表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/168

矛盾・愛憎・師弟


 ——翌朝。

 夜露の残る草原で、焚き火の煙が空に上っていた。


 シャドさんは眠そうに隣に座っている。

 僕は少しだけ深呼吸してから、一同の前に立つ。


「……えっと。みんなに報告があります」


「お、なんだ?」

「マスターから……? 珍しいですね」


 ゴハートが湯気の立つスープを飲みながら顔を上げた。

 土台モンはニコニコしたまま、こっちを見る。


「昨夜の密談内容か?」

「密談? なんのことだべ?」


 ギザンは静かに目を細め、ピクコノさんは首をかしげる。

 こんな状態で言うには、ちょっと衝撃の事実すぎるけど……まあ、シャドさんに不器用だなんだ言ってる僕自身も、別に器用じゃないからね。前置きとかよくわからないから、単刀直入に事実だけを述べた。


「まず、カルマさんの本名は『シャド』で、僕の父さんを殺した犯人でした」


 すると、一同の手が止まる。


「……は?」

「ちょっと待て」

「今なんて言ったべか?」


 まあ、当然だよね……。

 中にはシャドさんに対して……すぐに攻撃態勢をとる者もいたので……僕は間髪入れずに次の報告をする。気持ちはありがたいけど、物騒だな!?


「そして、僕は……シャドさんの弟子になりました」

「「………………???」」


 長時間の沈黙。

 まあ、そりゃそうなる。でも、シャドさんに敵意を向けられないためには、これしかなかった。絶望的なまでのトークスキルだけど、伝わってくれるだろうか。


 でも、僕の心配は杞憂だったようで。

 この衝撃の事実に、最初に反応したのはゴハートだった。


「っ……!」

 彼は一瞬だけ目を見開き——それからゆっくりと笑った。


「そうか……。マスター、成長したな」

 その声は、どこか嬉しそうだった。

「『箱庭クラフト』、使って良かったぜ」


 僕は少しだけ照れくさくなって視線を逸らす。

 そこで——土台モンが、ぼそっと言った。


「……本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。悪い人じゃないのは皆も知ってるでしょ?」

「仇が“師匠”とは……マスター、大胆ですね」


 シャドさんは肩をすくめた。


「一番驚きなのは俺だよ……」

「う……すみません。“贖罪”の延長と思って、苦労してください」


 僕は師匠に、苦笑する。


「普通は、大切な人を殺されれば——泣くか、殺そうとするだろ?」

 全員の視線が、僕に向く。

「弟子入りを頼んでくるなんて“想定外”どころじゃなかった」


 ゴハートが小さく笑った。

「いやぁ? マスターらしい選択だよ」

 ギザンが腕を組んで言う。

「因果とは、実に奇妙なものだな」

 ピクコノさんも頷いた。

「やっぱり、カビ助くんは面白いべ」


 衝撃すぎる報告を終え——和やかな雰囲気が戻ってきた頃。

 前を歩くシャドさんが、ふと前方を見た。


「お…………見えてきたぞ」


 その言葉に、全員が顔を上げる。


 丘の向こう——朝日に照らされて、街が見えた。

 白い建物が並び、中央には大きな塔。その周囲を城壁が囲んでいる。

「ラッシャイタウン……!!」

 三度目の訪問。……いつ見ても壮大だ。

 僕は少しだけ胸が高鳴るのを感じた。


「仲間と話していれば、長い旅路も一瞬ですね……」


 土台モンの呟き。そして、シャドさんが指示を出す。


「修行の前に、“アイツ”と合流しよう」

「……誰です?」

「『ジェム』だ。ドドリ村での事件を、先に報告すべきだからな」


 隊長……?

 “父親の仇”から発せられたその名前。僕は隊長、もといジェムさんに、自責の念を感じた。そういえば……あの人は。


「あ——」


 僕は、ミツバの情報が表面上のものだと気づかずに、ただ彼を「父さんを死に追いやった弟子」だと思い込み、恨んでいた。

 でもシャドさんの言葉からして、違うのだろう。そう考えると……改めて、“あの時”は本当に申し訳ないことをしたな。



「ま、ともかく修行はそれからだな」

 

 シャドさんは歩き出す。

 僕はその背中を見ながら、ふと呟く。


「……そうか」


 胸の奥にあった何かが——ゆっくりと形を変えている。

 ゴハートがこちらを見る。


「どうした?」

「隊長は……目の前で殺されたんだ」


 僕の父を。彼の師匠を。

 ——血が流れ、体温が消える瞬間を。


「何も知らない僕の代わりに——」

 空を見上げる。

「ちゃんと怒ってくれていたんですね」


 シャドさんはその言葉を聞くと、少しだけ足を止める。


「……ああ」

 短く答えてから、小さく笑う。

「アイツは、()()()()()からな」


 ——風が丘を撫でていく。

 僕たちは、横に並んで街道を歩き出した。



 そして、ラッシャイタウンに足を踏み入れる。

 石造りの街は、朝日に照らされて白く輝いている。高い城壁、整然と並ぶ建物、中央にそびえる大きな塔。本来なら、朝市の準備をする人々の声や、商人の呼び込み、子どもたちの笑い声で満ちているはずの街。


 ——けれど。石化事件の影響で、やはり“それら”はなかった。

 住民たちの石像は隊長が片付けてくれたようだが。その中身の人々は『ダークスター団』に攫われたままだ。一刻も早く、助けてあげたい。


「……静かですね」


 土台モンがぽつりと呟く。

 ゴハートも周囲を見回す。


「復興には、まだ時間がかかりそうだな」

「…………」


 ギザンは腕を組んだまま、遠くの塔を見上げている。

 ピクコノさんは小さく息を吐いた。


「おらが帰った後に、こんなことが——!?」


 僕は、街の奥を見つめる。

「行こう、僕らの本拠地に!」


 これから——決戦に向けての、準備が始まる。



https://kakuyomu.jp/users/SandInHarumaki/news/2912051599784327540

https://kakuyomu.jp/users/SandInHarumaki/news/2912051599661212452

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ