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情報リテラシー

 城門の前には、既に大勢の探検隊員が集まっていた。


 重苦しい空気。

 それでも、その奥にあるのは恐怖だけじゃない。


 ——覚悟だ。


「カビ助!」


 聞き慣れた声に振り向く。


 任務を与えられ、別行動していた仲間たち——だった。


「ゴハート……! 土台モンも!」


「無事だと信じてたぜ!」

「強くなったんですね、マスター」


 いつも通りの二人だ。

 それだけで、胸の奥の緊張が少しだけ緩んだ。


 そして……見慣れた影が、もう一つ。


「ピクコノさん……!」


「——おお、カビ助くん! 聞いたべよ。あの敵を、本当に一人で倒せたんだなや⁉︎」


 一人……じゃないけど。

 喉の奥で、言葉が引っかかった。


「はは……。ピクコノさんの伝言のおかげですよ」


 言葉を濁す。

 全部を説明する時間じゃない。嘘は言ってないし。


 でも——

 みんな無事に、再会できた。


 それだけで、十分だった。




 ——周囲では、隊員達がざわついている。


「本当にやるのか……?」

「あの『ダークスター団』相手だぞ……?」

「でも、ここで止めないと——」


 不安と決意が入り混じった声。


 その時だった。


 ——コツン、と音が響く。


 視線が一斉に前へ向く。

 簡素な台の上に、一人の男が立っていた。


 ドラゴンマスク……隊長だ。


 ざわめきが、波のように静まっていく。


 誰もが、彼を見ていた。

 その一挙手一投足を、見逃すまいとするように。


 隊長は一度、全員を見渡した。

 視線が自分を向くと、一瞬どきりとしてしまう。きっと誰もが同じだろう。


 そして——彼は静かに口を開く。


「まず、謝らせてほしい」


 その一言に、空気が張り詰める。


「私はこれまで、自分の正体を隠していた」


 一拍。

 僕ら以外にも、ちゃんと告げるのか……!


「『ジェム・カブリ』。それが、私の本名です」


 彼は仮面を外し、深く頭を下げた。


 ——ざわつきが、再び広がる。


「おい、『ジェム』ってあの……?」

「四年前、ブラックホールを倒した一行の一員だ」

「確かに、年齢的にも合点がいく」

「まさか、隊長の正体が……」


 だが、それは混乱ではなかった。


 驚き。そして——納得。



「黙っていたことについては、弁解の余地もない。不信を抱かれても仕方がないだろう」


 隊長は、もう一度頭を下げた。

 その動作に、迷いは一切ない。


「それでも——私は、この隊を守りたかった」


 顔を上げる。

 その目は、真っ直ぐだった。


「”肩書き”ではなく、“何を成すか”で判断してほしかった」


 静かに、しかし力強く。

 その言葉は、真っ直ぐに全員の胸へ届いた。


 そして、次の瞬間——


「そんなの関係ねぇだろ!!」


 誰かが叫んだ。

 それを機に、次々と声が上がる。


「隊長は、隊長だ!」

「今までやってきたこと見りゃ分かる!」

「俺ら、あんたに着いていくって決めてんだよ!」


 それらは、反発じゃない。


 ——圧倒的な、信頼。

 彼が作り上げてきたこの組織は、少しの揺らぎでは崩れないのか。


 歓声が広がる。


 誰も、彼を責めていない。


 それどころか——

 より強く、背中を預けようとしている。


「これが、現代の”英雄”であるか」


 ギザンも隣で、小さく震えていた。


「『種族の壁を乗り越える』……。それが詰まっているのが、この組織です」


「一見”当たり前”に聞こえるその言葉も……心の奥底では出来ていないのが現実」


「『ドドリ村』なんかも、悪い例だべな……」


 土台モンたちも、続けて感嘆を述べる。


 でも僕は……その光景を、ただ静かに見ていた。


 胸の奥が、じんと痛む。


(……なんで、疑ってたんだろう)


 あの時。

 ミツバの言葉を、疑いもしなかった。


 『ジェム・カブリ』は悪者だと。

 ずっと人を騙していた……信用してはいけないと。


 彼女が述べたのは、全て”事実”ではあった。

 実際に彼は『探検隊』のみんなを騙していた。


 ——でも、それは()()()()()()


 今、目の前にいるのは……

 誰よりも、仲間を想っている人だ。


 その証拠がこの、呑まれそうになる程の大歓声。


 とっくに疑いは晴れていたけど……

 あの時の自分が、少しだけ恥ずかしくなる。



 ふと、ある言葉が蘇った。


 ドドリ村に向かう道中——

 風の中で、淡々と告げられた声。




 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




「お前、『全て』を知りたがっているだろ」


 指を差された瞬間、背筋が伸びた。


 ——空中班長、フウロウさん。


「何でも首をつっこむ。言われたことを信じる。危険な兆候を()()()で無視する」


 風の流れをなぞるように、彼は言った。

 題目だけを、淡々と告げる。


「それは”勇気”じゃない。情報リテラシーの欠如だ」


 痛いほど、刺さる。


「お前、隊長の正体が悪だと信じ込まされたらしいな?」


 僕は咄嗟に言い返そうとする。


 確かにそうだけど、彼女は悪くない!


「いや、ミツバは……」


 反論しようとして——止まる。


 言葉が、出てこない。


「ふう……いいか?」


 彼の声が、少し低くなる。


「世界は優しくない。だからこそ、誰の言葉なのか……その情報で()()()()()()()。それを考えろ」


 僕は唾を呑み、言葉を待った。


「——考えない奴は死ぬ。そして、何も救えない」


 逃げ場のない断言。

 フウロウさん……彼が口にするのは、事実ばかりだ。


 隊長の正体が悪だと言われたことに対して……

 言いたいことは、山ほどあるのだろうに。


「信じるなとは言わない。だが、確認しろ」


 視線を外し、空を見る。


「お前は、その女を救いたいんだろう?」


「——そうです」


 だからこそ、彼女の言葉を信じたのだが。



「ならまず——”嘘”と”勘違い”と”願望”を見分けろ」


 風が吹いた。

 彼が操作しているのか、はたまた偶然か。


「救いたいなら、感情より先に情報を持て」


 ——それで彼の言葉は終わった。


 怒鳴られたわけでもないのに、胸がひどく痛んだ。


 彼の言いたいことって、要するに……




 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




 ——今なら、分かる。


 あの時の自分は、信じたんじゃない。

 ()()()()()()だけだ。 


「……僕は」


 小さく、呟く。

 誰にも聞こえないくらいの声で。


「次は……自分で選びます」


 顔を上げる。

 その時には、隊長は既に次の言葉を紡いでいた。



 ミツバを真の意味で救うには……”肯定する”だけじゃ、ダメだ。

 


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