063 :// ルミナディア自治区発足 -3-
「ヨシ。そろそろいいかな? 本日最後のイベント———仕事についての説明をするぞー!」
住民登録後は、謎の自己紹介タイムを経てそれぞれIDを試す時間を取った。
本当のお金のデータは明日実装として、今日は皆で練習出来るようにテスト用データを入れておいた。
事前に用意しておいた企業用IDを使って、店の支払い方を試したりして結構盛り上がった。
ほどほどに慣れてきたのを確認して、クロアは皆に声をかけた。
「これから必要になるのは、雇用。
雇用されて働くことで、お金を得る。そしてそのお金で食事をしたり、欲しいものを購入したりする」
「オレらはクロアに雇ってもらうってことだな?」
「んー、ちょっと惜しい。さあ、その答えの場所に行くぞー。みんなついてきてー」
「場所?」
クロアが歩き出すと、頭に疑問符を浮かべたまま皆があとをついてくる。
人数が多いが目的地はすぐそこなので、さほど時間は掛からなかった。
「じゃーん! バーチャームが建ててくれたここ! ここがギルドだよ!」
「おお、ギルドか!」
「何ギルド?」
「ただのギルド。強いて言えば“仕事なんでも斡旋ギルド”。
いずれは種類別で独立させると思うけど、今はまだ分けるほどでもないからさ」
「わぁーなにここー!」
「わぁーここなにー!」
「わぁーぎるどー!」
バーチャームとネェガの三つ子たちがはしゃいで部屋をぐるぐると回る。
木造りの一階建て。
中はそれなりに広く、受付のカウンターがあり、掲示板がある。
個室が2つ奥にあり、その手前は待合カフェや休憩所のように使えるよう、テーブルとイスが設置されている。
しっかりクロアの注文通りに作ってくれている。
「知ってる人も知らない人もいるだろうけれど、ギルドの使い方は基本的に変わらないよ。
この掲示板に張り出された中から、やりたい仕事を見つけて、受付に志願する。
仕事が終わったら戻ってきて、受付に報告して報酬を得る」
クロアがカウンターに入って受付係を装うと、ニャスタが仮で張り付けてあった掲示板の紙を持ってきて、クロアの前に置いた。
デモンストレーションをしてくれているらしい。
「まんまだな」
「登録はもう出来るのか?」
「わざわざ登録しなくていいよ。IDを通せば、誰が何の仕事を受けてるかわかるし、履歴も残るから。
最初は冒険者ギルドみたいに、ランク付けもしないし」
「えー! ランク作らないのかよ!?」
「とりあえずはねー。判断基準も考えなきゃいけないし、そういうのは追々ねー」
クロアはカウンターから出て、建物を出る。
さすがに全員入っていると狭いし、うしろの人が中を見づらいからだ。
「さて、みんなの雇用元になるのは2つ」
あらかた皆がギルドを見終わったようなので、建物の前で再び説明を始めた。
「一つはルミナディア意思決定評議会、つまり政府からの雇用。
そしてもう一つ。私が会社を立ち上げるので、その会社からの雇用」
「カイシャ?」
「聞きなれないと思うけど、簡単に言えば営利目的の団体って感じかな。
魔国や人国で言う商会が一番近いと思う」
「じゃあ商会でいいんじゃない?」
「んー明確に普通の商会とは違うとこあるんだけど……」
クロアが作るのは株式会社だが、株式会社として意味がある運用になるのはおそらくまだまだ先の話。
住民に一度に知識を詰め込むのも、混乱を招きそうだ。
「説明するとややこしいからいーや。商会みたいなもんってことでだろうから、そういうものってこで。
またそのうち説明会開くからさ。それでも聞きたい人はあとで話そう」
「ふーん」「へー」「ほーう」
割と皆、どうでもよさそうだ。
興味を持っているのは、顔で判断するにバリランとバーチャームくらいだろう。
「話を戻そう。まぁ細かいとこはアレコレあるけど、簡単に言うとこう。
雇用については、基本的にギルドを介して仕事を受けてもらう形になるよ。
一部だけ、固定で雇いたいヒトがいるので、評議会と私の会社で直接雇用もします」
「固定ってことは……」
「給料は月給制、決められた日と時間に労働してもらって、1か月ごとに給料を渡すよ。
本当は皆をそうしたいんだけどね……やらなきゃいけないことが幅広いし山積みでさ。
全員を固定にってすると回らなくなっちゃうんだ。許して」
「別にいいんじゃないか?」
「よくわかんねーから任せるわ」
「とりあえずその固定職? になるのは誰?」
最後の質問で、クロアへの注目が強くなる。
クロアは改めてゴホン、と咳払いした。
「じゃ、評議会と私の会社から固定職で雇いたい人を発表します」
特に質問の声も上がらないのでクロアは続ける。
「一応言っておくけど、断ることも出来るから。
まず評議会としての雇用は2人。
農業関係に、ゼーグリオ。すでにやってくれてるけど」
「特に今までと何も変わらなさそうですね? 請け負います」
「ありがとう。次に子供の教育担当、バリラン」
「はぁー!? やっと自由になれると思ってたのによぉ」
「やめる?」
「はぁ~他に適当なヤツがいないんだろ? 仕方ねえからやってやるよ。早く代理探せよなぁ~」
「ゲーッ! これからもバリランが先生かよ」
「よかったな、クソガキ。これからもビシバシしごいてやるからな!」
ラーシスとバリランがバチバチと火花を散らしている。
完全に悪ガキ×2だ。
バリランはエロ爺だが、友達的な付き合いの出来るタイプのいい教師だと思う。
「ところでバリランが教育やるってのはいいが、評議会ってのもやんだろ? どーするんだ?」
「教育の時間は長くないし、しばらく兼業で。評議会の運用はあとで話すよ」
「こき使いやがるぜ」
「私もだから安心して。どっちもちゃんと給金出るし」
「へえへえ」
やだやだ、とバリランが首を振る割には顔がとても生き生きしている。
憎まれ口をたたく割には随分楽しそうだ。
「じゃあ次に私の会社からの雇用ね。
建築部門に、バーチャーム。縫製部門、シルフェアナとミリファ。
食料の解体と買取り部門、バーチェーク。食堂運営、ネェガとゼイン。
お断りの人はいるかな?」
「もうわかんねーからクロアに任せる」
「食堂を作るの? 知らなかったわ」
「特に問題なくて勤めてくれるってメンバーは、あとで呼ぶから来てね」
名を呼ばれた人たちよりも、周囲の方がざわついている。
食堂のワードがあちらこちらで行き交っている。
「これから私の会社では、今言った部門を仕事としてやってくよ。
つまりこういうこと。
建築部門では、個人や評議会の依頼として建築の執り行いをまとめ、実際に作る。
縫製部門では魔国との商売をしつつ、製作。誰かが個人で作ったものも、この部門で買取りをするよ。
解体・買取り部門では、魔獣の素材や肉なんかを買い取るよ。
ギルドで討伐依頼を受けたら、討伐報告をギルドにして、うちの会社の買取り部門に来て獲物を買い取ってもらう。ここまでが普通の流れになると思うよ。
んで、食堂。
評議会からの依頼という形で、うちの会社で運営する。
みんなどーせ、自分でメシ作らないってか作れないでしょ?
安く設定するから、食堂に食べにおいで。成人前の子供は無料だよ」
「オトナは?」
「金とる!」
「酒は?」
「金とる!」
「そりゃそーだろ!」
笑いが巻き起こる。
「そうそう、みんなに一つ理解して欲しいことがあって。
税金として、住民税と所得税をとることにしてるよ。申し訳ないけど、IDから勝手に引かせてもらいます。
どっちも貧しい人は少なく、金持ちからは多くとるようにするよ」
「へえ、金持ちから多くかぁ」
「稼いだお金取られちゃうのか」
税の概念に理解がある者は累進税という新しい仕組みに興味を持ち、税に触れる機会のなかった者は純粋に悲しそうだ。
「税金はね、稼げない子供たちの食事や教育の費用だよ。ルミナディア全員で子供を育てると思って欲しい。
あとは公共事業として街作りの費用にも充てる。食堂もないとみんな困るでしょ?」
「たしかに。オレ焼くしか出来ねぇ」
「毎日焼いただけの肉か魚なんて、もう耐えられん。クロアのメシ食いたい」
割と皆、食事への執着が強い。
説明側としては納得してくれてありがたいが、それでいいのか。
少し複雑な気持ちになったが、気を取り直す。
「それじゃ、ここからは準備の時間にしよう」
「準備?」
「今度は何の?」
「決まってるでしょ。宴だよ、宴」
クロアの言葉に、急に静まりかえった。
「今日はルミナディア自治区発足の祝日だ! 美味しいゴハンを食い、酒も呑むぞー!」
「おおおお!!」
全員の声が一致した。
すごい。
「料理しない人員は、メシが出来るまで全員算数の勉強ね」
「「「えーーーーーーー」」」
「何人か料理手伝って。あとはバリラン、よろしく」
「いいだろ。オトナもガキも、今晩は数字の悪夢を見させてやるぜ」
「あっアイツ逃げたぞ、捕まえろ!」
「わあああああああ」
大騒ぎを背に、クロアは何人かと調理場へと向かった。
■□
「ではルミナディア自治区発足に———カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
クロアとルジィがやるので、いつの間にか広まった乾杯の言葉。
子供たちは果物ジュース、大人たちは酒を。
そして調味料を使った、廃棄地とは思えない料理を全員で楽しんだ。
「そういやその会社ってヤツの名は?」
「ん…………」
バリランに聞かれてふと気付く。
考えてなかった。
「株式会社…………」
顔面に穴が開きそうな、強い視線を感じる。
まさか考えてなかったわけじゃないだろうな、そんな視線だ。
クロアは居たたまれず、隣にいたニャスタに視線を投げた。
「…………“シロネコ”」
「シロネбе?」
「また“カ行”ダメなのかよ! シロネ商会! コレで行こう!」
また雑に名称を決めてしまった。
そんなこんなで、株式会社シロネ商会が生まれた。




