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102 :// 激嵐の日 -5-

「総員停止!!」


 バーチィールが止まり、クロアが背中から降りたので、疾走していた全員が足を止める。

 何名かの人族と魔族が遅いと見なされて、途中から半獣族に小脇に抱えられて移動していたらしく、急停止に悲鳴が上がる。

 森を抜けて開けた場所は、視界良好だ。


「ここで迎撃する。1分くらいでスタンピードがここに来るよ」

「了解」


 すでに地響きが聞こえ、僅かに振動も感じる。

 皆が各自の得物を構えて準備する中、クロアは最前にあたる位置を陣取った。


「みんな聞いて! まずこの戦いの理想は『1匹も漏らすことなく、スタンピードを殲滅すること』。

 逆に失敗は『討ち漏らした魔獣がルミナディアを襲うこと』。

 どういう状況になるかわからないけど、ルミナディア防衛戦であることを忘れないで」


 緊張した面持ちのメンバーが、各々頷く。

 それを見届けて、クロアは魔導ディスプレイを出した。

 表示したのはこの周辺の地図だ。


「スタンピードはもうとにかく突っ込んでくるから作戦はないよ!

 壁作っても壊されちゃうからとりあえず、雨が降るまで私が先頭で【雷線砲(テイザー)】連発。これでかなり削れるハズ。

 その後は各々漏らしたヤツを仕留めて欲しい。他にいいアイディアとか、ある人いる?」

「それでいいと思う。というか、それしかねーな」

「うんうん」


 特に何か言いたい者はいないようた。


「ヨシ。では戦闘準備!」

「おう!!」

「よっしゃあやるぜ!」


 各自が獲物を構え、横に広がる。

 大地を揺らす地響きが、大きくなってきた。


 その一方でクロアも認識魔術《アストラル・カリキュギア》を展開する。


「【戦闘魔術環境(バトルモード)】有効化(アクティベート)」


 クロアの瞳が、青く閃光する。


「ぐええ……」


 このモードで自動発動する魔術がいくつもあるが、【魔力感知】と【獣核感知】により視界が一変する。

 大量の魔獣核とマナが、まるで地平線に燃え上がる大火のようだ。

 あまりに多すぎて酔いそうなので、感知の表示を最低レベルにまで調整しておく。


「ニャスタ。魔獣全体の動きとか数を確認してくれる?」

「にゃっす!」


 ニャスタ1匹が返事をして、正面の森の上空へと飛んでいく。

 前方の木々が震えだし、そして。


(来た)


 魔獣たちがついに姿を現した。


「【雷線砲(テイザー)】」


 ドオオオン!!


 魔術陣から放たれる紫の光と、轟音。

 前列の魔獣たちが黒焦げになり、崩れ落ちる。

 そしてその背後からすぐさま次の魔獣が現れて、焦げた同胞を足蹴に進んでくる。


 2発目、3発目。


 一撃で10体以上焼いているが、勢いが止まる様子はない。


 4発目。


「!?」


 撃ったのに、止まらない魔獣の波がある。


「あれは———ゴーレム! ゴーレムには効いてません!」

「ゴーレムって、岩か! 岩って絶縁体だっけ!?」


 5発目。

 直撃した瞬間に動きは止めるものの、再びゴーレムは歩き出してしまう。

 ゴツゴツした岩を纏ったゴリラのような大きな魔獣は、緩慢な動きながら着実にこちらに前線を押し上げてくる。


 ゴーレムは関節くらいにしか電気が通る部分がないのかもしれない。

 しかし他の魔獣には効果があるはずだ。


 6発目。


 ———ギエエエエ!!


 耳をつんざくような鳴き声と同時に、森から出てくる魔獣たちに放った【雷線砲(テイザー)】は森の上空へと向かっていってしまった。


「なんで!?」


 見れば、【雷線砲(テイザー)】の飛んでいった先にも紫色に光る何かがいる。

 大きな魔鳥が羽ばたき、こちらを威嚇していた。


「アンズーだ!!」

「それってもしかして、雷撃ったりする!?」

「そうです! アンズーは雷を呼ぶ魔獣です!」

「どおりで……! アイツがいると【雷線砲(テイザー)】が持ってかれちゃう!」


 いくら魔術でロックオンしていても、狙った獲物よりも大きな電荷が上空にあればそちらに電気は吸い寄せられてしまう。

 そうしている間にも、魔獣たちが押し寄せてくる。


「仕方ない、総員前進! 迎撃開始!!」

「おらああああああ!!」


 バーチェークを皮切りに、一斉に皆が突進する。

 クロアは残り、別の攻撃を展開すべく認識魔術に集中する。


「座標指定———1つ、2つ、3つ、4つ。【固定(ロック)】。【魔術起点(ポイントセット)】」


 皆が戦い始めたので、後方からクロアが魔術を撃つと味方にまで当たってしまう。

 魔獣側の上空に4つ、魔術発生の起点用の魔術陣を展開させた。

 簡単に言えば魔術の転送出口である。


 まずは雷を呼ぶアンズー。

 雨が降りだしたら敵も味方も全滅の可能性があるので、真っ先に潰す必要がある。


「【魔獣捕捉(スティル・マーク)】完了———【樹拘束(ブランチ・チェイン)】」


 上空の2つの魔術陣から真下に青い光が落ちる。

 光を浴びた木は、うにょりと一度体をひねり、一斉に伸び始める。


 ———ギエエッ!?


 空を飛んでいたアンズーの体を、幹が絡め取る。


「———【氷流星(アイシクル・メテオ)】」


 4つの魔術陣から、一斉に氷の槍がアンズーもろともスタンピードを襲う。

 その数、100近く。

 クロアの膨大なマナあってこその魔術だ。

 轟音ののちに、クロアの視界に表示される魔獣核が減っていく。


「ニャスタ、魔獣あとどれくらいいる?」

「にゃ、にゃす……?」


 ニャスタが戸惑ったような声色で、魔導ディスプレイをクロアの前に表示する。


「…………なんで?」


 ディスプレイには上空からのライブ映像が映されており、そこにヒートマップで魔獣が表示されている。

 クロアたちのいる戦場へ、北や南からも魔獣のマーカーが集まっていく。


「増えてる……!!」


 右上のカウンターは500を超え、今なおその数字は上がり続けている。

 魔獣を殺せば殺すだけ、それより速く補充されている。


 これでは数が有限である、こちらのジリ貧だ。

 体力が尽きたらそれで最後になる。


「私の魔術で削りまくるしかないか……!」



          ■□



 右に剣を振るう。

 サハギンの肩をかすめて血が吹き出るが、浅い。

 ぎょろりとこちらを射止めるサハギンの丸い眼球。

 口が大きく開き、背筋がぞくりと冷える。


(まずい!!)


 ———ブシュッ!!


 口から水弾が飛んでくると思った瞬間、サハギンは反対の肩口から真っ二つになった。

 血飛沫を受けてその向こうから姿が見えたのは、バーチェークだ。


「油断するなよ、アストル」

「はい……! すみません!」


 冷や汗でぬるつく剣を、再び握りしめる。


(みんなすごい……。こんなに数が多いのに、ちゃんと周りまで見えている……!)


 自分でもわかるほど、緊張していた。

 いつもの、剣を振るう時の自分になれない。


 呪いの地に棄てられて、初めて魔獣と戦った。

 そして、こんなに魔獣に囲まれるのは初めてだった。


(経験がどうなんて言ってられない……! やれ! やるんだ!)


 大きく息を吸う。


「ヒィヤッハアアアアア!!」


 ヴォジャノーイの群れに突撃し、剣を振り回す。

 威嚇液くらいなら当たっても問題ない。

 剣を刺し、振り抜く。

 ヴォジャノーイの先にいるのは、トレントだ。


(トレント!? つるが多い……!)


 巨大な花をつけた植物の見た目をした魔獣。

 ルミナディアに来てからも見たことのない魔獣が多く、戦い方に悩んでしまう。


 魔獣の攻撃を回避し、隙を伺う。


(今日は見たこともない魔獣ばかりだ、くそ……)


 心でついた悪態。


(見たことない魔獣ばかり……? そうだ、おかしい)


 悪態をついて、ずっとどこかに引っかかっていた不自然さに気が付いた。


「まさかこれは———」


 魔獣たちの種類の不自然さ。

 そしてこの空模様。


 一つの考えが、アストルの中でそれら全てを繋ぎ合わせた。


「ニャスタ!」

「にゃす?」


 アストルの肩に乗っていたニャスタを振り向く。


「クロアさんに繋いでくれ! 声だけでいい!」

「にゃすぅ……?」

「頼みます! この事態をどうにか出来るかもしれないんです!」


 戦いに集中しろと言いたげなニャスタの顔。

 だがアストルが必死に叫ぶと、しぶしぶ通信を繋げてくれた。


『アストル? どーした?』

「クロアさん、わかりました……ッ!」


 剣を振るい、魔獣の攻撃を受けながら叫ぶようにして話す。


「このスタンピードも、嵐も全部、ある魔獣のせいです!!」

『どーゆーこと?』

「違和感があったんです! このスタンピードには、日頃僕たちが狩る魔獣がほとんどいない!

 これはただのスタンピードではなく、“魔獣によって作られたスタンピード”なんです!」


 うしろからのケルピーの突進。

 身を捻り避けようとすると、ケルピーの歩長い首を搔き切る影。

 ナイフ使いのヒィースだ。


「アストル、その話続けろ!」

「……ありがとうございます、ヒィースさん!」


 気付けば周りにいる仲間たちが、戦いながらアストルの話を聞いているようだった。


「魔獣の名はアダド……! 200年前にフェルスタ王国を襲った魔獣です!

 ヤツは嵐を操り、魔獣を呼びます! アダド自身は弱いので、嵐と他の魔獣に人間を襲わせて餌にありつくんです!

 一度に大量捕食をするので、滅多に活動しないことも特徴です!」

『嵐を操る魔獣……なんているの?』

「信じてください、いるんです!」


 戸惑いを含むクロアの声。

 アストルは後方へ下がり、剣を片手で構えたまま懐をまさぐった。

 懐に入った、ボロボロの小さな手帳。

 追放前に服以外で唯一持ってこられた、大事なもの。


 色褪せた紙をめくり、1つのページにたどり着く。


「ニャスタ、これをクロアさんに見せてください」

「にゃす」


 肩に乗っていたニャスタが宙に浮き、手帳を覗き込む。


『字ぃ汚っ! この絵のやつがアダド? うーん……』


 確認してくれたようなので、戦闘に備えて手帳を懐に戻す。

 クロアはまだ考えるように唸り、信じてもらえていないようだ。


「———サハギン、アルラウネ、ゴーレム、アンズー、ヴォジャノーイ、ケルピー、トレント、ロックタートル」


 アストルは必死にここまで見た魔獣たちを思い出して言葉を紡いだ。


「どれも水属性や雷属性の魔獣か耐性持ちです! 嵐に耐性があると言えませんか!?」

『……なるほどね』


 ポツポツ、ボタボタ。

 ついに雨が降り出してきた。


『……たしかに私もこの嵐、変だと思ってた。

 アダドがいるのは、やっぱり……?』

『嵐の中心。そこにヤツはいると思います!』

『わかった。信じるよアストル』


 皆の周りにポツポツといたニャスタたちが、一斉に浮かび上がる。


『みんな聞いて! スタンピードの原因が嵐である可能性がある!

 よって私は嵐を止めに行ってくる! つまりこの戦闘から外れるけど、私が戻るまで持ちこたえること、出来る!?』


 周辺に響く、拡大されたクロアの声。

 一瞬誰もが押し黙ったが、大きな笑い声が響いた。


「これくらい、ちょうどいい運動だぜ! 任せなァ! ただし今日はいいメシ頼んだからな!」


 バーチェークの愚直な笑い声が、迷う皆の心を一つにまとめた。


「ああ、オレたちを舐めんなよ」

「非干渉地帯(ホワイトライン)生まれのチカラ、見せてやるぜ」


 口々に皆が高揚した声を上げる。


『……いいメシ了解。アストル、戦闘任せたからね』

「ぼ、僕?」


 突然話を振られて、素っ頓狂な声をあげてしまう。


『あのねー、私がいなかったら次に範囲攻撃が強いのはアストルだよ。

 みんなのフォローを任せるから、しっかりやって』

「でも僕、そんな……ユガさんにも一撃で負けましたし……」

『ごちゃごちゃうるせー! 弱いんだったら今強くなれ!」


 言い訳を探していると、クロアが怒鳴った。

 あまり聞かないクロアの怒声は、近くにいたら引っ叩かれる自分を想像させられた。


『廃棄されてから呪いの地をひとりで生き抜いてきたってのは、間違いなく強いんだぞ! 自信持て!』

「うっ」


 言葉で殴られる気持ち。

 だが、励まそうとしてくれるクロアの気持ちは、しっかり受け取った。


「……はい! 頑張ります!」

『ヨーシ。全員、死ぬなよ!』

「はい!!」

「おうよ!!」





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