Anti Laws Monster
【前回の登場人物】
「ディグ・ピクコノ」
(種族)ドリル
(年齢)50
(能力)?
(概要)ドドリ村の農家。ラッシャイタウンで別れた、元「旅の保護者」。
「モグドン」
(種族)ドリル
(年齢)24
(能力)鼻をドリルに変形
(概要)探検隊の地中班長。ドリル族なのに、隊長は彼を「石化破壊」の頭数に入れていない。
********************************************
話がひと段落した頃、ひとりが静かに声を上げた。
「あの……そろそろ、ボクの話をしても良いですか?」
ついに——来た?
謎だらけだった彼の正体を知る時が。
「土台モンさん……! お願いします。最近、色々と立て込んでましたからね……」
そう言って僕は微笑む。
すると、彼は少しだけ困ったように視線を落とし、言った。
「マスター……敬語は、もうやめてください」
「……え?」
思わず言葉に詰まる。
難しい物理現象の話をさらっとするし、命の恩人でもある。気づけば、彼に対する口調は自然と敬語になっていた。
だから僕にとってはそっちの方が逆に違和感があるが——まあ、本人がそう言うなら、従うべきだろう。
「……OK。改めてよろしく、土台モン」
何だかむず痒い感じだ。違和感がすごい。
だけど……僕がそう言うと、彼の表情はパッとと明るくなった。
「はい……! やはり、そちらの方がしっくり来ます」
うっ、眩しい笑顔。どうやら、僕らの価値観は真逆らしい。
……まあ、その理由も、今から分かるはず?
「では、まず……ボクが、なぜゴハートと出会ったのか、話します」
僕は頼んでおいたジュースに口をつける。
どうやら、長い話になりそうだ……。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
あれは、ボクが“呼ばれた直後”のことでした。
いえ。正確に言えば……呼ばれ、そして、“辿り着けなかった直後”のこと、ですけど。
——世界が裏返るような感覚。
座標が展開され、空間が数式に分解される。次元転移の兆候としては、あまりに明瞭だった。
今回の主人は、強烈な感情を媒介として“使い魔”を引き寄せる力。
術としては未熟だが、感情の純度が異常に高い。
呼び寄せた原因の感情は、すぐに理解できた。
(――腐った世界を変えたい、か。)
怒りや絶望を超えたその先の感情。もっと根本的で、しかし諦めに近い願い。
「確かに、この願いを叶えるにはボクの力が必要か」
本来ならこうして、ボクはマスターのすぐ傍に転送されるはずだった。
だが——空間が、歪んだ。
数式が破綻する。座標が二重化し、位相がズレる。
明らかに、別系統の転移術が干渉している。
「これはっ……!? 第三者の空間干渉……?」
抵抗は試みた。だが、術の規模が違っていた。
こちらは人間一人の感情に引かれただけの転移。それに対する向こう側は、古代人類たちの叡智の結晶だった。
——空間を完全に掌握されてしまっている。
「無理、か」
本来の転送先は閉ざされた。感情の発信源……貴方の場所へは、届かない。
ボクは、次元の狭間で宙ぶらりになった。意味も、役割も失った存在として……普通なら、そこで消滅していただろう。
だが、ボクは『モンスター族』だ。
異界でも屈指の、物理法則への耐性を持つ種族。別次元で量産された簡易版でも他種族と張り合えるほどに、強力な能力を持つ。
だから、感知できてしまった。
――同質の波長を。
「マスターとは離れた座標に……誰かいる」
考えるより先に、ボクは跳んだ。その次の瞬間……世界が再構築される。
——砕けた地面。何故だか人のいない都会街。
そして、目の前に立っていたのは、ゴースト族だった。
「ボクは『土台モン』。君と同じ……異界から呼ばれた存在だよ」
そう告げると、彼は一瞬だけ目を細めた。
「いきなり現れたくせに生意気な奴……って待て、今なんと言った?」
そして大きな声でボクに詰め寄る。
「マスターに、何かあったのか!?」
「君には、敬語を使う必要ないよね? ボクらのマスターの未来ため、君の状況を教えてくれないかい?」
ゴハートは鼻で笑った。
「好きにしろ。足手まといになるなよ」
「それは、物理的にあり得ないね」
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
「これが、ボクが貴方にお伝えするべきだった全ての情報です」
僕はあまりの情報に開いた口が塞がらなかった。
手にあるコップを傾けるが、中はいつの間にか空になっている。
——まさか。本当に僕が土台モンのマスターだったなんて。
そして、言葉を返す余裕もなく……そのまま食事会を自然解散となった。
「では、寝るとしようか」
フウロウさんが間を開けて口を開く。
思えば彼は、この会話の最中、ずっと周囲に気を配り、人払いをしてくれていた?
内容が危険だと予測し、事前に対応していたのだろう。
その配慮に、今さらながら胸が温かくなる。
本当に……頼れる人だ。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
——その夜、僕は眠れなかった。
土台モン。彼は、僕の想像を遥かに超える存在だった。
物理法則を理解し、超越し、世界を変えうる力を持ち――おそらく「ライトモン族」の上位存在である、「モンスター族」。
そんな存在がいつの間にか、僕の“使い魔”……いや、“仲間”になっていた。
——この腐った世界に、絶望を。
確かに、かつて僕はそう願った。だが、それは本当に世界を壊したかったわけじゃない。
ただ……自分が楽になりたかっただけだ。
だからこそ、僕は「自殺」という逃げ道を選択した。
——でも、今は違う。
ミツバを助けるために、生きると決めた。そして、もし本当に……世界を変える力が自分にあるのだとしたら。
「……僕の望む世界って、一体……?」
答えは出ない。思考だけが、静かに巡っていく。
――その時だった。
「うらめしやぁ〜……」
耳元で、低く掠れた声。
「うわあああああああああっ!?」
反射的に跳ね起きた瞬間、視界の端に白い影が揺れた。
「ははっ! やっぱ驚いたな、マスター!」
「ゴ、ゴハート⁉︎ 何してんだよ……」
心臓が口から飛び出るかと思った。
「マスターも眠れてないみたいだから、暇つぶしにと思ってな」
——軽すぎる。
さっきまで土台モンとかピクコノさんの件で考え込んでいたから、温度差が酷い。そういえば彼は、幼児向けのおもちゃを気にしてたっけ?
「それよりさ」
彼は部屋の扉を開けて、受付の方を指で示した。
「入口のとこに、変なオモチャあっただろ? あれ、やらないか?」
「……今?」
呆れたようにため息をついた。
だが、そうしながらも、胸の奥が少し軽くなるのを感じる。
(——そうだ。一人で考え込むより、こういう時間も必要なのかもしれない)
世界をどう変えるかなんて”現実味のない話”今は考えなくていい。
今は……任務 兼 旅行中、なんだから。




