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等身大の英雄


 潮風が、少しだけ柔らかくなっていた。


 先ほどまでの緊張は、どこか遠くへ流れていく。


「……うわっ!」


 突然、頭から水を被った。

 雨……? いや、霧みたい?


「ぶはっ!? な、何だこれ……!」


「ははっ、鯨班長の潮吹きだろ」

 ゴハートが笑う。


 見上げると、遥か上——

 僕らを乗せるホゲさんの噴き上げた海水が、霧のように降り注いでいた。


「気持ちいい……」


 火照った身体が、一気に冷えていく。

 さっきまでの旅路による疲労が、少しだけ軽くなった気がした。


「これが……海水か」


 手に残った雫を、舐めてみる。


「……うわ、ほんとにしょっぱい」


「飲むもんじゃねぇぞ、それは」

 ゴハートが呆れたように言う。


「でもさ……」

 僕は笑った。


「何だ? マスター」


「なんか、こういうの……ちょっと楽しくない?」


「へっ……?」


 一瞬、静寂。

 それから——


「……分かる〜」

「はは、街の英雄くんも子供だねぇ」

「いや、でも……初めてならそうなるよな!」


 周囲から、くすくすと笑いが漏れる。


 戦いの前だというのに。

 不思議と、空気は穏やかだった。





 そんな時。背後から声をかけられる。


「カビ助くん、ちょっといいかな?」

 低くも爽やかな声。


 振り返ると、隊長が立っていた。


「……話があるんだ。君と、ギザン殿だけ来てほしい」


 短く、それだけ告げる。

 その一言で——空気が、引き締まった。


 僕はギザンと目を見合わせる。


「え? 僕らだけ、ですか?」


「カビ助。ひとまず、指示通りにしようぞ」


 僕は、彼の後を追いかけた。

 ゴハート、土台モン、ピクコノさんに手を振る。



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



 ホゲ・エールの背の一角。

 他の隊員たちから少し離れた場所。


 そこには既に——

 博士、モグドンさん、フウロウさん、そして……師匠の姿があった。


「これで揃ったね」

 隊長が口を開く。


「これから——敵地に侵入した後の、本格的な作戦を説明する」


「……⁉︎」

 僕だけ、驚いた。


 本格的な作戦会議……⁉︎

 それって、リーダー的な立ち位置の人が集まってするものじゃないの⁉︎


 この錚々たるメンツの中で、どうして僕まで……?



 ドリあえず僕は、隊長の説明を待った。



「敵の本拠地……『闇星城』に到達後、我々は六手に分かれる」


 簡潔で、無駄のない声。

 彼は博士が調べあげた、敵地の構成図を開いた。


 そこには、海に面した断崖のすぐそばに(そび)え立つ、禍々しい要塞が写っていて——

 地下……下層には、見覚えのある監獄。僕らが捕まっていた場所。

 第一層は、大広間。侵入するにはここしかなさそうだ。

 第二層は、構成員たちの住居エリア。ジャックもここにいるのだろうか……。

 そして、それより上の層は『?』マークが付けられている。


「この上は……分かってないのですね?」


 未だ謎に包まれている、『ダークスター団』のボスは間違いなく、このエリアにいるのだろう。『?』ってことは……あのスライム博士が、調べることを躊躇ったほどの雰囲気……ということなのだから。



「博士、お久しぶりです。あの後、こんなに調べてくれてたんですね……?」


 僕は伝え忘れていた再会の挨拶を、ここで伝えた。

 すると博士は、嬉しそうに……? 怪しい笑みを浮かべた。


「ええ、ええ。もっと褒めて構いませんよ? 突然ランデブーした君たちの尻拭いを、一人でやり遂げた功労者ですからね?」


 やはりと言うべきか。博士のニヤつきは、皮肉だった。

 ——なんだか懐かしい感じだな。



 ともかく、僕は当時の状況を思い返し、すぐに謝罪する。

「う……すみませんでした……」


「ま、半分は軽い冗談ですよ。ともかく元気そうな顔が見れて何よりです」


「え……はい。僕もずっと心配でした!」


 皮肉の後、博士は照れた笑いを浮かべて顔を逸らす。

 これ、噂に聞く“ツンデレ”ってやつ? 同期であるというモグドンさんなら、真っ先にいじりそうだな。笑


 だが、彼を見ると……

 ずっと真剣に隊長を見ていた。

 

 ——あ、そうでした。大事な会議の最中でした。

 モグドンさん、すみません……。



 彼は腕を組みながら、隊長に尋ねる。

「確認だ。俺は何をすればいいんでしたっけ?」


「モグドンら、『地中班』は正面突破。敵戦力の引き付けを担当してもらう」


「了解だ」


 彼のドリルと、班員たちの剛力で……

 第一層の、正面扉を破壊して侵入するというわけか。



 続いて、フウロウさんが翼を広げる。

「俺は『空中班』とは別行動と聞きましたが……?」


 自身の班と別行動……ってことは、単独で動くの?


 大変そう……と思ったが違った。


「スライム博士は、フウロウの背に乗って戦況管理。全体に指示を出してもらう」


「……任された」

「げ、この効率厨と二人きりですか……」


「大丈夫。何かあった時は、待機の『空中班』を使うといい」


「ま、通信機でも配布しておきましょう」

「隊長の任務は絶対。黙って俺に命を預けるんだな……」


 そういや、昨日博士が参謀って話を聞いたっけ。

 まあ……全体を見渡すなら、高速で空を飛べる彼と一緒がいいのか。


 ——フウロウさん。

 別の意味で大変そうだなぁ。




「というか、お前が参謀じゃないんだな?」


 続いて口を開いたのは師匠、シャドさん。

 彼はみんな気になっていた、隊長への問いを口にした。


「ああ。色々考えた結果……私は『武蔵』との一騎打ちに臨む」


 一拍置いて、隊長は答えた。

 みんな、口々に疑問を述べる。


「武蔵、だと?」

「敵が雇っている殺し屋です。ワタシ達は何度か戦闘しました」

「隊長が簡単に倒せないほどの相手なのです?」

「そういえば、僕らが街に着く前に……また戦ってたんでしたっけ?」



「ああ。その際、奴はとてつもない成長ぶりを見せていた。『闇の力』で強化された、飛ぶ斬撃……! あれを隊員たちに撃ち込まれると、被害が大きすぎる」


「闇の力……。あの短期間で『副種族(サブ)』を得たってことか」

「確かに、誰かが止めないとまずそうですねぇ」


「その通りだ。私は隊の中で、最も奴と対峙している。見つけ次第、抑えに向かうつもりだ」


 武蔵……! 最初に相対した、強敵。

 まさか、ここまでの存在になるなんてな。


 "隊長”という強大な戦力を使わざるを得ない……のか。



「俺ら“水中班”はどう動くんでぇ!? 隊長ォーッ!」

 その後、ホゲさんの声が足元から響く。


 一瞬遅れて、音が来る感じだ。


 腹の底を揺らすような、重低音。海面が震え、背に乗る僕らの足場ごと揺れる。

 鯨の巨体さもあるが、ホゲさん元来の声のデカさも影響しているのだろう。



「ああ。君たちには海岸でいざという時の脱出準備……また、不測の強敵への対応をお願いする」


「何だよ……派手じゃねぇなァ」


 彼はそうは言ったが、隊長なりの配慮だろう。

 いくら海移動のプロでも、この人数を乗せていると……その頃にはお疲れだろうからね。


 

 ——なるほど。作戦の大要は理解した。

 隊長が武蔵を抑え、地中班が敵を引きつけ、空中班と博士が戦況をコントロール。

 いざという時は、海中班が確保しておいた退路で逃げる。

 


 あれ? そうなると……



「……じゃあ」

 喉が、少しだけ乾く。


「ボスや幹部は……誰が相手するんですか?」



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