。


「あの果物の木の世話も、畑仕事の一環としてやってくれるかな?」

「もちろん。水やりくらいですから、ついでにやっときますよ」

「助かる! このやり方で問題なければ、ギルドに果樹移動の依頼出しちゃおう!

 これからもよろしくね!」


 畑チームの動きは、かなりいい。

 これで果物が栽培出来れば、かなりの時間短縮になる。

 街の栄養バランスがぐっと改善される上に、食事メニューのバリエーションも増やせるだろう。


 うっきうきでクロアは別の仕事へと向かった。






 ちなみにこの2週間後、無事に果物が熟れたので収穫出来た。

 ギルドに果樹移植の仕事が溢れ、クロアたちは果樹園をゲットしたのだった。


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