表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/99

不屈vs嗜虐


 熱が、集まる。


 遠くにいるはずの彼と、繋がる感覚。


「『人魂シュート』」


 放たれた炎弾が、一直線に飛ぶ。

 だが——


 赤い蟻は、動かない。


甘い(Sweet)


 その一言と同時に、身体を僅かに傾けるだけで——


 炎は、外れた。


「なっ……!?」


「軌道が素直すぎますよ」


 そして次の瞬間。

 ——視界が、揺れた。


「っ!?」


 衝撃。

 横から叩きつけられる。


 気づけば、地面に転がっていた。


「が……っ……!」

 息が、詰まる。


 肺が潰れたみたいに、空気が入らない。

 いや、でもしかし——


 殴られただけで、こうなるか?


「毒の大技は、使っていないと思いましたか?」


 声は、すぐ近くから聞こえた。

 顔を上げる。


 目を凝らすと——

 空気中に、薄く赤の粒子。まさか⁉︎


「”散布型”です。吸い込めば、反応が遅れる」


「く……っ」


 立ち上がる。

 だが、足がわずかに重い。


 まずい。


「走れない……!」


 それに、さっきの攻撃。

 完全に視認できていない。


「では、もう一度」


 ——来る。

 もう一度くらえば、今度こそやられる。


 呪文も使えず、師匠の助けも望めない。


 だが……まだ、絶望はしない。

 いや、正確には……したいけど、()()()()()()()


 今度は、集中する。


 気配を読む。

 目で見えないのならば、空気の流れを感じる。


 フウロウさんを思い出せ。

 彼は、僅かな呼吸の乱れにも反応し、僕らを測定していた。


 それはきっと『能力』の問題じゃない。


 ——次の瞬間。

 右方向で、本当に空気が動いた。ような気がした。


「今は、勘でも何でも、頼るしかない!」


 即座にしゃがむ。


 すると頭上を、何かが掠めた。

 危なっ!


「避けますか……」


 今が、攻め時(カウンター)

 僕はそのまま前に踏み込み——


「『人魂シュート』ッ!!」


 ゼロ距離で、力を込めてもう一発。


 爆炎。

 確かな手応えを感じた。


 煙が巻き起こって、敵の姿がよく見えない。


 ……やったか!?

 そう言いたくなるが、絶対フラグになる。


 油断していては、足元を掬われる。

 ——この長い旅で、何度も学んだ。


「ひとつの声は風に消え ふたつの想いは空に散る

 みっつの祈りが重なる時 道なき道が開かれる

 私の声を標とし 今ここに血の力を」


 ()()赤い蟻ならば、すぐに復活する。

 僕はそう読み、その隙に身体に回る毒を浄化しようと試みた。


「『浄化の花粉』」


 パサァァァ……

 全身に行き渡るように、思いっきり粉を浴びた。


 毒の回りが止まるのを感じる。

 これで、痺れは取れた。走れる。だが——


「ぜぇ……はぁ」

 強敵と連戦し、技を多用したことで体力が限界に近い。


 『浄化の花粉』は、浴びるだけでは——毒は消せても、疲れは取れない。


 ミツバのように、人を眠らせる程の量が出せればいいのだが。

 ——今の僕にはそれが出来ない。


 そして、煙が、晴れる。


 そこには予想通り——


「……危なかった(Dangerous)


 立ち上がっている、赤い蟻。


「体表に毒膜を張りました。何とか熱を流せましたよ」


「は……?」


 理解が、追いつかない。


 毒粉に、そんな使い方……アリかよ⁉︎

 こいつ……やはり知能レベルが、さっきと別物だ……!


「あの黒い塊は、クローンに知能を与えるモノだったのか⁉︎」


 汗が、背中を伝う。呼吸が、乱れる。

 毒の痺れもある。腕が、重い。


 さっきまでの勢いが、嘘みたいに消えていく。


「疲れてきましたね?」

 奴は楽しそうに、言った。


「いいですよ。その顔。実に、壊し甲斐がある」


 口角が吊り上がり、嫌らしい笑みを浮かべた。

 そこからは「殺すこと」を命じられたであろう複製体(クローン)に存在しないはずの、「いたぶってやる」という意思を感じられた。


「……っ!」


 今、理解した。

 こいつに与えられたのは”知能”ではない。

 『メディ先生』の場合と同じ……”感情”だ。


 踏み込まれる。


 ——速い。

 さっきより、さらに。


 空気を読もうにも——

 反応が、間に合わない。


「ぐっ!?」


 腹に、衝撃。

 次の瞬間には、宙に浮いていた。


 叩きつけられる。骨が軋む。


「がはっ……!」


「貴方の精神力は凄まじい。まだ立てるでしょう?」


 静かな声。

 だが、奴は僕のことを買い被っている。


「どうしました? まだ終わっていませんよ?」


 こんな状態で、立てるわけがない。

 結局、敗北か……。情けない。



 絶望を感じた、その瞬間。


「カビ助ぇ‼︎ 『自信を持て』と言っただろ⁉︎」


 師匠の叫びが、耳に届いた。

 幻聴か? いや……何だっていい。


 大事なことを、思い出せた。

 僕は、『一人前の探検家』を目指す以前に——


 生き延びて、仲間を救わなければならない。


 冷たい地面に、手をつく。震える腕で、身体を起こす。

「……まだ、だ……!」


 視界が、滲む。

 それでも、赤い蟻を睨んだ。


「ほう?」

 奴は感心したように、首を傾げる。


「本当に、まだ戦意を保つとは。これが”師弟の絆”という奴ですか?」


「負ける訳にはいかない!」


「ですが——そろそろ、限界でしょう?」


「くっ……」

 否定しようとして——言葉が、出ない。


 息が、続かない。身体が、言うことを聞かない。


 意志は貫けたのに、視界はぶれる。


「——終わりです」


 目の前に、影。


 毒の攻撃か⁉︎

 限界の腕を、死ぬ気で動かす。


『浄化の花粉』


 だが——違った。

 僕は首を、掴まれた。


「——がっ……!?」


 持ち上げられる。

 足が、地面から離れる。


 パサリと、花粉がただ無様に地に落ちた。


 呼吸ができない。

 じわじわと締め付けられる。


 確実に。丁寧に。残酷に。


「いい顔ですねぇ!」


 目の前で、嘲笑われる。


「恐怖と、無力と……一筋の”希望”」


 指に、力が込められる。


「順に壊していけるのが、楽しみですよ」


「……っ……!」


 必死でもがく。

 だが、びくともしない。


 視界が、暗くなる。


「まずは、その自信から折りましょうか」


 耳元で、囁かれる。


「ヒアリの握力は、体重の五十倍に及ぶ。私の場合だと約三トンです」


「っ……⁉︎」

 それがもし本当ならば……身体を掴まれた時点で……!


「そう。貴方の力では、もう何も抵抗できません」






ゲホっ…ゴホっ…! 「ブックマーク登録」「いいね」「評価」を頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ