突然、降ってきたところで。
【前回の登場人物】
「シャド・リーラッシャイ」
(種族)スシ・ダーク
(年齢)18
(能力)闇を纏ったイカ
(概要)伝説の一族。かつてカビ助の父親を殺したことを告白。
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夜の空気は、さっきまでよりも少しだけ冷えていた。
——シャドさん。
彼は、これまで何度も僕の命を救ってくれた。
ジャックに気絶させられた時。自殺を決意した時。そして、誰もが何も出来なかった八岐大蛇との戦い。
隊長への“憧れ”とは違った種類の、“尊敬”という感情。
だからこそ——僕は。
「あり得ない」
どうしても、彼が父の仇であることを信じられなかった。物事の辻褄は合ってしまうし、何より本人がそう言っているのに、だ。
彼は、ほんの少しだけ目を伏せた。
「俺が今までしてきたことは“贖罪”だ」
「贖罪、だと?」
いつの間にか、彼に対する敬語が消える。
それに気付くのは後からだった。
「俺は、目的のためなら手段を選ばなかった」
——風が吹く。
遠くで、何かが軋む音がした。
「闇に呑まれ、暴走し……お前の父が誰かも知らずに殺していた」
淡々とした声。言い訳をするようでも、許しを求めているようでもない。
ただ事実だけを並べている。それが……余計に現実味を帯びさせた。
僕は拳を強く握る。
「そんな理由で、父さんを殺した?」
シャドは少しだけ間を置いた。
胸の奥が、ぐらりと揺れる。
「……ああ」
声が震える。
「知ってて、これまで黙っていたのか?」
「ああ」
本当に……否定しないんだな。
きっと、それには深い葛藤があるんだろうに。
彼はそのまま呟いた。
「憎いなら殺してくれて構わない。お前にはその“権利”がある」
「……は?」
——憎いなら、殺せ?
僕はその態度が、やけに腹立たしかった。
(この人は、何も分かってない。)
四年という時が、人の死をどれだけ薄めるか。大切なモノを失ったことを……後から伝えられること。実際にその場に居合わせなかったことが、どれほどの虚無感か。
そっちが四年間ずっと罪悪感を抱えていたからって——僕が四年間抱えていたのは何もないんだ。
仲間のおかげで、僕は父さんの死を完全に受け入れた。
今更、掘り返されたところで——!
「……ふざけんなよ」
言葉がこぼれた。
怒鳴ったつもりだった。
でも、声は思ったより小さかった。
「……なんで、今言うんだよ」
シャドは少し空を見上げた。
それから、ゆっくり視線を戻す。
「お前の精神を壊さないためだ」
胸の奥で、何かが音を立てた。
(ほら、やっぱり。)
不器用なんだよ、あんたは。
理由があるなら、先に言ってくれよ。
「……だったら!」
喉の奥が熱くなる。
「こんなこと、黙ってればよかっただろ!?」
それを受けてシャドは——少しだけ笑った。
悲しいのか、呆れているのか、自分でも分からないような笑い。
「……それはできない」
「なんで!」
「……」
短い沈黙。
それから、シャドは言った。
「お前が……後で知ったら、もっと傷つくだろ?」
その言葉を受け、少しだけ息を吐く。
「……はぁ」
言葉が止まった。怒りという感情が、どこかへ消える。
——夜の空気だけが、静かに流れていた。
「シャドさん」
冷静になって、敬語が戻る。
僕はふと思いついたことを口にする。
「僕に……戦闘技術を教えてくれませんか?」
空気が、数秒程度止まる。
——まあ、そうなるよな。
「はぁ?」
これにはさすがの彼も、間の抜けた声を出した。
「お前は、俺を恨まないのか?」
シャドさんが目を丸くした。
僕は、少し言葉を整えてから言う。そんなの、決まってるけど。
「恨みますよ」
拳をさらに強く握る。手のひらに爪が食い込んだ。
——失った者は、二度と戻らないから。
失わせた者に対する恨みだって、消えることはない。
ゴハートの箱庭で、父さんのことを引き摺らないと決めた。
でも、あの数年間を忘れるわけじゃない。
「許すつもりもないです」
「じゃあ、なぜ?」
シャドさんはそれだけ言うと、ただじっと僕を見る。
どうせ、あれだろ?
『暴走して我を失っていたとはいえ、殺したのは俺だ』とか思ってんだろ?
(分かってますよ、そのくらい。)
それで許すような人間なら、僕は子熊を殺した時に……病んでないし!!
「貴方は本当に、不器用ですね——?」
だったら、言い方を変えてやる。
僕は、ゆっくりと目を閉じた。
この場から逃げることも……恨みを乗せて彼を殺すことも、簡単だ。
でも——そうしたところで。それじゃ、何も変わらない。
「“贖罪”がしたいなら——」
大きく息を吸い、叫ぶ。
「「僕の“師匠”になりやがれ‼︎」」
言葉にすると、不思議と迷いはなかった。
この声でゴハートが起きようが、この際どうでもいい。
「僕は、仲間に頼らなくても戦える力が欲しい。あんたは“それ”を持っている!」
「……………………………」
長い沈黙が落ちた。
シャドさんは、しばらく何も言わなかった。
やがて、小さく息を吐く。
「……正気か?」
「おそらく」
僕は苦笑いして答えた。
「俺はお前の父親を殺したんだぞ」
「知ってます」
「恨んでるんだろ?」
「——はい」
「許さないんだろ?」
「はい!」
「なのに弟子入りするのか?」
僕は顔を上げた。
そして——彼の目を真っ直ぐと見る。
「父さんを殺したあんたを……一生許すことはないでしょう」
はっきりと言った。
「でも、無抵抗の貴方を傷つけたところで、気は晴れない」
「………っ!」
「僕はあんたをどうしたいか、まだ分からない!」
ずっと孤独だった若造が、事件に巻き込まれて、半端な覚悟のまま旅に出て、孤独よりも辛い絶望を味わい、そして世界を知った。
そんな時に、ずっと恨んでた“仇”が突然降ってきて。
その相手は命の恩人——?
そんなカオスな状況に対応できるならば、人生は苦労しない。
「だから、まずは貴方を超えます」
ランタンの火が揺れる。表向きの理由は、正々堂々と彼を殴り飛ばせるくらいになるまで、強くなりたい……ってことになるかな。実際は違うけど、不器用な貴方にとっては分かりやすいでしょう?
彼はしばらく黙って——やがて、小さく笑った。
「ぁ……変な坊主だな」
憎んでいても、尊敬もあり、利用する。
僕らは……そう、矛盾した師弟。




