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遣われた仲間

今回は三人称視点です。

 石化した人々を荷車に乗せて——

 ゴハートと土台モンはゆっくりと街道を進んでいた。


 「ラッシャイタウン」から少し離れたこの集落は、まだ混乱の名残が残っている。

 石化した村人たち。崩れた住宅の残骸。


 風が吹くたび、砂と一緒に静かな軋み音が広がった。

 メドゥーサはカビ助らを石化させた後、手当たり次第に周辺の村を襲っていたのだ。


「……静かだな」

 ゴハートがぼそりと呟く。


 荷車を押す土台モンが、苦笑気味に返した。


「静かなのはいいことだよ。少なくとも、襲撃はない」


「それもそうか」


 ゴハートは軽く肩を回す。

 旅の疲れはまだ抜けきっていないが、身体は問題なく動く。


 ふと、彼は後ろを振り返った。


 荷車に並べられた石像。

 その傍らで、膝をつき、崩れ落ちるように泣く人々。


 運よく逃げ延びた者たち。


 ——だが、それは本当に「運が良かった」と言えるのか。

 ただ泣き叫ぶ者。怒りのままに喚く者。その場にいなかった自分を責める者。


 その光景に、ゴハートは一瞬だけ目を細めた。


「……全部、元に戻せるといいがな」


「戻してくれるさ」


 土台モンの声は穏やかだったが、芯があった。


「ギザンさんとピクコノさんなら。必ず」


 ゴハートは小さく笑う。


「そうだな。こんな時だからこそ、仲間を信じよう」



 そんな時だった。


 ——ふっ、と。

 空気が、わずかに揺れた。


 風でもない。

 音でもない。


 それはもっと、内側から響くような違和感だった。


「……?」

 土台モンの足が止まる。


「どうした?」

 ゴハートが荷車を押す手を止める。


 土台モンは何も答えず、ただ目を閉じた。


 体の奥。もっと深い場所。

 “核”のような部分を、微かに引っ張られている。


 この次元に召喚された時と同じ……

 誰かと“繋がった”ような感覚。


 遠く。

 ずっと遠くで。


 自分の内側にあるはずのものが、引き出されたような——?


「……おい」


 見かねたゴハートが低く呟く。


 次の瞬間。


 土台モンの周囲で、大地が不自然に盛り上がった。


 これは『隆起』。

 本来なら、彼自身の意思で操るはずの力。


 だが今は違う。

「……勝手に、動いてる……?」


 土台モンの声が震える。


 彼は何もしていない。

 にもかかわらず、力だけが“使われている”。


「……どうしたんだよ、それ?」


 ゴハートの声が思わず漏れる。


 土台モンが驚いたように目を見開く。


「ゴハート……。何かした?」


「いや……?」


 ゴハートはゆっくりと目を開いた。


 否定した、その瞬間。


 ゴハートの周囲に、ふわりと青白い光が灯った。


 ひとつ。ふたつ。みっつ。


 揺らめくそれは——


「……人魂?」


 本来なら、彼自身の意思で操るはずの力。


 まただ。勝手に、発動している。


「今度は俺の技……⁉︎」


 背筋に冷たいものが走る。


 これは偶然じゃない。


 ありえない現象が、連続している。


 彼らの能力は、この次元に存在しない特異なものだ。

 それを——


「……使われた?」


 ゴハートが低く呟く。


 土台モンも、同じ結論に辿り着いていた。


「遠くで……”誰か”が!」


 そして。それが誰かはすぐ察しがついた。

 二人の脳裏に、同時に同じ顔が浮かぶ。


「マスター……なのか?」


 ゴハートの口元が、ゆっくりと緩む。


 彼らの頭に、カビ助の顔が浮かぶ。

 卑屈で、素直で、どこか危なっかしい。


 ——そんな彼が、成長している姿。


 父の仇である、シャドを怒りのままに殺さず……

 ”強くなるために利用する”というのは、正しい選択だったのか。


「頑張ってるんだな」


 小さく笑った。


 土台モンも驚きから立ち直り……納得したように頷く。


「遠隔で……僕ら”使い魔”の能力を?」


「たぶんな」


 ゴハートは軽く肩をすくめる。


「とんでもないことになってきたな」


 だが、その声にはどこか楽しげな響きがあった。




 もう一度、遠くを見る。

 ミツバのことを考えていた。


 彼女も、今——同じ感覚を受け取っているのか。

 それとも、ジャックの中で、意識すら保てていないのか。


 ゴハートは、五年前の記憶を辿る。

 

 『次元B』に転生した彼は——

 前世の記憶のままに、()()()()()対話を繰り返していた。

 それしかやることがなかった。

 けれど、それは確かに、楽しい時間でもあった。そういう性分だから。


 そんな日々の中、「情報屋の一族に変わり者がいる」と聞いた彼は、ミツバの住む巨大樹を訪れた。

 最初は警戒され、拒絶され。それでも言葉を重ね、距離を詰めていった。


「アイツ、俺のこと『ゴッさん』って呼んだんだよ」


 苦笑する。


「おじさんみたいで、ちょっと複雑だったぜ」


「”アイツ”? ミツバ……さんのこと?」


「そうだ。そんな『変わり者』のアイツも、『誠実に愛してくれる人と出逢いたい』って普通の乙女だった」


「その悩みは、ボクらの主人(マスター)と出逢えて解決したんだよね」


「そう……だが、素直に喜べねぇよな」


 ゴハートは静かに歯を食いしばる。

 ——ジャック。全てを台無しにしやがって。



 カビ助の影響と思われる、能力の遠隔操作。

 今は、何も感じない。


 さっきのは、偶然の出来事だったようだ。


 まだ練習中? 不完全?

 それでも、十分だ。


「マスターなら……それも、きっと希望に変えてくれるさ」


 土台モンがぽつりと呟く。

 ゴハートは荷車に手をかけ直す。


「お喋りが過ぎたな。次、行くか」


「了解」


 彼らは、再び歩き出す。

 車輪が、軋みながら回り出す。


 石化した人々を乗せて、ゆっくりと。


 遠くで戦っている主人の成長を——

 確かに感じながら。



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