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課題3 : 能力の制御

【前回の登場人物】

「カビ助」

(種族)ヒト

(年齢)14

(能力)感情を巨大化させる

(概要)この物語の主人公。修行により、仲間の技を使えるようになっていた。

************************************************



 直撃。轟音とともに、炎が弾けた。


 舞っていた粉が、吹き飛ぶ。煙が、揺れる。

 やがて——その中から現れたのは、動かなくなった、黒い蟻の姿だった。


「……はぁ……っ」


 膝が、震える。

 息が荒い。

 視界が揺れる。


 だけど——まだ僕は、倒れない。


「……倒した」


 本当に? これで終わり?

 胸の奥に、じわじわと実感が広がっていく。


 勝ったんだ。僕が――一人で。


 自分の口から出た言葉が、やけに遠く感じた。


 そして、視線を上げる。

 残るは——赤い蟻だけ。


「…………」


 無言のまま、こちらを見ている。


 だが——

 さっきまでの圧は、もうない。


 黒い蟻を倒したことで、白い粉を気にする必要がなくなった。

 いくら身体に付着しても、硬化の術が発動しないからだ。


 目の前の敵——

 毒の粉にだけ、気をつければいい。


「……勝ったも同然?」


 思わず、そう呟いた。


 毒だけなら、対処できる。

 ミツバの力のおかげ……だ。

 彼女には本当に、助けられてばかり。


「…………」

 赤い蟻は、まだ様子を伺っている。


 またこっちから仕掛けてやろうか?

 ——そう思った瞬間。


「油断するな、馬鹿弟子」

 低い声が、背後から響いた。


「……!」

 振り向く。そこにいたのは——シャドさん。

「師匠……!」


 彼は肩で息をしながらも、しっかりと立っている。

 その背後には、毒を受けた隊員たちが横たわっていた。

 ……全員、呼吸はある。


「救助は終わった。お前のおかげだ」


 そうか——!

 黒い蟻の意識が途絶えたことで、皆さんの硬化も解けたのか。

 

 師匠は、倒れた蟻と、ボロボロの僕を一瞥して……


「よくやったな」

 そう、呟いた。


「……え?」

 一瞬、意味が分からなかった。


 師匠は腕を組んでいる。その目は、いつものように鋭い。

 だけど——ほんの少しだけ、柔らいでいた。


「これでようやく……『一人前』か?」

「……!」


 胸の奥が、熱くなる。

 ……息が詰まる。言葉が、出ない。


(認められた? あの師匠に、『一人前の探検家』だと?)

 そうか——。

 僕は一人で『探検隊』の一員として、役目を果たせたんだ。


「……っ、はは……」


 思わず、笑ってしまう。

 こんなボロボロなのに。情けない所もあって、ギリギリだったのに。


「能力の修行……やって良かったです」


 ぽつりと、零れた。

 その言葉に引きずられるように——夕焼けの色が、脳裏に滲んだ。



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



 修行、七日目の夕方。


 クレーターの縁から落ちる影が長くなり——

 僕らのいる、底の空気も少し冷えてきていた。


 岩の上に座り込み、水筒を傾ける。


「はぁ……」


 今日だけで、何セット筋トレをしただろう。


 筋肉はまだ震えているが、達成感がある。

 ノルマであった……千二百回を達成したのである。


「よし、明日からは次の段階に行こう」


 少し離れた場所で——

 シャドさんは地面に、棒で何か図のようなものを描いていた。


 しばらくしてから、僕を見ずに言う。


「お前の能力だが——」

「はい?」


 顔を上げる。

 シャドさんは棒を放り捨てた。


「『ツルピカフラッシュ』だけでは、決定打に欠ける」

「……」


 痛い所を突かれた。


 隊長との実戦練習で……いや、ずっと前から感じていたこと。

 僕の得技である『ツルピカフラッシュ』は、どこまで行ってもただの“目眩し”。一時的な“逃げ”に過ぎない。


 敵に致命的なダメージを与えるには、ダガーを使うしかなかった。

 しかし、それで対応するのにも限界がある。


 ——これから先に相手にするのは強者ばかり。

 特に……あの『武蔵』には、ダガーなど通用しないだろう。


「でも……僕には別の能力もありますよ?」


 異界から“使い魔”を召喚する能力。

 誰が来るかによっては——無限大の可能性だ。


 しかしシャドさんは、鼻で笑った。


「その力は、制御できねぇだろ」

「……」


 再び、痛い所を突かれた。


 ——八岐大蛇(メドゥーサ)との戦い。

 僕はこの力に頼ろうとした。

 だが——結果は不発で、そのまま何も出来ていない。


 不安定な力は、いざという時に役に立たない。


「“自分の力”としては、カウントできないという事ですか……」


 奥歯が、きしむ。

 気づけば、拳を握りしめていた。


 ……無力。

 やはり僕は、他人に頼るしかないのか。


 その時。

 シャドさんは地面の図を指差した。


 そこでは『頭部の光の増幅』『感情の増幅』『使い魔の召喚』という三つの枠組みが線で結ばれ、それぞれの上に『?』の文字が記されていた。


「一つ……気になった可能性がある」

 シャドさんの口角が、少しだけ上がる。

「『個人の能力は一つだけ』というのは知っているな?」


 『DR星』に昔から伝わる法則。

 これまで何度も体験してきた事実である。


 学校に通っていれば誰もが習う常識だ。


「もちろんです。けど……それが何です?」


 僕がそう問いかけると、シャドさんは少しだけ、声を大きくした。


「ではなぜ——」


 一拍。そして再び図を指差す。

 その先には、線上の『?』の文字。


「『感情を増幅させる能力』を持つお前が、『ツルピカフラッシュ』を打てる?」

「…………あ」


 言葉が、詰まる。


 言われてみれば、確かにそう。

 『ツルピカフラッシュ』は父さんの能力が実現させている技だ。


 僕の能力が、本当に『感情の増幅』ならば。

 法則的に、使えているのは不自然だ。


「“教わったから当然”といって、気にせず使って来たのだろうが……」


 指で、こめかみを軽く叩かれる。

 ……結構痛い。


「カビ助。もっと“当たり前”に疑いを持て」

「……?」

「ここからは、俺の推測だが——」


 シャドさんは、地面を軽く蹴った。


「お前の能力の本質は、“感情”だ」

「ですね」


 ——やはり、ゴハートが言った通り。


「感情が強いほど、人は“共鳴”する」

「共鳴……?」

「お前は、“それ”を増幅できる。父親レベルの関係性ならば、『能力』を再現できる程に」

「は……!」


 頭の中で、何かが繋がる。

 あり得ないような話だが——シャドさんの推測は、しっかりと理屈が通っていた。


「……つまり、僕は」

 喉が、少し乾いた。

「他人の技を、コピーできる……?」


 自分で言ってて、馬鹿みたいだと思った。

 ——こんなチートみたいな能力、あるわけない。


 だがシャドさんは頷いた。


「まあ、そうだな」

「ええ……?」


 一瞬、止まる。

 が、やはり驚きは隠せない。


「えええええ!?」

 僕は思わず跳び上がっていた。

「本当に、チートじゃないですか!?」


 父さんの技だけじゃなく、他の技も使えるとなると……?


 ドラゴンの力に、スライムの力に、憑依に、石化光線……!

(へへへ、想像が広がる。)


 僕にこんな力があったなんて。物語の主人公みたいだ。

 無限大の可能性に、興奮が止まらない。



 だが、シャドさんは平然としていた。

 ——その冷静な態度に、僕の興奮は抑えられる。


「だが、もちろん制約はあるだろう」

「……」

「例えば、対象は“血縁”に限られる、とかな」

「う……」

「それに、お前の力が本当に“チート”なら——」

「……!」


「今まで絶望などしていない……だろ?」

「ううっ……」


 現実に引き戻された。

 やはり……僕の人生はそう上手くいかないらしい。


 すみません。調子に乗ってました。


「まあ……ですよね〜」


 僕は特大のため息をついた。

 シャドさんは少し笑って、僕を見つめる。


「能力が“チート”になるかどうかは、使い方次第だ」

「使い方……?」


 まあ、確かに……そうかも?

 隊長なんかが、その最たる例だろう。


 『カタツムリを操る』という、一見何が出来るのかよく分からない能力。それを、遠隔操作や粘液などに拡張して……ドラゴンの力に頼らずとも、あれ程の対応力を見せていた。本質を知らなければ、初見ではチートにも見えてしまうだろう。


「明日から、自分で考えて試してみるんだな」


 シャドさんはそれだけ言うと——

 岩の上に寝転がり、静かに目を閉じた。


 僕は、何ができるのだろう。


 夕焼けが、空を赤く染めている。

 僕はクレーターの底に立ったまま、自分の手を見つめた。



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