矛盾・愛憎・師弟
——翌朝。
夜露の残る草原で、焚き火の煙が空に上っていた。
シャドさんは眠そうに隣に座っている。
僕は少しだけ深呼吸してから、一同の前に立つ。
「……えっと。みんなに報告があります」
「お、なんだ?」
「マスターから……? 珍しいですね」
ゴハートが湯気の立つスープを飲みながら顔を上げた。
土台モンはニコニコしたまま、こっちを見る。
「昨夜の密談内容か?」
「密談? なんのことだべ?」
ギザンは静かに目を細め、ピクコノさんは首をかしげる。
こんな状態で言うには、ちょっと衝撃の事実すぎるけど……まあ、シャドさんに不器用だなんだ言ってる僕自身も、別に器用じゃないからね。前置きとかよくわからないから、単刀直入に事実だけを述べた。
「まず、カルマさんの本名は『シャド』で、僕の父さんを殺した犯人でした」
すると、一同の手が止まる。
「……は?」
「ちょっと待て」
「今なんて言ったべか?」
まあ、当然だよね……。
中にはシャドさんに対して……すぐに攻撃態勢をとる者もいたので……僕は間髪入れずに次の報告をする。気持ちはありがたいけど、物騒だな!?
「そして、僕は……シャドさんの弟子になりました」
「「………………???」」
長時間の沈黙。
まあ、そりゃそうなる。でも、シャドさんに敵意を向けられないためには、これしかなかった。絶望的なまでのトークスキルだけど、伝わってくれるだろうか。
でも、僕の心配は杞憂だったようで。
この衝撃の事実に、最初に反応したのはゴハートだった。
「っ……!」
彼は一瞬だけ目を見開き——それからゆっくりと笑った。
「そうか……。マスター、成長したな」
その声は、どこか嬉しそうだった。
「『箱庭クラフト』、使って良かったぜ」
僕は少しだけ照れくさくなって視線を逸らす。
そこで——土台モンが、ぼそっと言った。
「……本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。悪い人じゃないのは皆も知ってるでしょ?」
「仇が“師匠”とは……マスター、大胆ですね」
シャドさんは肩をすくめた。
「一番驚きなのは俺だよ……」
「う……すみません。“贖罪”の延長と思って、苦労してください」
僕は師匠に、苦笑する。
「普通は、大切な人を殺されれば——泣くか、殺そうとするだろ?」
全員の視線が、僕に向く。
「弟子入りを頼んでくるなんて“想定外”どころじゃなかった」
ゴハートが小さく笑った。
「いやぁ? マスターらしい選択だよ」
ギザンが腕を組んで言う。
「因果とは、実に奇妙なものだな」
ピクコノさんも頷いた。
「やっぱり、カビ助くんは面白いべ」
衝撃すぎる報告を終え——和やかな雰囲気が戻ってきた頃。
前を歩くシャドさんが、ふと前方を見た。
「お…………見えてきたぞ」
その言葉に、全員が顔を上げる。
丘の向こう——朝日に照らされて、街が見えた。
白い建物が並び、中央には大きな塔。その周囲を城壁が囲んでいる。
「ラッシャイタウン……!!」
三度目の訪問。……いつ見ても壮大だ。
僕は少しだけ胸が高鳴るのを感じた。
「仲間と話していれば、長い旅路も一瞬ですね……」
土台モンの呟き。そして、シャドさんが指示を出す。
「修行の前に、“アイツ”と合流しよう」
「……誰です?」
「『ジェム』だ。ドドリ村での事件を、先に報告すべきだからな」
隊長……?
“父親の仇”から発せられたその名前。僕は隊長、もといジェムさんに、自責の念を感じた。そういえば……あの人は。
「あ——」
僕は、ミツバの情報が表面上のものだと気づかずに、ただ彼を「父さんを死に追いやった弟子」だと思い込み、恨んでいた。
でもシャドさんの言葉からして、違うのだろう。そう考えると……改めて、“あの時”は本当に申し訳ないことをしたな。
「ま、ともかく修行はそれからだな」
シャドさんは歩き出す。
僕はその背中を見ながら、ふと呟く。
「……そうか」
胸の奥にあった何かが——ゆっくりと形を変えている。
ゴハートがこちらを見る。
「どうした?」
「隊長は……目の前で殺されたんだ」
僕の父を。彼の師匠を。
——血が流れ、体温が消える瞬間を。
「何も知らない僕の代わりに——」
空を見上げる。
「ちゃんと怒ってくれていたんですね」
シャドさんはその言葉を聞くと、少しだけ足を止める。
「……ああ」
短く答えてから、小さく笑う。
「アイツは、優しすぎるからな」
——風が丘を撫でていく。
僕たちは、横に並んで街道を歩き出した。
そして、ラッシャイタウンに足を踏み入れる。
石造りの街は、朝日に照らされて白く輝いている。高い城壁、整然と並ぶ建物、中央にそびえる大きな塔。本来なら、朝市の準備をする人々の声や、商人の呼び込み、子どもたちの笑い声で満ちているはずの街。
——けれど。石化事件の影響で、やはり“それら”はなかった。
住民たちの石像は隊長が片付けてくれたようだが。その中身の人々は『ダークスター団』に攫われたままだ。一刻も早く、助けてあげたい。
「……静かですね」
土台モンがぽつりと呟く。
ゴハートも周囲を見回す。
「復興には、まだ時間がかかりそうだな」
「…………」
ギザンは腕を組んだまま、遠くの塔を見上げている。
ピクコノさんは小さく息を吐いた。
「おらが帰った後に、こんなことが——!?」
僕は、街の奥を見つめる。
「行こう、僕らの本拠地に!」
これから——決戦に向けての、準備が始まる。
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