超獣たちの転移事情
今回は土台モン視点のお話です。時系列は少し前。
********************************************
異界の空は、今日も静かだった。
ボクは座標も曖昧な、「モンスター族」が住み着く天空城で瞑想していた。
「……そろそろか」
胸の奥で小さく軋む感覚を覚えていた。
数式が、揺れている。世界の構造が、ごく僅かにだが乱れ始めている。
——呼び出しの前兆だ。
「お、珍し。お前さんがそんな顔しとるの」
そんな時。背後から、気の抜けた声がした。
振り返ると、同族が、冷たい床に腰掛けていた。
フォルムは可愛らしいが、どこか雑で、力の入った存在感。
彼の名は「工事モン」。
「……気づいてるんでしょう?」
「そらまあな。ワイも一回、呼ばれとる身やし?」
彼は関西弁で、からからと笑う。
「で? どんなマスターや?」
「まだ、断片しか……でも、かなり不安定だ」
ボクは空を見上げた。
歪みは、感情を媒介にしている。純度が高すぎて、逆に危うい。
「絶望と……諦めが、混ざってる」
「ほー。そらまた厄介やな」
工事モンは顎を掻きながら言った。
「ワイの元主人もな、最初はそないな目しとったで」
「え……その人は、どうなったの?」
ボクは不意に問いかけたが——一瞬、沈黙が落ちる。
どうやら、まずい話だったらしい。
それを確信させるものとして……彼はそのまま、話を切り替えた。
「お前の主人は……ワイの元主人の、お友達の、師匠の、息子さんや」
「何だそれ……、近そうで結構遠くないか?」
「はは、そうやな。しっかし……どんな奴かは、聞いとらんな」
工事モンはそう言ったが、ボクは何となく知っていた。
いや……正確には、“感じて”いた。
「彼は、運命を変えたくても、頼ることしかできないみたいだ」
呆れるでしょう? 僕ですら面白いと思ってる。
だから——陽気な彼からは、笑い声がすると思っていた。
しかし工事モンは大人しい声で、目を細める。
「ええやん。それ」
「え?」
「一人で世界変えようとする奴より……よっぽどマシや」
「…………?」
やはり、前の主人に、何かあったのか? 気になる。
だがそれを聞く間もなく、工事モンは立ち上がる。
「ほな、行ってこい。呼ばれたら戻れんかもしれんで?」
異界の種族は、別次元へ影響を与えすぎる。
だからこそ異界に生まれるのだし、移住しても他種族とはあまり関わらない者たちもいる。
よって……一度均衡を崩してしまえばボクらには責任が降りかかる。
つまり……戻るには、“後始末”が必要だ。
工事モンは「素材を別の物に精錬する能力」を持つ。
そしてそれは物理法則を超越すれば——次元の記憶から、彼の存在自体を消すことも可能だ。だからこそ一度召喚された身でありながら、帰ってきている。
——しかし、ボクの能力では記憶までには干渉できない。
専門外って奴だ。
「戻るつもりはないよ」
ボクは、歪みへと一歩踏み出す。
「彼の世界は、まだ危うい。なら――」
「お前が支える、っちゅうわけやな」
工事モンは背中越しに、優しく手を振った。次の瞬間、世界が裏返る。
「良いマスターやとええな」
「……うん」




