寿司と共に運命も。
今回はシャド視点のお話です。
——修行を始めて、十日が過ぎた。
ついさっきまで、カビ助は死にそうな顔で筋トレをしていた。
——弱音を漏らしつつも、何だかんだ意識の高い弟子だ。
「『能力』の指導も終えた……。そろそろ”仕上げ”の段階だな」
クレーターの底。
土の上で、カビ助は転がるように眠っている。
荒い呼吸。泥だらけの身体。
……だが、”絶望”の顔ではない。
「……ふっ」
俺は一瞥だけくれて、踵を返した。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
俺は街へ戻った。
『探検隊』は、活気を取り戻しつつあった。
住民はまだ避難中だが、各地に散っていた隊員が数十人帰還。
彼らは再会を喜び、そして変わり果てた街を哀れんだ。
その中心に、見慣れた顔がいる。
石化解除の任務から帰還した……ギザンと、ピクコノだ。
「流石は隊長さんだべな!」
「かの状況で、此れ程の人員が集まれるとは……」
「そうか、お前らも隊長に……!」
「そう、あの人が手配してくれたんだよ!」
「今は『水中班』の奴らを迎えに行ってるらしいぜ!」
隊員たちから、口々に称賛が飛んだ。
アイツがここにいたら、困ったように笑ったろうな。
『いや、みんなが動いてくれたおかげだよ』だとか何とか。
アイツは、自分の価値を低く見積もりすぎる。
……だが、だからこそ人が集まる。
利害ではなく、意思で。
「師と同じ、か」
カビ助の父親……。
俺が殺めてしまった彼の意思は、今も残っている。
俺は、カビ助の元に戻ろうとした。
——その時。
ざわりと、空気が、歪んだ。
本能が告げる。
”敵”が来る、と……!
ドンッ!!
次の瞬間、遠くで爆音が上がった。
建物の一角が、吹き飛ぶ。
「うわああああああ!!」
「敵襲だああああ!!」
悲鳴が連鎖する。
ついさっきまでの安堵は、一瞬で崩れ去った。
彼らの身になると……
「笑えねぇな。帰還した直後にこれか」
視線を向ける。
——瓦礫の向こう。
そこに“敵”はいた。
巨大な影が二つ。
無言でただ、壊している。
踏み潰し、砕き、撒き散らす。
規則性も、感情もない。
つまり、敵は——
「複製体か……!」
しかも、ただの戦士ではない。
思わず、声が漏れる。
見間違えるはずがない。
あの図体。あの鉢巻。
「『ダークスター団』め……!」
舌打ちする。
「”奴ら”のクローンまで作ってやがったのか」
一体は、黒い外殻の巨大な蟻。
腕の動きに合わせて、白い粒が舞っている。
もう一体は、赤い外殻の巨大な蟻。
体表から、煙のような粉を撒き散らしている。
そして、奴らの後ろに小さい蟻たちがゾロゾロと蠢いている。
「懐かしいな。『アリ店長』に『ヒアリ店長』……!」
そう。あいつらは——
ジェムの元仲間である二人の複製体。
つまりは、世界の危機を経験した男たちだ。
「……最悪の組み合わせだな」
隊員たちは一歩も動けていない。
当然だ。
数も、相手も、部が悪すぎる。
ジェムは不在で——
ギザンも、隊員を誘導させるのに手一杯、と言ったところか。
つまり、この場で対処できるのは——
「俺だけ、か」
一歩前に出る。
あの数を相手にするのは骨が折れそうだが——
大元を叩けば、負ける相手じゃない。
だが、距離を詰めようとした時。
崩れた家の前で、一人が立ち尽くしていた。
「う、うそだろ……?」
目の前で、巨大なビルがゆっくりと形を失っていた。
白い粒が、空中に舞っている。
アリ店長が操っていたものだ。……奴の能力か?
以前は寿司職人仲間としての印象が強かった。
そのせいで、あいつらの能力は初めて見る。
——重く、体に粘つく。
そんな粉が、雪のように降り積もる。
「なんだ……これ……⁉︎」
一人の隊員が手を伸ばした。
「……おい、待て!」
気づくのが、遅れた。
駆け寄ろうにも、動きづらい。
そうしていると——
「なっ!?」
彼の腕は、動かなくなっていた。
白い粒が、一瞬で固まり——
皮膚に貼り付いた。
「な、なんだこれ……!?」
彼は振り払おうとする。
だが——
「馬鹿、よせ!」
バキッ。
当然、動けばさらに広がる。
いつの間にか、地面が白く染まっている。
それが、彼の靴に絡みついて——固まる。
「動け……ない……!」
彼の呼吸が荒くなる。
だがその息に反応するように、白い粒が舞い込んだ。
「げほっ……!」
咳き込む。
が、それもまずかった。
——舌が固まり、言葉が出せなくなる。
「あああ……ああ……!」
そうして何も出来なくなったところに、赤い蟻——
”ヒアリ”たちが、近づいた。
「抵抗させずに、毒をぶち込むのか……!」
俺はそうはさせまいと、すぐに技を放つ。
「『黒舎利弾』!」
ドォン!
ヒアリに命中。あの隊員に近づけずに済んだ。
だが——それは、奴らの内の一部に過ぎない、
周囲では、同じ光景が広がっていた。
アリ店長の発する白い粒と、子ヒアリたちが、街を覆っていく。
毒を入れられた者たちは、働きアリ達がどこかへと連れ去る。
「「ぎゃああああああ!!」」
悲鳴が、重なる。
だが、その声も、次第に小さくなる。
逃げることも、助けを呼ぶことも許さない力。
——俺だけでは全員を救うことができない。
救う命を選択しなければならない。
「”絶望”……か」
倒れている誰かが呟いた。
黒と赤。
二人の巨大な蟻は、何も語らない。
ただ、作業のように。
街を壊し、人を止め——
そして、終わらせる。
奴ら、明るい性格の裏に、これ程の能力を秘めていたのか。
いや……その話術は、隠すために身につけたのかもしれない。
街の出口は当然占拠済み。逃げ場はない。
だが。
その時、思考が止まる。
脳裏に浮かんだのは——
「カビ助……この”絶望”を、修行という”希望”に変えてみせろ」
俺は足を止めた。
そして、近くで慌てふためいているピクコノを呼び止める。
——任せてみよう。
「ドリル族」なら、地中を通ってクレーターまで辿り着ける。
「弟子に、伝言を頼む!」
自分でも、らしくないと思った。
利害で動くなら、隊員を見捨てて大元を潰すのが最善だ。
人助けよりも、自分の命を優先する。
だが今、俺は——
”アイツら”のやり方を選択した。
「慣れないな」
だが。それでも、この選択は——
間違っていないと、思ってしまった。
「……チッ」
舌打ちする。
気に入らない。
自分の思考が、一番気に入らないが。
——もう、運命を受け入れる。
俺の道は、贖罪すること。
師匠として、弟子の成長と価値観を重視する。
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