半人前の探検家
【前回の登場人物】
「ギザン・トライアングル」
(種族)ドリル・スシ
(年齢)42
(能力)構造を見極め、回転させる
(概要)約三千年前の英雄で、旅の仲間。カビ助の危機を救ってしまった。
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あの時の記憶が、現在もゆっくりと蘇る。
喉を潰されて、息ができなくて。力の差を、突きつけられて。
——もう無理だ、と。
そんな時に、助けてくれた人に対して……
——余計なことをするな、と。
確かに、そう思った。
そう、思ってしまったんだ。
「……僕は」
言葉が、喉で止まる。
握った拳に、じんわりと汗が滲む。
「僕は、一人じゃ……勝てなかった」
絞り出すように、吐き出す。
「…………」
ギザンは、何も言わない。ただ、静かに聞いている。
「助けられたんです。あなたに」
「……ああ」
「それなのに、皆には『僕が一人でやった』って……」
胸の奥が、また痛む。
「こんなの、間違ってる……!」
少しだけ、声が強くなる。
でも——その勢いは、すぐに萎んだ。
「いや……違うな」
首を振る。感情を口に出したことで、自分の頭が纏まった。
「間違ってるのは……僕の方だ」
ギザンの眉が、僅かに動く。
……何か、言いたげだな。
「一人でやらなきゃいけないって、どこかで思ってた」
「ああ……」
「師匠との“約束”も、そういう意味だって……勝手に」
息を吐く。
肺の奥に残っていた重さが、少しだけ抜ける。
「でも、違ったんだ」
「ああ……。我もそう思う」
ギザンはただ頷くだけ。
こういう、大人の対応を見ると……自分がまだ、未熟であると思い知らされる。
僕はゆっくりと、顔を上げる。
「僕は——“絶望しない”って決めてたのに、絶望したんです」
空を見ながら、はっきりと言った。
あの瞬間を、なぞるように。
「——貴方が来る前、思ったんです。“もう無理だ”って」
沈黙——。風が、静かに吹いた。
その後で。
「……それでも、汝は立ったではないか」
ギザンが、ぽつりと呟く。
確かにそうだ……。けど! それは!!
「貴方が隙を作ってくれたから、ですよ?」
「それが“見事”だと言っている」
即答だった。
迷いが、一切ない声。
「戦いとは、そういうものなり。常に“何か”を秤にかけねばならぬ」
「秤……?」
「一人で完結するものではない」
ギザンは、胸に手を置いて、こちらを見た。
「汝は、あの場で最善を選んだのだ」
「最善……?」
「そうだ。街を守るため、自らの“誇り”を捨てたでないか」
「あ…………!」
あの時の自分を、思い返す。
悔しさも、情けなさも、全部混ざったまま——それでも、踏み込んだ。
一人で倒したことにはならないと、理解しながらも。
「我には、それが出来なかった。情けない。先の魔女との戦いでは、民を捨てることを選んでしまった……!」
「ギザン……。」
否定しようとして、言葉が出なかった。ギザンが魔王を倒すべく大技を放ち、村人を巻き込んでしまった映像がよぎったからだ。
やっぱり……彼もあの時の決断は心に残っていたんだな。
何だか、心が楽になってきた。
(自分と同じように……僕よりも、戦っている人がいる?)
「村の民達も、汝の誇りも……戻っては来ないだろう」
「…………ですね」
「だが、汝の“夢”が潰えた訳ではあるまい?」
「え?」
「『半人前の探検家』よ。汝が現状で納得できぬなら——」
ギザンが、一歩だけ近づく。
僕は思わず姿勢を正した。
「——次で示せばよいだろう」
「次……? ……って!」
「うむ。いよいよ『決戦』なり」
遠く、城の門前を見る。既に、準備が進んでいる気配。
探検隊員達のざわめき。空気の張り詰め。
どうやら……隊長、ジェムさんが総員を集めたようだ。
——僕らの入隊時には見なかった顔ぶれも多くいる。
この戦力なら? 因縁の、『ダークスター団』にも?
それに……今は。僕のそばには。
「我らもついている」
ギザン・トライアングル。
彼は探検隊でない、協力者達の全てを代弁しているように感じた。
だからだろうか? その一言が、妙に重く響いた。
——そんな時。
「おい、何してる! 行くぞ?」
少し離れた位置から師匠の声。
いつの間にか……随分と、話し込んでいたらしい。
(内容は……聞かれてないよな?笑)
僕とギザンは、互いに頷き、振り返る。
「……はい!」
完全には、消えていない。
あの時の感覚は、まだ残っている。
喉の奥に引っかかる、「もう無理だ」という絶望も。
でも——それでいい。
全部、背負い込むのは、『一人前』とは違うんだ。
「一人じゃなくていい、ですよね?」
ぽつりと、呟く。
——あの時の僕なら、否定していた。
不思議だ。仲間に頼らなくても戦えるように、修行を乞うたのに。
結果的には「仲間に頼っていい」と教えられてしまった。
「……うむ。我も、汝を頼らせてもらうぞ」
ギザンが、静かに頷いた。
そうか……。一人で戦えるための力は、自分の“誇り”のためじゃなく。
(仲間に、“頼られるため”にあるのか)
拳を、ゆっくりと開く。
——震えはまだある。でも、さっきまでとは違う。
これが、武者震い……ってやつだろうか。
「行きましょう」
城へと続く道。仲間が、待っている場所。
ゴハートも、土台モンも。帰ってきているはずだ。
「今度は——ぜt」
一瞬だけ、言葉が止まる。
『絶望しないように、戦う』と言おうとした?
(いや、違うな。それが理想だけども)
僕は息を呑んで……続けた。
「——絶望しても、“選ぶ”のを止めません」
その時、ギザンが僅かに笑った気がした。
「それでこそだ。若き者よ」
風が、背中を押す。
足を踏み出す。もう、逃げない。
『余計なことをされた』
『一人では勝てなかった』
それが、どうした。
生き残って、立ち上がって。
大切なモノを守れたなら——それでいい。




