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荊の道を、希望する。


「——その役割は」


 僕の問いに、隊長は答える。


「敵城の上層。ボス……あるいは幹部の排除、もしくは確保を行なってもらう」


 空気が、わずかに重くなる。

 隊長は、ほんのわずかに視線を落とした。


 ——そして、ゆっくりとこちらを見る。


「……それを任せたい者がいる」


 静かな声だった。

 だが、その一言で。空気が、変わる。


 呼ばれたにも関わらず、指示を受けていないメンバーは僕、師匠、ギザンだけ。

 奇しくもラッシャイタウンを防衛した3人だった。


 まさかとは思うけど……?


「……最も危険で、最も重要な役割だ。当然、選定は慎重に行った」


 淡々とした説明。

 でも、その内容は——明らかに、別格だった。

 

 その言葉に、思わず息を呑む。



「戦闘力。適応力。そして——“あの場”を経験した者」


 その言葉に、背筋がぞくりとした。

 彼は一歩、こちらへ近づく。


 あの場って——監獄のこと!?


「やっぱり……」


 嫌な予感が、形になる。

 隊長の視線が、はっきりと僕を捉えた。


「突入班……それを任せるのは」


 一瞬、沈黙。


「シャド——そして、カビ助くんだ」


「はい……?」


 自分の名前。頭が一瞬止まった。


 僕が? ギザンを差し置いて?

 師匠と? この中で? 一人前じゃないのに?


 思考が追いつかない。頭が、真っ白になる。

 音が、少し遠くなった気がした。


「ちょ、ちょっと待ってください! 僕なんかより、もっと強い人が——」


「確かにいるね。それもたくさん」


 即答だった。


 逃げ道を、完全に塞ぐような。



「だが、君達でなければならない理由がある。シャドは暴走状態のメドゥーサを撃破した。そして君も“仮”とはいえ、敵幹部であるジャックを撃破した」



「いや……」

 その一言に、言葉を失う。


「内部構造、空気、敵の性格、動き。机上の『情報』に加えて“実体験”を持っている」


 ……そうかもしれないけど。

 でも、ジャックは多分、わざと、僕に。


 そんな時。海風が強く吹き荒れる。

 潮の香りと海鳥の鳴き声。それらが収まった後、隊長ではない声がした。



「『確かに倒したけど、それは“表面上”の話だ……』とでも思っているか?」


 

 フウロウさんだった。

 彼の言葉に、僕は思わず聞き返す。


「……だとして、何です?」


「その程度、隊長が考慮していないとでも思ったか?」


「え?」

 見ると、隊長は微笑んで頷いた。


「お前は、絶望を乗り越えて……ひたむきに、高みを目指した。功績は仮組みでも、その成長だけは真実だ」


「フウロウさん……」


 彼と、隊長と、師匠。

 この三人……いや、シルヴァも含めた四人は、僕の弱さに振り回されても、見捨てないで認めてくれた大人だった。


 次の瞬間。

 少しだけ、師匠の表情が緩んだ。


「絶好の好機チャンスじゃねぇか。彼女を……ミツバを、救いたいんだろ?」


「……!」

 らしくない師匠の励ましに、胸が……強く打たれる。


 ——思い出す。


 落ちぶれて、愛に溺れて、腐って、逃げて、迷って、泣いて——絶望した。

 それでも最後に、選んだこと。


「……はい」

 静かに、言い切る。


 彼らの言葉は、不思議と——重くなかった。

 押し付けられている感じが、しなかった。


 ただ、事実として置かれているだけだった。


「もちろん……君たち二人で、という訳じゃない」


 隊長は続ける。


「ゴハート君、土台モン君——。彼らは、君だけの仲間だ」


 視線が、遠くの彼らに向く。


 師匠が、黙って頷いた。

 もう、覚悟が決まっている顔だった。


「“仲間”が一緒なら——怖くないだろう?」


「……っ」


 逃げられない。師匠と二人の前で、情けない姿は見せられない。

 

 あの時のように——

 ミツバの姿をしたジャックに、惑わされるかもしれない。

 父さんのクローンに、心を折られるかもしれない。


 でも。『逃げたくない』とも思ってしまった。


 怖いはずなのに。


 足が、震えているのに。


 それでも——

 前に出た時と、同じ感覚があった。


「……僕が、行けば」

 絞り出すように、声を出す。


「彼女を、助けられる可能性が……上がるんですか?」


 隊長は、迷わなかった。

「ああ。他の誰かなら、救えないよ」



『お前が来ないなら——俺たちは容赦なく、お前の父や恋人を殺すかもしれん』

 


 メサの拠点での、師匠の言葉が頭に浮かんだ。

 隊長は短く、力強く続ける。


「凶悪な敵に完全支配された者。そんな暗闇を、光で塗り替えることが……()()()()なのだろう?」


「は……っ」

 ——息を吸う。


 胸の奥が、熱い。

 ドラゴンマスクさんは、いつも僕が欲しかった言葉をくれる。


「……そうですね」

 顔を上げる。


「その任務、引き受けます!」


 ああ、言ってしまった。

 いくら師匠がついているとはいえ……本当に、勝てるだろうか。


 ジャックの能力の仕組みは勿論、敵のボスに至っては全てが未知数だ。

 もしかしたら他にも……幹部級の化け物がいるかもしれない。


 でも、不思議と後悔はなかった。


「ふふ、良い顔になったね」

「『アリ店長』を一人で倒したお前なら大丈夫だ」

「今度は皆が、汝を頼ることになるだろう」

「見ないうちに強くなりましたねぇ、モルモットくん」

「何かあれば俺たちに伝えろ。最高速度で飛んで行く」


 みんな、口々に励ましてくれる。


 次の瞬間。

 隊長は、仮面を外して、穏やかな表情を見せた。


 すると……辺りに荘厳な龍の声が響き渡る。


「——甘いな」

 その声は、空気を震わせた。


「儂の勘だが………それでは、奴らの頭は討てぬだろう」


「「「……!?」」」


「それは私が武蔵を倒し、加勢したところで……です?」


「ああ。手も足も出ないだろう」


 な、何だって……⁉︎

 あの隊長でさえ、手も足も出ないのか?


 ていうか、シルヴァは敵のボスが何者か知っているのか?


「あの……?」


 僕と隊長と師匠が考えに耽っていると……

 他のメンツは、別のことに対して戸惑いを見せていた。


「か、仮面が喋った……?」

「忌々しき竜の気配……。曲者であるか!」

「隊長……この興味深いマスクは何ですか!?」


 そういえば、そうだった。

 隊長の正体が公になったのはつい最近。


 班長達ですら、シルヴァについては知らなかったのだ。

 ——まあ、説明されても信じ難い光景だけど。


「おっと、初見の者らも居たな。儂の名は『シルヴァ』……訳あって、お前らの隊長、ジェムの身体に宿っている『正義を司る龍』である」



「「ドラゴン族……⁉︎」」

 

 流石の実力者たち。ドラゴンについての説明は、必要ないみたいだ。

 彼らは疑問を重ねようとする。


 だが、それは隊長が話を戻してくれた。


「彼については、後で説明する。それよりも——」


「儂が敵の頭(ボス)の正体を知っているかどうか……か?」


 言い終わる前に、シルヴァが先行した。


 隊長は静かに頷く。

「ええ。是非とも、教えて頂きたい」


 一拍目を瞑り、シルヴァはゆっくりと口を開く。

 その表情は、気まずさを醸し出していた。


「残念ながら……その問いの答えは『分からない』だ。先程も述べたが、全て儂の『勘』である。敵の頭(ボス)の正体も……心当たりはあれど、確証はない」


「シルヴァさんの『勘』ですか……。十二分にあり得るのが、悩み所ですね」


 聞いた話によると、彼は『僕が隊長を嫌悪するだろう』と事前に言い当てていたらしい。

 ……あの時のことは、今でも少し気まずい。だから、彼の勘には信憑性があるのだ。

 



「で? 大人しく負けろと言うのか?」


 師匠が低く呟いた。

 隊長や班長たちも、それぞれ頷く。


 それを受け、シルヴァは隊長に向き直る。


「当然、ただ嫌味を述べた訳ではない。儂が、二つの道を示そうぞ」


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