課題3 : 能力の制御
【前回の登場人物】
「カビ助」
(種族)ヒト
(年齢)14
(能力)感情を巨大化させる
(概要)この物語の主人公。修行により、仲間の技を使えるようになっていた。
直撃。
轟音とともに、炎が弾けた。
舞っていた粉が、吹き飛ぶ。
煙が、揺れる。
やがて——
その中から現れたのは、
動かなくなった、黒い蟻の姿だった。
「……はぁ……っ」
膝が、震える。
息が荒い。
視界が揺れる。
だけど——
まだ僕は、倒れない。
「……倒した」
自分の口から出た言葉が、やけに遠く感じた。
そして、視線を上げる。
残るは——赤い蟻だけ。
「…………」
無言のまま、こちらを見ている。
だが——
さっきまでの圧は、もうない。
黒い蟻を倒したことで、白い粉を気にする必要がなくなった。
いくら身体に付着しても、硬化の術が発動しないからだ。
目の前の敵——
毒の粉にだけ、気をつければいい。
「……勝ったも同然?」
思わず、そう呟いた。
毒だけなら、対処できる。
ミツバの力のおかげ……だ。
彼女には本当に、助けられてばかり。
「…………」
赤い蟻は、まだ様子を伺っている。
またこっちから仕掛けてやろうか?
——そう思った瞬間。
「油断するな、馬鹿弟子」
低い声が、背後から響いた。
「……!」
振り向く。
そこにいたのは——シャドさん。
「師匠……!」
彼は肩で息をしながらも、しっかりと立っている。
その背後には、毒を受けた隊員たちが横たわっていた。
……全員、呼吸はある。
「救助は終わった。お前のおかげだ」
そうか——!
黒い蟻の意識が途絶えたことで、皆さんの硬化も解けたのか。
師匠は、倒れた蟻と、ボロボロの僕を一瞥して……
「よくやったな」
そう、呟いた。
「……え?」
一瞬、意味が分からなかった。
師匠は腕を組んでいる。
その目は、いつものように鋭い。
だけど——
ほんの少しだけ、柔らいでいた。
「これでようやく……”一人前”か?」
「……!」
胸の奥が、熱くなる。
息が詰まる。
言葉が、出ない。
認められた。
あの師匠に。『一人前の探検家』だと。
そうか——。
僕は一人で、『探検隊』の一員として、役目を果たせたんだ。
「……っ、はは……」
思わず、笑ってしまう。
こんなボロボロなのに。
情けない所もあって、ギリギリだったのに。
「能力の修行……やって良かったです」
ぽつりと、零れた。
その言葉に引きずられるように——
夕焼けの色が、脳裏に滲んだ。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
修行、七日目の夕方。
クレーターの縁から落ちる影が長くなり——
僕らのいる、底の空気も少し冷えてきていた。
岩の上に座り込み、水筒を傾ける。
「はぁ……」
今日だけで、何セット筋トレをしただろう。
筋肉はまだ震えているが、達成感がある。
ノルマであった……千二百回を達成したのである。
「よし、明日からは次の段階に行こう」
少し離れた場所で——
シャドさんは地面に、棒で何か図のようなものを描いていた。
しばらくしてから、僕を見ずに言う。
「お前の能力だが——」
「はい?」
顔を上げる。
シャドさんは棒を放り捨てた。
「『ツルピカフラッシュ』だけでは、決定打に欠ける」
「……」
痛い所を突かれた。
隊長との実戦練習で……いや、ずっと前から感じていたこと。
僕の得技である『ツルピカフラッシュ』は、どこまで行ってもただの”目眩し”。一時的な”逃げ”に過ぎない。
敵に致命的なダメージを与えるには、ダガーを使うしかなかった。
しかし、それで対応するのにも限界がある。
——これから先に相手にするのは強者ばかり。
特に……あの『武蔵』には、ダガーなど通用しないだろう。
「でも……僕には別の能力もありますよ?」
異界から”使い魔”を召喚する能力。
誰が来るかによっては——無限大の可能性だ。
しかしシャドさんは、鼻で笑った。
「その力は、制御できねぇだろ」
「……」
再び、痛い所を突かれた。
——八岐大蛇との戦い。
僕はこの力に頼ろうとした。
だが——結果は不発で、そのまま何も出来ていない。
不安定な力は、いざという時に役に立たない。
「”自分の力”としては、カウントできないという事ですか……」
奥歯が、きしむ。
気づけば、拳を握りしめていた。
……無力。
やはり僕は、他人に頼るしかないのか。
その時。
シャドさんは地面の図を指差した。
そこでは『頭部の光の増幅』『感情の増幅』『使い魔の召喚』という三つの枠組みが線で結ばれ、それぞれの上に『?』の文字が記されていた。
「一つ……気になった可能性がある」
シャドさんの口角が、少しだけ上がる。
「”個人の能力は一つだけ”というのは知っているな?」
『DR星』の法則。
これまで何度も体験してきた事実である。
学校に通っていれば誰もが習う常識だ。
「もちろんです。けど……それが何です?」
僕がそう問いかけると、シャドさんは少しだけ、声を大きくした。
「ではなぜ——」
一拍。そして再び図を指差す。
その先には、線上の『?』の文字。
「『感情を増幅させる能力』を持つお前が、『ツルピカフラッシュ』を打てる?」
「…………あ」
言葉が、詰まる。
言われてみれば、確かにそう。
『ツルピカフラッシュ』は父さんの能力が実現させている技だ。
僕の能力が、本当に『感情の増幅』ならば。
法則的に、使えているのは不自然だ。
「”教わったから当然”といって、気にせず使って来たのだろうが……」
指で、こめかみを軽く叩かれる。
……結構痛い。
「カビ助。もっと“当たり前”に疑いを持て」
「……?」
「ここからは、俺の推測だが——」
シャドさんは、地面を軽く蹴った。
「お前の能力の本質は、”感情”だ」
「ですね」
——やはり、ゴハートが言った通り。
「感情が強いほど、人は”共鳴”する」
「共鳴……?」
「お前は、”それ”を増幅できる。父親レベルの関係性ならば、『能力』を再現できる程に」
「は……!」
頭の中で、何かが繋がる。
あり得ないような話だが——
シャドさんの推測は、しっかりと理屈が通っていた。
「……つまり、僕は」
喉が、少し乾いた。
「他人の技を、コピーできる……?」
自分で言ってて、馬鹿みたいだと思った。
——こんなチートみたいな能力、あるわけない。
だがシャドさんは頷いた。
「まあ、そうだな」
「ええ……?」
一瞬、止まる。
が、やはり驚きは隠せない。
「えええええ!?」
僕は思わず跳び上がっていた。
「本当に、チートじゃないですか!?」
父さんの技だけじゃなく、他の技も使えるとなると……?
ドラゴンの力に、スライムの力に、憑依に、石化光線……!
へへへ、想像が広がる。
僕にこんな力があったなんて。物語の主人公みたいだ。
無限大の可能性に、興奮が止まらない。
だが、シャドさんは平然としていた。
——その冷静な態度に、僕の興奮は抑えられる。
「だが、もちろん制約はあるだろう」
「……」
「例えば、対象は”血縁”に限られる、とかな」
「う……」
「それに、お前の力が本当に”チート”なら——」
「……!」
「今まで絶望などしていない……だろ?」
「ううっ……」
現実に引き戻された。
やはり……僕の人生はそう上手くいかないらしい。
すみません。調子に乗ってました。
「まあ……ですよね〜」
僕は特大のため息をついた。
シャドさんは少し笑って、僕を見つめる。
「能力が”チート”になるかどうかは、使い方次第だ」
「使い方……?」
まあ、確かに……そうかも?
隊長なんかが、その最たる例だろう。
『カタツムリを操る』という、一見何が出来るのかよく分からない能力。
それを、遠隔操作や粘液などに拡張して……!
ドラゴンの力に頼らずとも、あれ程の対応力を見せていた。
本質を知らなければ、初見ではチートにも見えてしまうだろう。
「明日から、自分で考えて試してみるんだな」
シャドさんはそれだけ言うと——
岩の上に寝転がり、静かに目を閉じた。
僕は、何ができるのだろう。
夕焼けが、空を赤く染めている。
僕はクレーターの底に立ったまま、自分の手を見つめた。
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