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半人前の探検家

【前回の登場人物】

「ギザン・トライアングル」

(種族)ドリル・スシ

(年齢)42

(能力)構造を見極め、回転させる

(概要)約三千年前の英雄で、旅の仲間。カビ助の危機を救ってしまった。

************************************************



 あの時の記憶が、現在もゆっくりと蘇る。


 喉を潰されて、息ができなくて。力の差を、突きつけられて。

 ——もう無理だ、と。


 そんな時に、助けてくれた人に対して……

 ——余計なことをするな、と。


 確かに、そう思った。

 そう、思ってしまったんだ。

 


「……僕は」


 言葉が、喉で止まる。

 握った拳に、じんわりと汗が滲む。


「僕は、一人じゃ……勝てなかった」

 絞り出すように、吐き出す。


「…………」

 ギザンは、何も言わない。ただ、静かに聞いている。


「助けられたんです。あなたに」

「……ああ」

「それなのに、皆には『僕が一人でやった』って……」

 胸の奥が、また痛む。


「こんなの、間違ってる……!」


 少しだけ、声が強くなる。

 でも——その勢いは、すぐに萎んだ。


「いや……違うな」


 首を振る。感情を口に出したことで、自分の頭が纏まった。


「間違ってるのは……僕の方だ」


 ギザンの眉が、僅かに動く。

 ……何か、言いたげだな。


「一人でやらなきゃいけないって、どこかで思ってた」

「ああ……」

「師匠との“約束”も、そういう意味だって……勝手に」


 息を吐く。

 肺の奥に残っていた重さが、少しだけ抜ける。


「でも、違ったんだ」

「ああ……。我もそう思う」


 ギザンはただ頷くだけ。

 こういう、大人の対応を見ると……自分がまだ、未熟であると思い知らされる。


 僕はゆっくりと、顔を上げる。


「僕は——“絶望しない”って決めてたのに、絶望したんです」


 空を見ながら、はっきりと言った。

 あの瞬間を、なぞるように。


「——貴方が来る前、思ったんです。“もう無理だ”って」


 沈黙——。風が、静かに吹いた。

 その後で。


「……それでも、汝は立ったではないか」


 ギザンが、ぽつりと呟く。

 確かにそうだ……。けど! それは!!


「貴方が隙を作ってくれたから、ですよ?」

「それが“見事”だと言っている」


 即答だった。

 迷いが、一切ない声。


「戦いとは、そういうものなり。常に“何か”を秤にかけねばならぬ」

「秤……?」

「一人で完結するものではない」


 ギザンは、胸に手を置いて、こちらを見た。


「汝は、あの場で最善を選んだのだ」

「最善……?」

「そうだ。街を守るため、自らの“誇り”を捨てたでないか」

「あ…………!」


 あの時の自分を、思い返す。

 悔しさも、情けなさも、全部混ざったまま——それでも、踏み込んだ。


 一人で倒したことにはならないと、理解しながらも。


「我には、それが出来なかった。情けない。先の魔女との戦いでは、民を捨てることを選んでしまった……!」

「ギザン……。」


 否定しようとして、言葉が出なかった。ギザンが魔王を倒すべく大技を放ち、村人を巻き込んでしまった映像がよぎったからだ。

 やっぱり……彼もあの時の決断は心に残っていたんだな。


 何だか、心が楽になってきた。

(自分と同じように……僕よりも、戦っている人がいる?)



「村の民達も、汝の誇りも……戻っては来ないだろう」

「…………ですね」


「だが、汝の“夢”が潰えた訳ではあるまい?」

「え?」


「『半人前の探検家』よ。汝が現状で納得できぬなら——」

 ギザンが、一歩だけ近づく。

 僕は思わず姿勢を正した。

「——次で示せばよいだろう」


「次……? ……って!」

「うむ。いよいよ『決戦』なり」


 遠く、城の門前を見る。既に、準備が進んでいる気配。

 探検隊員達のざわめき。空気の張り詰め。


 どうやら……隊長、ジェムさんが総員を集めたようだ。

 ——僕らの入隊時には見なかった顔ぶれも多くいる。


 この戦力なら? 因縁の、『ダークスター団』にも?

 それに……今は。僕のそばには。


「我らもついている」


 ギザン・トライアングル。

 彼は探検隊でない、協力者達の全てを代弁しているように感じた。


 だからだろうか? その一言が、妙に重く響いた。

 ——そんな時。


「おい、何してる! 行くぞ?」

 

 少し離れた位置から師匠の声。

 いつの間にか……随分と、話し込んでいたらしい。


(内容は……聞かれてないよな?笑)

 僕とギザンは、互いに頷き、振り返る。


「……はい!」


 完全には、消えていない。

 あの時の感覚は、まだ残っている。

 喉の奥に引っかかる、「もう無理だ」という絶望も。


 でも——それでいい。

 全部、背負い込むのは、『一人前』とは違うんだ。



「一人じゃなくていい、ですよね?」



 ぽつりと、呟く。

 ——あの時の僕なら、否定していた。


 不思議だ。仲間に頼らなくても戦えるように、修行を乞うたのに。

 結果的には「仲間に頼っていい」と教えられてしまった。


「……うむ。我も、汝を頼らせてもらうぞ」


 ギザンが、静かに頷いた。

 そうか……。一人で戦えるための力は、自分の“誇り”のためじゃなく。


(仲間に、“頼られるため”にあるのか)


 拳を、ゆっくりと開く。


 ——震えはまだある。でも、さっきまでとは違う。

 これが、武者震い……ってやつだろうか。


「行きましょう」


 城へと続く道。仲間が、待っている場所。

 ゴハートも、土台モンも。帰ってきているはずだ。


「今度は——ぜt」


 一瞬だけ、言葉が止まる。

 『絶望しないように、戦う』と言おうとした?


(いや、違うな。それが理想だけども)

 僕は息を呑んで……続けた。


「——絶望しても、“選ぶ”のを止めません」


 その時、ギザンが僅かに笑った気がした。


「それでこそだ。若き者よ」


 風が、背中を押す。

 足を踏み出す。もう、逃げない。


 『余計なことをされた』

 『一人では勝てなかった』


 それが、どうした。


 生き残って、立ち上がって。

 大切なモノを守れたなら——それでいい。

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