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059 :// 帰還

『あっ! 見えたよん!』


 ルジィの腹袋の中。

 そろそろだと覚悟していたが、来るイベントにクロアは身を強ばらせた。


「ルジィ。今回は、前よりもっと大きく回ってね? ホントにお願いね?」

「いいからホラ。掴むぞ。シルフェアナはそっち頼むぜ」

「脇腹はやめてよー。肩とかさ……ンァアアアアアア!!」

「にゃすぅうううう」


 長いフライトのあとは、着陸時恒例のアレだ。

 クロアはバーチェークの手で固定され、全身に慣性の法則によるエネルギーを受ける。

 ニャスタはまた吹き飛ばされて、ふわふわの壁に3匹並んで食い込んでいく。


 やがて収まり、止まった。


「ぐええ……」

「にゃす……」

「……聞いてはいましたが、本当にすごいですね……」


 クロアたちに着いてきた魔族ゼーグリオも初めてのドラゴン旅。

 シルフェアナに固定してもらったが、全身ボサボサになって目を回していた。


『しっつれー! 重いからゆっくりだったしぃ!』

「はいはい、ありがと。お疲れさま、ルジィ」

「荷物も問題なさそうだぜ」


 バーチェークが足で押さえていた荷物たちをざっと確認している。

 ルミナディアから持参した荷車に大量の持ち帰り品を乗せているが、荷物はそこに乗り切らず溢れている。


 持って帰ってきたものは、様々だ。

 まず半獣族としていつもの持ち帰り品、穀類と調味料、香辛料。おまけのメタルリザード肉。


 そして次に大麦と稲の種に、果物や野菜の種。

 さらには農具に工具、道具、金属まであり、かなりの量だ。


 荷積み時点でルジィが重すぎて嫌だと駄々をこねたが、ルミナディアでメタルリザード肉をご馳走するという約束でなんとか折れてくれた。


 ルジィの腹袋がふわりと開き、目映い光が入ってくる。


「——————!」


 光の中に、人々が見えた。


「クロア!」

「ぐえー!」


 飛び込んできた、1つの影。


「んもう! こんなにかかるなんて、聞いてないわよ! 心配したんだから!」

「ゴメンゴメン。私もこんなにかかるとは……ってうええ……涙つくから離れて……うわああ鼻水!!」


 飛び出してきたオルウェンに、抱きしめられたり撫でられたりと、もみくちゃにされる。

 滝のような涙に鼻水まで加わり、大惨事だ。


「大丈夫だった? 見せて」

「そんなに見なくても、変わったとこないよ。お母さん」


 オルウェンを蹴飛ばして解放されたと思ったら、今度はすかさずシグがやって来て、クロアの全身をチェックする。

 手のひらをもみもみされ、額の温度を確認され、下瞼をさげられて、その様はまるで医者のよう。

 

「なんかまた背、伸びた?」

「うん、そんな気がする」


 見なかったのはたった数週間なのに、シグはまた身長が伸びたようだ。

 苦労故に成長が止まっていて、最近は本来の成長に至るまでぐんぐん伸びている最中らしい。

 健勝で何より、とシグの頭をぽんぽんと叩く。

 前は自分より下にあった頭が、もう上になってしまって少しだけ寂しい。


「クロア、おかえり!」

「ふん、おっせーよ!」

「赤毛兄妹、しっかり勉強してた?」


 ラーシスとリーシアが寄ってくる。

 さすがに彼らに変化はないようだ。


「してたし」

「お兄ちゃんの嘘つき。昨日も今日もサボってたくせに」

「それは、クロアが帰ってくるって聞いたから……!」

「楽しみでそわそわしちゃったのかい、少年?」

「ちげーよ! クロアがたくさん欲しいって言ってたイリ草、足りなそうだからオレが取ってきてやったんだし!」


ふん、とそっぽを向くラーシス。


「草は助かるけど、ちゃんと勉強はしなさい。バカが直らないよ」

「うるせー! そんなことより、帰ってきたんだから早くそのすげえ街、作れよな!」

「街が出来上がるのも楽しみでそわそわなのかな? かーわいーい」

「撫でんなクソ!」


 顔を真っ赤にしたラーシスに、手をべちんと叩かれた。

 手がヒリヒリと痛むが、相変わらずのキッズ感に安心する。

 ラーシスはぷんぷんと怒ったままどこかへ行ってしまったので、すぐ横にいたバリランを見る。


「緊急連絡もなかったけど、こっちは変わったことなかった?」

「特に何もなかったぞ。魔獣被害もねーし、人が増えたくれぇだな」

「監督ありがとー。バリラン」

「そっちは成果あったんだろな?」

「もちろん」


 ならいい、とバリランも用事が済んだとばかりに立ち去っていく。


「…………」


 少し離れたところから、じっとクロアを見つめる視線。


「ベルガ」


 1人だけぽつんと離れて見ているだけで、何も言わないベルガミュア。

 相変わらず、彫刻のような美しい無表情だ。

 全く寄ってくる気配がないので、クロアの方から歩み寄った。


「ただいま、ベルガ」

「…………」


 無表情の中に、どこかムスッときた雰囲気がある。

 クロアは不機嫌になるようなことを何かしたかと一生懸命考える。

 魔導具のお礼も伝えたし、とすれば一つくらいしか思い当たるものがない。


「ミスリルの報告なくて怒ってる?」

「…………別に。怒ってません」


 これは怒っている。

 出発前にニャスタ伝いで帰ると連絡したが、本当にそれしか伝えずに出発した。

 ミスリルが買えたのか買えなかったのか、気が気でなかったのかもしれない。


「ご希望のヤツなら、たくさん買えたよ」

「……本当ですか?」

「もちろんだともさ。ねー、バーチェーク」

「おう」


 バーチェークが巨大な木箱を抱えてルジィの腹袋から降りてくる。

 クロアたちの足元に置かれた木箱の蓋を、クロアが開く。


「———!」


 木箱を開けると、綺麗に並んだ大量のミスリルインゴットが姿を現す。


「どう?」


 何も言わないベルガミュアだが、心なしか僅かに目が輝いているように見える。

 これはきっと満足してくれている。


「…………おかえりなさい、クロア」

「ただいま」


 やっとルミナディアに、帰ってこられた気がした。






 その日は持ち帰ったメタルリザードの肉と酒で、宴をした。


「そのチョビ髭はどーなったの?」

「『いるだけでマイナスを出す人材を雇うなんて、南魔国は懐が深いんですねー』って魔王に言ったった。即クビになったらしいよー」

「当然ね。大体そういうヤツって、残業して自分仕事多いアピールするけど、仕事出来ないから残業になるだけなのよねェ~」

「まるで見てきたようなセリフ」

「どこにでもいるのよォ、そういう手合は」

「やべえ! 誰だチィールに酒呑ませたの!」

「女はまず酔わせんだよ。それから乳をグボオオオオ!!」

「シルフェアナ、本当に容赦ない」

「あ。バリラン息してなくない?」

「腹どついとけ!」

「本当に死ぬだろがい!!」


 ルミナディアでの宴は、なんというか楽だった。

 この異世界に来てから数ヶ月ともに過ごしただけなのに、もうすっかり“自宅”になったのだと改めて知った。






 予定外に長いこと居座ってしまったが、このパルマファムではたくさんの収穫があった。

 外貨を得て、人脈を得て、道具を得た。


 これから、やっと本格的な街作りが始まる。

これにて南魔国編完結です。次話から自治区編スタート!

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