決意と動揺
——僕は、考え続けた。
何度も、試した。何度も、失敗した。
その度に、師匠にアドバイスをもらった。
そして、僕は、能力の限界を理解した。
僕の能力は、感情を増幅して、“繋がる”ことができる。しかし師匠の言った通り、それには制約があって——繋がる対象は「“血の繋がり”を持った者」に限られていた。
僕の場合だと、父さんと母さん……そして「僕の能力で召喚された者たち」だ。
「使い魔」たちは、本当の血縁関係ではないが——召喚される時に、どうやら僕の体から出た“血”を媒介していたらしい。その影響で、「“血の繋がり”を持った者」に含まれていた。
と、いうことが師匠のアドバイスで分かった。
(……これだけ聞くと、「それでもチートだ」と思われるだろう。)
…………当時は、僕も本気でそう思った。
これで、全部ひっくり返せるって。喜んだ。
しかし……残念なことに。
制約は他にもあった。残念なことに。
繋がるためには“媒体”が必要。
師匠には、『電話と同じ原理だ』と説明された。
遠距離にいる相手と繋がるには、何かしらを媒介する必要がある。今の場合は、“呪文”を唱えることで、遠距離にいる相手と繋がるようにしている。
——ちなみに今使っている“呪文”は、幼い頃に父さんに教わった童謡だ。
『ツルピカフラッシュ』を直伝して貰っていた頃に、よく言い聞かされていた。
僕がなぜ、父さんの技を使えるのか——その理由を考えていた際に、この童謡が頭に浮かんだのである。
なぜ、この童謡が呪文に流用できるのか? 『ツルピカフラッシュ』修行の際に、父さんがこれを言い聞かせたのは“偶然”なのか? 偶然でないならば、なぜ父さんは僕の能力を知っていたのか? そして、なぜ——
当時、疑問は尽きなかった。
だが『考えるだけムダだ』と判断し、修行に励んだ。
目の前に“答え”があるなら、応用する。
その練習をした方が、早く力を付けられる。
——僕には、時間がない。
ジャックを倒さなければ。可能な限り、急いでミツバを救わなければ。
そうして……
約五日間の努力の末、僕は三つの技を習得。
たった五日で、叩き込んだのだ。身体は限界だった。
でも——止まれなかった。
ゴハートの『人魂シュート』に、ミツバの『浄化の花粉』。
そして土台モンの『隆起』だ。
彼らの全ての技を再現できるかと思ったが……やはりそう甘くはない。
どうやら「何度か見た単純な技」にしか接続できないようだ。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
——そして、今に至る。
まあ、無事に習得でき、敵を一人倒せたんだ。
今は悩んでいる場合じゃない。
意識を、強引に現実へ引き戻す。大きく息を吐く。
「はぁ……」
目の前には、最後の敵。
奴を倒せば、この街の脅威は全てなくなる。
僕はもう、一人じゃない。
この「仲間の力」を活用して、師匠の手を借りずに“完全勝利”を収めるんだ。
ゆっくりと、構える。
「行くぞ」
戦いは、まだ終わっていない。
それなのに——奴は未だに、こちらを見据えたまま動かない。
「…………」
本当に、静かだ。相方がやられて、動揺しているのか?
それとも、何か企んでいる?
僕はゆっくりと息を吸い、構え直した。
「……何が来ようと、勝つ」
失敗しないよう、慎重に動く。
さっきと同じように……もう一度、人魂を打ち込めばいい。
黒い蟻は倒した。
……連携攻撃はない。毒に気をつければいいだけ。
シャドさん……師匠も、信じて背後から見守ってくれている。
「もう一回、力を借りるよ。ゴハート」
再び、手の甲にエネルギーを集中させる。
——確かな手応え。
これほどの出力なら、一撃で倒せる。
僕は迷わず、弾を放出する。
いつも通り、コントロールは完璧。
大丈夫だ、と言い聞かせる。
——言い聞かせないと、崩れそうだった。
「『人魂シュート』」
赤い蟻も、突然の大技に慌てている。
あの反応速度ならば、かわせないだろう。
「喰らえぇ!」
希望が、見えてきた……!
だが——その時。
「……っ?」
何かが、視界の端を横切った。
音もなく、一瞬。小さくて、黒くて、丸い——“何か”が。
風を裂くような速度で、それは通り過ぎる。
「今のは?」
速く飛ぶ、小さく丸い、黒の塊といえば——
もしかして、師匠の『黒舎利弾』か?
……と思って振り向いたが、彼も戸惑っていた。
「まさか、援軍……?」
……と、思って視線を戻した。
だが、赤い蟻自身もその“何か”に、戸惑っていた。
そして、この場の全員の思考が追いつくよりも先に——
“それ”は、赤い蟻の体へと……吸い込まれた。
「なに……?」
「……まずい予感がするな」
師匠がぽつりと呟いた。
(ドリあえず、距離を詰める……?)
だが、その判断は間違いだった。
——次の瞬間。
ギチ、と。赤い蟻の体が、軋むように動いた。
「——……ォ」
低い音。奴の喉の奥から、何かが漏れる。
——さっきまでとは、明らかに違う。
空気が、変わる。
「——オォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!」
咆哮。地面が、震える。
『人魂シュート』は死者の意思を宿した技。
普段はそれがメリットになるのだが——人魂は怯えたのだろうか?
奴の叫びで、“弾”はかき消されてしまった。
僕も判断とは逆に、思わず一歩、後ずさる。
「……なんだ、これ……!?」
目の前の存在が——
さっきまでの奴とは、別物になっていた。
赤い外殻が、脈打つ。黒い何かが、内側から滲み出るように広がっていく。
そして——ゆっくりと、こちらを見下ろした。
「先程は、よくもやってくれましたねぇ…………?」
「しゃ、喋った……!?」
おかしい。だって複製体は“感情”も“記憶”も持たない。
ただ命令を無言で実行するだけ……のはずなのに。
口数は少ないが、こいつは確かに喋った。
——殺してやるという、恐ろしい圧を感じる。
こいつはもう。
さっきまでの、“命令に忠実な複製体”じゃない。
見た目は、さほど変化は無い。だが……存在感が、違う。
まるで——“何か”に、存在を書き換えられたみたいに。
「……っ!」
喉が鳴る。足が、勝手に一歩下がる。
——やばい、と本能がそう告げていた。
「……でも」
それでも。僕は、構えを崩さない。
逃げるわけにはいかない。
ここで止めなければ——今度こそ、街がやられる。
「……来いよ」
震える声を、無理やり押し出した。
その最中、師匠はまだ、動く気配がない。
——そうですよね。
『何があっても手を出さない』と宣言しましたもんね。
この程度……一人で切り開かなければ「一人前の探検家」とは言えない。
この程度の絶望で、止まるなら——“師匠”に認められた意味がない。
「父さん……ごめん!」
僕は、ここで死ぬかもしれない。
そして……やっぱり“仇”は打てない。
この修行期間を経て、認めてしまったから。
『シャド・リーラッシャイ』は、最高の“師匠”である、と。
https://kakuyomu.jp/users/SandInHarumaki/news/2912051600007165465




