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突然、降ってきたところで。

【前回の登場人物】

「シャド・リーラッシャイ」

(種族)スシ・ダーク

(年齢)18

(能力)闇を纏ったイカ

(概要)伝説の一族。かつてカビ助の父親を殺したことを告白。

************************************************


 

 夜の空気は、さっきまでよりも少しだけ冷えていた。


 ——シャドさん。

 彼は、これまで何度も僕の命を救ってくれた。

 ジャックに気絶させられた時。自殺を決意した時。そして、誰もが何も出来なかった八岐大蛇との戦い。

 隊長への“憧れ”とは違った種類の、“尊敬”という感情。

 だからこそ——僕は。


「あり得ない」


 どうしても、彼が父の仇であることを信じられなかった。物事の辻褄は合ってしまうし、何より本人がそう言っているのに、だ。


 彼は、ほんの少しだけ目を伏せた。

「俺が今までしてきたことは“贖罪”だ」


「贖罪、だと?」


 いつの間にか、彼に対する敬語が消える。

 それに気付くのは後からだった。


「俺は、目的のためなら手段を選ばなかった」


 ——風が吹く。

 遠くで、何かが軋む音がした。


「闇に呑まれ、暴走し……お前の父が誰かも知らずに殺していた」


 淡々とした声。言い訳をするようでも、許しを求めているようでもない。

 ただ事実だけを並べている。それが……余計に現実味を帯びさせた。


 僕は拳を強く握る。


()()()()()で、父さんを殺した?」


 シャドは少しだけ間を置いた。

 胸の奥が、ぐらりと揺れる。


「……ああ」

 声が震える。

「知ってて、これまで黙っていたのか?」


「ああ」


 本当に……否定しないんだな。

 きっと、それには深い葛藤があるんだろうに。


 彼はそのまま呟いた。


「憎いなら殺してくれて構わない。お前にはその“権利”がある」

「……は?」


 ——憎いなら、殺せ?

 僕はその態度が、やけに腹立たしかった。


(この人は、何も分かってない。)

 四年という時が、人の死をどれだけ薄めるか。大切なモノを失ったことを……後から伝えられること。実際にその場に居合わせなかったことが、どれほどの虚無感か。


 そっちが四年間ずっと罪悪感を抱えていたからって——僕が四年間抱えていたのは()()()()んだ。

 仲間のおかげで、僕は父さんの死を完全に受け入れた。


 今更、掘り返されたところで——!


「……ふざけんなよ」

 言葉がこぼれた。


 怒鳴ったつもりだった。

 でも、声は思ったより小さかった。


「……なんで、今言うんだよ」


 シャドは少し空を見上げた。

 それから、ゆっくり視線を戻す。


「お前の精神を壊さないためだ」


 胸の奥で、何かが音を立てた。

(ほら、やっぱり。)


 不器用なんだよ、あんたは。

 理由があるなら、先に言ってくれよ。


「……だったら!」

 喉の奥が熱くなる。

「こんなこと、黙ってればよかっただろ!?」


 それを受けてシャドは——少しだけ笑った。

 悲しいのか、呆れているのか、自分でも分からないような笑い。


「……それはできない」

「なんで!」


「……」


 短い沈黙。

 それから、シャドは言った。


「お前が……後で知ったら、もっと傷つくだろ?」


 その言葉を受け、少しだけ息を吐く。

「……はぁ」


 言葉が止まった。怒りという感情が、どこかへ消える。

 ——夜の空気だけが、静かに流れていた。


「シャドさん」


 冷静になって、敬語が戻る。

 僕はふと思いついたことを口にする。



「僕に……戦闘技術を教えてくれませんか?」



 空気が、数秒程度止まる。

 ——まあ、そうなるよな。


「はぁ?」

 これにはさすがの彼も、間の抜けた声を出した。

「お前は、俺を恨まないのか?」


 シャドさんが目を丸くした。

 僕は、少し言葉を整えてから言う。そんなの、決まってるけど。


「恨みますよ」


 拳をさらに強く握る。手のひらに爪が食い込んだ。


 ——失った者は、二度と戻らないから。

 失わせた者に対する恨みだって、消えることはない。


 ゴハートの箱庭で、父さんのことを引き摺らないと決めた。

 でも、あの数年間を忘れるわけじゃない。


「許すつもりもないです」

「じゃあ、なぜ?」


 シャドさんはそれだけ言うと、ただじっと僕を見る。


 どうせ、あれだろ? 

 『暴走して我を失っていたとはいえ、殺したのは俺だ』とか思ってんだろ?


(分かってますよ、そのくらい。)

 それで許すような人間なら、僕は子熊を殺した時に……病んでないし!!




「貴方は本当に、不器用ですね——?」


 だったら、言い方を変えてやる。

 僕は、ゆっくりと目を閉じた。


 この場から逃げることも……恨みを乗せて彼を殺すことも、簡単だ。

 でも——そうしたところで。それじゃ、何も変わらない。


「“贖罪”がしたいなら——」

 大きく息を吸い、叫ぶ。


「「僕の“師匠”になりやがれ‼︎」」


 言葉にすると、不思議と迷いはなかった。

 この声でゴハートが起きようが、この際どうでもいい。


「僕は、仲間に頼らなくても戦える力が欲しい。あんたは“それ”を持っている!」


「……………………………」

 長い沈黙が落ちた。



 シャドさんは、しばらく何も言わなかった。

 やがて、小さく息を吐く。


「……正気か?」


「おそらく」

 僕は苦笑いして答えた。


「俺はお前の父親を殺したんだぞ」

「知ってます」


「恨んでるんだろ?」

「——はい」


「許さないんだろ?」

「はい!」


「なのに弟子入りするのか?」


 僕は顔を上げた。

 そして——彼の目を真っ直ぐと見る。


「父さんを殺したあんたを……一生許すことはないでしょう」

 はっきりと言った。

「でも、無抵抗の貴方を傷つけたところで、気は晴れない」


「………っ!」

「僕はあんたをどうしたいか、まだ分からない!」


 ずっと孤独だった若造が、事件に巻き込まれて、半端な覚悟のまま旅に出て、孤独よりも辛い絶望を味わい、そして世界を知った。


 そんな時に、ずっと恨んでた“仇”が突然降ってきて。

 その相手は命の恩人——?


 そんなカオスな状況に対応できるならば、人生は苦労しない。


「だから、まずは貴方を超えます」


 ランタンの火が揺れる。表向きの理由は、正々堂々と彼を殴り飛ばせるくらいになるまで、強くなりたい……ってことになるかな。実際は違うけど、不器用な貴方にとっては分かりやすいでしょう?


 彼はしばらく黙って——やがて、小さく笑った。


「ぁ……変な坊主だな」


 憎んでいても、尊敬もあり、利用する。

 僕らは……そう、矛盾した師弟。


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