それでいいのか。
【前回の登場人物】
「ジェム・カブリ」
(種族)ムシ・ドラゴン
(年齢)18
(能力)龍の爪や翼、カタツムリを操る
(概要)「探検隊」隊長、ドラゴンマスクの正体。シルヴァに力を借りている。
「シルヴァ」
(種族)ドラゴン
(年齢)1824
(能力)?
(概要)ジェムの体内で療養中の“正義龍”。仮面を通じて言葉を発する。
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「ジャックの能力が『憑依』だったのは想定外だが……良い情報でもあるんだ」
——良い情報、だと?
そのせいで、ミツバの身体が奪われたのに?
ああ……駄目だな。
今は、些細な発言でも怒りが湧いてくる。この世の全てに噛みつきたい。
「『DR星』では、一人につき能力は一つのみ」
シルヴァと名乗る、謎の仮面が言った。
彼の声は淡々としている。
良くも悪くも合理的で、感情が薄い。
……今の僕には、その距離感が楽だった。
話していて、ストレスがない。
「どれだけ修行しようが、副種族を得ようが、本質は変わらん。能力は拡張されるだけだ」
シルヴァは続ける。
「つまり……厄介だった『空間転移』は、“ジャックのもの”ではない。“子熊の能力”だったということだ」
ジェムが補足する。
「実際、違うなら今頃……ここは敵に囲まれているだろうしね」
そうか——『憑依』と、『空間転移』。
確かに、あまりにも系統が違う。
僕が子熊を殺したから——奴らはもう空間転移を使えない。
それは確かに、探検隊にとっては朗報なのだろう。
世界を救うための一歩。多くの命を守るための犠牲。
正しい判断。正しい選択。正しい行動。
――だからこそ。
余計に気持ち悪かった。
僕が、幼い子供の未来を奪った。
そのおかげ、だと?
「……おえっ」
急に吐き気が込み上げた。
「大丈夫……!?」
ジェムが慌てて近づく。が、何ともないフリをする。
彼らには……あの絶望を、話していない。
あれは、僕が一生一人で背負っていくものだ。
「ゲホッ……ちょっと待ってください」
吐き気を病気のせいだと、誤魔化しながら話を戻す。
「その話だと……奴は“ミツバの能力”を使えることになります」
浄化の効能を持った花粉を調節し、敵を鈍らせたり眠らせたりできる、便利な能力。それを使われるのは……探検隊的には、まずい気がする。
それに何より、ミツバが冒涜されてるようで僕自身が嫌なんだ。
二人の青年が心配そうにこちらを見る。
でもシルヴァだけは、変わらず冷静だった。
「『良い情報』とはそこなのだ」
正直——助かる。
今の僕にとっては、最も話しやすい相手かもしれない。
「お前の話が真実ならば、そのミツバという娘の能力は『浄化』だろう?」
「そうだけど……それが、何か?」
「ジャックは憑依能力から見て、『ゴースト族』だ。おそらくその力には適応できん」
「ゴースト族……⁉︎」
ゴハートと同じ、異界の種族だと?
僕はその言葉で、思い出す。
『いい身体だ。能力は使えねぇが——』
あいつは確かに、そう言っていた。
「あ……!」
そうか。あれは『憑依』の仕様じゃない。
ミツバが抵抗してくれていたのか……!?
僕が心の中で彼女を想っていた、その時。
「——そこでだ、カビ助くん」
ジェムが口を開く。
「我々はこの好機を逃すわけにはいかない」
真剣な声。
「石化された人々を救うため。そして奴らの計画を止めるため——」
ジェムはそう言って、一息置いた。
「敵の城へ攻め込もうと思う」
……なるほど。
話は理解した。
僕にその手伝いをして欲しいってか?
だが、そんな義理はない。
悪いが、聞きたい話は聞けたんだ。
あんたらは、もう用済み。
だけど……沈黙。
誰も喋らない。皆、返事を待っている。
僕は苛立ち、立ち上がる。
「——嫌です」
空気が、止まる。
「探検隊も辞めます」
キッパリと、そう言った。
はいはい、貴方はご立派ですね——!
民衆を救うため、悪を滅ぼすため?
そんな理由で、よくそこまで戦えますね。
……そんな言葉が喉元まで来ていたが、飲み込んだだけまだマシだろう。
僕は自身の苦しみで手一杯だ。世界が滅ぶなら、一緒に死んでいい。
——勝手にやってろ。
部屋が静かになる。
「……そうか。」
ジェムが小さく言った。
「分かったよ。では、僕たちはこれで……」
あっさり引いた?
なんだ、意外と聞き分けがいいじゃないか。
僕は布団から出て、荷物をまとめ始める。
——その時だった。
「それでいいのか?」
重い声が落ちた。……シルヴァだ。
僕は思わず振り返る。
だが、その言葉は僕にではなく——ジェムへ、向けられていた。
数秒後。
ジェム……いや、仮面を被ったから「ドラゴンマスク」か?
彼が、ゆっくりと、こちらを向く。
「カビ助くん……。隊長命令だ」
さっきまでの弱い声は消えていた。
——覚悟を決めたのか?
だけど……はぁ。僕の意思は変わらないですよ。
「君には探検隊の一員として、仲間を助ける義務がある」
重い声。だけど。
「僕は辞めると言いました」
「私は許可していない」
「嫌です。退職の権利くらいあります」
「義務は権利より重い」
彼は一歩踏み出す。
「私には『君を守る』という義務がある。師匠に託された義務がな」
「父さんの名前を出されても……嫌なものは嫌です」
僕はしつこい隊長を、冷たくあしらい続ける。
言葉の応酬……まるで、子供の喧嘩だ。
いや。子供なのは……僕の方だけ、か。
「それでいいのか?」
そんな時、再び同じ言葉。
だが今度はシルヴァではなく、“あの男性”だった。
「お前が来ないなら——」
それはドラゴンマスクではなく、僕に。向けられた言葉だった。
「俺たちは容赦なく、お前の父や恋人を殺すかもしれん」
「……っ!」
言われてみれば、その通りだ。
父さんのクローンに、敵となったミツバ……彼らにとっては、ただの障害でしかない。
確かに、彼のいう通り。探検隊員でも無くなった奴に、「彼女達を傷つけないで欲しい」と頼む権利はなくなって当然だろう。
「そうでなくても、俺の……」
男性が暗い声で、続けようとする。
その顔は、何故だか苦しそうだった。無理しているのが一目で分かる。
ああ、やめてくれ。
……そんな顔をするなよ。
そんな顔をされたら、僕はまた――!!
早く決断しなければ。
どうする……?
父さんを。ミツバを!
「っ……僕は。」
喉の奥が震える。
どうする。どうする。どうする。
頭の奥で、また……あの光景が蘇った。
倒れる子熊。流れる血。甲高い絶叫。
——あの時と同じだ。
また、僕に「選べ」と言うのか。
誰かを救うために、誰かを見捨てろと?
ミツバは恋人以前に、命の恩人だ。絶対に、捨てたくない。
だけど、そのために。身を粉にして……このまま“こいつら”に協力するのか。
僕が行けば、ミツバが助かる可能性が上がる?
いや……違う。
それは、罠だ。変わるのは、意識だけ。
結局僕は、こいつらに……他人に、良いように使われるだけだ。
(行ったところで、また絶望を味わうだけ)
わずかこの間0.3秒。
僕は、彼の胸倉を掴んでいた。
「……勝手にしてくれ‼︎」
言い張り、突き放す。
そして僕は、テントを飛び出した。
胸が苦しい。息ができない。
走りながら僕は思った。
——本当に、これでいいのか?




