英雄の演説
【前回の登場人物】
「フウリン・ローリン」
(種族)トリ
(年齢)29
(能力)空間の動きを予測
(概要)探検隊の空中班長。略して「フウロウ」。
ざわめきは、やがて静まり——
張り詰めた空気だけが、その場を支配していた。
隊長は、台の上で息を吸う。
誰もが、息を呑んだ。
「これより決戦に向けての、作戦を伝える」
その一言で、空気が変わった。
ざわり、と波が広がる。
静かに、だが確実に重みのある声。
「正直に言うよ」
一拍。
「帰って来られない者も出るだろう……!」
その言葉に、場が凍りついた。
「そのくらい、奴らは手強い」
隊長の声だけが響く。
誰も、声を発さない。
いくら歴戦の『探検隊』といえど——恐怖は、確かにあった。
拳を握る者。視線を落とす者。小さく息を吐く者。
「確かに、奴らの兵力は複製体で未知数だ……!」
「俺の嫁は、帰った頃には石化させられていた……」
「いくら隊長でも、厳しいか……」
覚悟はあっても、“死”を突きつけられれば揺らぐ。
それが普通だ。
「しかし——」
隊長が続けようとした、その時。
僕は目の前で下を向く人たちに向けて……
「……逃げたら、終わりです」
気づけば、声が出ていた。
自分でも驚くほど、真っ直ぐな声だった。
一瞬……
空気が、止まった。
周囲の視線が、一斉にこちらへ向く。
「……マスター?」
ゴハートが驚いたように呟く。
うう。僕も自分で驚いてるよ。
何故、こういう時だけ勇気があるんだ、この口は⁉︎
喉が、足元が、震える。
でも——もう止まれない。
「怖いのは、当然です」
一歩、前へ出る。
「僕も……正直、行きたくない。死にたくないです」
少しだけ笑う。
誤魔化しじゃない、本音だ。
「ですが——」
拳を握る。
下を向いていた彼らの視線が集まる。
「動かなきゃ、やられ続けるだけです」
頭をよぎる。
監獄での戦い。泣いてばかりで、奪われ続けた自分。
ドドリ村の戦い。人任せで、動けなかった自分。
先の戦い。誇りを捨て、街を守った自分。
「“無理だ”って、思っても。それでも、動かなきゃいけない」
顔を上げる。
誰も、何も言わない。
「ここで止まったら……守れたはずのものも、守れなくなる」
息を吸う。
「だから……逃げても、駄目なんです」
話を締める。
でも、結論が出だしと同じになっちゃったか?
恥ずかしくなって、口を閉じる。
——数秒の沈黙。
誰も、何も言わない。
そして。
「……ははっ」
遅れて、誰かが笑った。
「ガキに言われちまったな……」
「私たち、情けないわね……!」
ざわり、と空気が揺れた。
誰かが顔を上げる。
それをきっかけに——
ぽつり、ぽつりと声が漏れる。
「俺は行くよ! 家族を……この街を、守るために!」
「馬鹿野郎、最初からそのつもりだ!」
「敵が化け物でも、俺たちの隊長も、班長だって最強だ!」
「あれ、あの子って……昨日街を救った”英雄”じゃない?」
「え? そうなのか? 俺はもっと巨漢の青年だと聞いたけど……」
「まあ、今はどうでもいいだろ⁉︎」
「隊長〜!」
「俺たちは、死ぬ覚悟くらい、出来てます!」
声が重なり——
やがてそれは、大きなうねりになる。
彼らの中の、”恐怖”は消えていない。
だがそれ以上に——
彼らの、探検隊としての、”覚悟”が上回った。
隊長は、その光景を静かに見ていた。
そして、小さく頷く。
「……ありがとう」
短く、それだけ言った。
僕はその間に、そそくさと土台モンの後ろに隠れました。
……やっぱ、英雄って柄じゃない。
「では——作戦を説明する」
空気が、改めて引き締まる。
「まず、主戦力である各班の班長を紹介しよう」
呼ばれ、前に出てくる影が四つ。
一人目は——
大柄な体躯。豪快なドリル状に変形した鼻。
地面を踏みしめる音。心優しいナイスガイ。
「地中班長の、『モグドン』だ」
低く、重い声。
数週間前に、一緒に旅してたのに……随分と懐かしく感じる。
「敵地に入ってからの前線は、俺の班が担う。道をこじ開けるのが仕事だ」
「「うおおおおおお!!」」
彼に続いて、地中班であろう人々が一斉に叫んだ。
だが、それを気にも止めずに前に出る人物。
二人目——
ぬるり、と不定形の影が滑り出る。
黒い博士帽を被った、丸っこい生命体。自称マッドサイエンティスト。
「地上班長の、『スライム博士』です」
独特の口調。だが、その目は鋭い。
——博士に関しては、本当に久しぶりだ。
よかった、無事に脱獄して……ここまで来れたんですね!
「え〜。ワタシは、参謀を務めます」
「参謀⁉︎」
「アレの指示を聞かなきゃいけねぇのかよ……」
「可愛い顔して、指示はえげつないって聞くからなぁ」
うん。気持ちは分からない事もない。
僕らも、初任務前はそうビビってました……。
博士の説明に、隊員さんたちはざわつく。
だが、彼はやはり——
「ゴホン。諸君らも知っての通り、ワタシは一度……敵の城に捕縛されていた」
周りを気に留めず、話を進める。
それによって、別のざわめきが発生するが。
「話には聞いてたが……デマじゃなかったのか」
「あの変態博士でもやられるとはな……」
「『ダークスター団』。ダサい名前でも、やはり侮れませんね」
その中で、一人の女性の声が際立った。
どうやら地上班の古株らしい。
「でも、博士は……タダでやられてはいませんよね?」
彼女の声に、博士は『待ってました』と言わんばかりに、嬉しそうに頷いた。
「当然です。奴らの根城の内部構造を、分析しておいた」
博士は帽子の中から、一枚の紙を取り出した。
地図だろうか?
……その紙に、視線が集まる。あんまり見えないけど。
「そして、脱獄したことで分かった、”重要な情報”があるんだよね?」
一拍置いて、隊長が話を振る。
博士は真剣な表情を作った。
「ええ、隊長。ワタシは海を渡ってここまで来ました。つまり……」
つまり……?
全員が察しながらも、彼の言葉を待った。
博士が堂々と結論を述べようと、口を開く。
——その瞬間。
「敵の本拠地は、この大陸ではない。ということだな」
三人目——
細身の険しい顔つきのトリ族。相変わらず無駄がない男。
空中班長、『フウロウ』さんがそれを奪った。
博士の大事な決め台詞を、誰かが奪う……。
——なんか前も見たな、この展開。
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