班長の役割
【前回の登場人物】
「フウリン・ローリン」
(種族)トリ
(年齢)29
(能力)空間の動きを予測
(概要)探検隊の空中班長。略して「フウロウ」。
「シルヴァ」
(種族)ドラゴン
(年齢)1824
(能力)悪感情を見通す
(概要)ジェムの体内で療養中。仮面を通じて言葉を発する。
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メサ地帯を越えた先——
乾いた岩肌はいつの間にか土の道へと変わっていた。
「……着いたな」
フウロウさんがそう言って、着陸する。
——そこにあったのは、小さな宿屋だった。
石と木で作られた、どこにでもありそうな建物。
だが、今の僕には――
「や、やっと……地面が……」
膝が笑い、僕はその場にへたり込んだ。
「情けない」
フウロウさんが淡々と言う。
「だが、あの速度で30分、生き延びたか。……合格だ」
合格……?
何の試験だよ、と言い返したかったが、喉が追いつかない。
この30分は僕の人生の中で、最も長く感じた。本当に、神経が疲弊した。
ちなみに、最も短く感じた時間は、ミツバとキスした時…………って、今考えることじゃないな。
「フウロウさん。僕らはどこに向かってるんです?」
「……? 見ての通り、宿屋だが?」
いや……どう考えてもそれを聞いてはないだろ。
「僕たち、隊長から任務について何も聞かされてなくて……」
「ああ……そっちか。確かに事前にゴールを知るのは大事だ。死ぬ確率は大きく下がる」
なんか……常に偉そうだな、この人。
まあ実際に偉いから良いけど——ファイアブルもそうだった。ヒトと関わりの少ない「トリ族」ってのはみんなこんな感じなのか?
フウロウさんは任務内容の書かれた紙を取り出す。
「ふむ。任務内容は……『ドリル族の勧誘』か。隊長の筆跡で『ドドリ村に行け』と追記されているな」
「ドドリ村⁉︎」
ドリル族の勧誘? ドドリ村に、わざわざ戻る?
何故かは分からないが……ドドリ村にいる「ドリル族」といえば『ピクコノさん』だ。今更どうして——と疑問は湧くが、つまりは、「ピクコノさんを連れて来い」ってこと……?
「隊長は……何を考えているんだ」
ゴハートが呟いた。
そして、土台モンさんの冷静な進言。
「ひとまず、詳細は食べながら話して頂けますか?」
あ……! やば。ここは公共の場だった。
彼の言葉によって、僕らはようやく目の前の扉を開いた。
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この宿……「風止まりの宿」の中は、思ったより暖かかった。
低くて横に広い造りになっていて、店名の通り、強風にも耐えられそうだ。
僕らが入ると、ランプの明かりが揺れ、木の床がきしむ。
「三人だ」
フウロウさんが受付に声をかける。
四人組なのに三人と言われたことに違和感を覚えたが——
そういえば、普通の人にはゴハートが認識できないんだった。
「部屋は、一つで構わない」
やはり大人がいると安心だ。手慣れている。
暇している僕は一瞬、ゴハートを見る。
——彼は何も言わず、子供向けの本棚を見つめていた。
「なに、気になるの?」
冗談まじりにそう言った。
だが彼は、真剣な表情のまま。絵本が並ぶ上の段に置かれていた、おもちゃの箱を見つめていた。
「ああ……マスター。これ、良いかもしれない」
——何で、本じゃなくて、おもちゃ?
てか、その歳で……なんで?? 確かきみ、二十年以上生きてるよね?
フウロウさんはあの速度で飛び続けた後にも関わらず疲れを見せないが(?)、それに対してゴハートは“空中のプロ”という訳ではない。もしかしたら、無理をしてあの速度についてきたせいで、脳が疲れちゃったのかも……? それで、癒されるために子供向けのおもちゃを……?
うん……今は、そっとしておくか。
「この後、すぐ夜飯だって〜」
僕はそれだけ言って、その場を去った。
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「ぶはーっ!」
フウロウさんは、炭酸ジュースを飲み干した。
その飲みっぷりはまるで……ジョッキビールのようだった。
「フウロウさん……お酒は飲まないんですね?」
僕がメニューの酒を指さすと——彼は一瞥しただけで、即答する。
「飲まない」
「なぜです? こんな場所でくらい、いいのでは?」
ゴハートが肩をすくめる。
「珍しいな。空を飛ぶなら、酒の一杯くらい楽しみそうなもんだが」
「……いつ危機が来てもいいようにするためだ」
彼はゆっくりと炭酸ジュースを手に取り、言った。
「判断が鈍るものは、口にしない」
僕らは、言葉を失う。
何で。戦地ってわけでもないのに……それほどの、覚悟が……!?
「酒は嫌いじゃない。疲れを取るには格別だ。だが、酔って死ぬ可能性が1ミリでもあるのなら……」
フウロウさんの視線は、「お前らは真似しなくていい」と言っているようだった。
「俺のジョッキは、炭酸で十分だ」
——静寂が落ちる。
彼の口から出たのは説教でも、怒号でもない。ただの事実。
ゴハートは、喉を鳴らす。
「……じゃあ、ずっと気を張ってるんすか?」
フウロウは、少しだけ考えた。
「俺は、“班員の命を預かる者”だからな」
——その言葉が、胸に残った。
楽になるために飲む酒。忘れるための酒。それを……あえて選ばない生き方。
彼は一体、どのような経験をしてきたのだろう。
『生き残るために全てを。』それが、この男のやり方だった。
やりすぎな気もするけど……僕が「一人前の探検家」になるためには、見習うべき覚悟なのだろう。いつか、フウロウさんの昔話を聞いてみたい。
「それで……なぜ、ピクコノさんを連れて来ないといけないのですか?」
一旦話を戻す。隙を見て、聞きたかったことを尋ねる。
「ん? ピクコノ? 誰がそんな事を言った?」
だがフウロウさんは首を傾げた。
(え? なんで? 貴方がさっき……)
彼の反応に戸惑っていると——土台モンさんがボソッと呟く。
「マスターは……情報を自分なりに解釈しすぎです」
「え……?」
だって、『ドリル族の勧誘に、ドドリ村へ』って任務じゃ……?
「フウロウさんはさっきから、個人名を出してませんよ」
「あ……」
ああ……僕は、主観で勝手に言葉を置き換えてしまっていたのか。
確かにドドリ村のドリル族って話を聞いた。けど「ピクコノさん」とは一言も言われてなかったじゃないか!
それにしても土台モンさんには一瞬驚かされたな。
僕のことを「マスター」って……言ったよね? ゴハートの呼び方がうつってますよ!
「お前に指摘したいことは山ほどあるが——」
フウロウさんは続ける。うう、返す言葉もございません。
「説明しておくべきは、『ドリル族』が必要な理由だな」
一同が唾を呑む。
色々言いたいことはあるが——まあ確かに、そこは気になる。
理由が明白なら、僕らと共にピクコノさんを探検隊に勧誘していたはず。それに探検隊には「地中班長」という、立派なドリル族がいるじゃないか。
土台モンさんも同じ考えを呟く。
「最近になって、事情が変わったということですね」
「そうだ。先日『スライム博士』から、石化に関する調査データが送られてきたのだが……そこから『ある事実』が発覚したのだ」
「博士……流石はフウロウさんと同じ“班長”!!」
いつの間に、そんな物を——⁉︎ てか、脱獄できたんですね。良かった!
いや……今はそこじゃない、か。
「ある事実」って……? あのチート能力に、弱点があったのか?
「石化された人々には、身体のどこかに『核』が存在しており——その部分を破壊すれば、救い出せる。とのことだ」
「何だって…………!?」
それで、ドリル族……?
普通なら、中にいる人ごと破壊してしまいそうだけど……?
「もちろん、闇雲に破壊すれば中身は死ぬが——」
フウロウさんが続ける。
「ドリル族には、『弱点を解析する』能力があるだろう?」
「「あ……!」」
僕とゴハートは、武蔵戦でのピクコノさんの姿を思い返した。
「確かに……?」
「あの能力、ドリル族全体に共通したものだったんだな……」
メドゥーサの弱点が本当にそうなら、納得した。だが代わりに、他の一つの疑問が陰りを増してしまった。
(——なぜ、地中班長であるモグドンさんだけでは駄目なのだろう)
彼の実力はきっと、そこら辺のドリル族よりは相当上だろう。あんなに大きなドリルを軽そうに運べてたんだもん。




