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それでいいのか。

【前回の登場人物】

「ジェム・カブリ」

(種族)ムシ・ドラゴン

(年齢)18

(能力)龍の爪や翼、カタツムリを操る

(概要)「探検隊」隊長、ドラゴンマスクの正体。シルヴァに力を借りている。


「シルヴァ」

(種族)ドラゴン

(年齢)1824

(能力)?

(概要)ジェムの体内で療養中の“正義龍”。仮面を通じて言葉を発する。

********************************************



「ジャックの能力が『憑依』だったのは想定外だが……良い情報でもあるんだ」


 ——良い情報、だと?

 そのせいで、ミツバの身体が奪われたのに?


 ああ……駄目だな。

 今は、些細な発言でも怒りが湧いてくる。この世の全てに噛みつきたい。


「『DR星』では、一人につき能力は一つのみ」


 シルヴァと名乗る、謎の仮面が言った。


 彼の声は淡々としている。

 良くも悪くも合理的で、感情が薄い。


 ……今の僕には、その距離感が楽だった。

 話していて、ストレスがない。


「どれだけ修行しようが、副種族(サブ)を得ようが、本質は変わらん。能力は拡張されるだけだ」


 シルヴァは続ける。

「つまり……厄介だった『空間転移』は、“ジャックのもの”ではない。“子熊の能力”だったということだ」


 ジェムが補足する。

「実際、違うなら今頃……ここは敵に囲まれているだろうしね」



 そうか——『憑依』と、『空間転移』。

 確かに、あまりにも系統が違う。


 僕が子熊を殺したから——奴らはもう空間転移を使えない。


 それは確かに、探検隊にとっては朗報なのだろう。


 世界を救うための一歩。多くの命を守るための犠牲。

 正しい判断。正しい選択。正しい行動。


 ――だからこそ。

 余計に気持ち悪かった。


 僕が、幼い子供の未来を奪った。

 その()()()、だと?


「……おえっ」

 急に吐き気が込み上げた。


「大丈夫……!?」

 ジェムが慌てて近づく。が、何ともないフリをする。


 彼らには……あの絶望を、話していない。

 あれは、僕が一生一人で背負っていくものだ。



「ゲホッ……ちょっと待ってください」

 吐き気を病気のせいだと、誤魔化しながら話を戻す。


「その話だと……奴は“ミツバの能力”を使えることになります」


 浄化の効能を持った花粉を調節し、敵を鈍らせたり眠らせたりできる、便利な能力。それを使われるのは……探検隊的には、まずい気がする。


 それに何より、ミツバが冒涜されてるようで僕自身が嫌なんだ。


 二人の青年が心配そうにこちらを見る。

 でもシルヴァだけは、変わらず冷静だった。


「『良い情報』とはそこなのだ」


 正直——助かる。

 今の僕にとっては、最も話しやすい相手かもしれない。


「お前の話が真実ならば、そのミツバという娘の能力は『浄化』だろう?」

「そうだけど……それが、何か?」

「ジャックは憑依能力から見て、『ゴースト族』だ。おそらくその力には適応できん」


「ゴースト族……⁉︎」


 ゴハートと同じ、異界の種族だと?

 僕はその言葉で、思い出す。


『いい身体だ。能力は使えねぇが——』


 あいつは確かに、そう言っていた。

「あ……!」


 そうか。あれは『憑依』の仕様じゃない。

 ミツバが抵抗してくれていたのか……!?


 僕が心の中で彼女を想っていた、その時。


「——そこでだ、カビ助くん」


 ジェムが口を開く。


「我々はこの好機を逃すわけにはいかない」

 真剣な声。

「石化された人々を救うため。そして奴らの計画を止めるため——」


 ジェムはそう言って、一息置いた。


「敵の城へ攻め込もうと思う」


 ……なるほど。


 話は理解した。

 僕にその手伝いをして欲しいってか?


 だが、そんな義理はない。

 悪いが、聞きたい話は聞けたんだ。


 あんたらは、もう用済み。


 だけど……沈黙。

 誰も喋らない。皆、返事を待っている。


 僕は苛立ち、立ち上がる。

「——嫌です」


 空気が、止まる。


「探検隊も辞めます」

 キッパリと、そう言った。


 はいはい、貴方はご立派ですね——!


 民衆を救うため、悪を滅ぼすため?

 そんな理由で、よくそこまで戦えますね。


 ……そんな言葉が喉元まで来ていたが、飲み込んだだけまだマシだろう。


 僕は自身の苦しみで手一杯だ。世界が滅ぶなら、一緒に死んでいい。

 ——勝手にやってろ。



 部屋が静かになる。


「……そうか。」


 ジェムが小さく言った。

「分かったよ。では、僕たちはこれで……」


 あっさり引いた?

 なんだ、意外と聞き分けがいいじゃないか。


 僕は布団から出て、荷物をまとめ始める。


 ——その時だった。


「それでいいのか?」


 重い声が落ちた。……シルヴァだ。


 僕は思わず振り返る。

 だが、その言葉は僕にではなく——ジェムへ、向けられていた。


 数秒後。


 ジェム……いや、仮面を被ったから「ドラゴンマスク」か?

 彼が、ゆっくりと、こちらを向く。


「カビ助くん……。隊長命令だ」


 さっきまでの弱い声は消えていた。

 ——覚悟を決めたのか?


 だけど……はぁ。僕の意思は変わらないですよ。


「君には探検隊の一員として、仲間を助ける義務がある」


 重い声。だけど。


「僕は辞めると言いました」

「私は許可していない」

「嫌です。退職の権利くらいあります」


「義務は権利より重い」

 彼は一歩踏み出す。

「私には『君を守る』という義務がある。師匠に託された義務がな」


「父さんの名前を出されても……嫌なものは嫌です」


 僕はしつこい隊長を、冷たくあしらい続ける。

 言葉の応酬……まるで、子供の喧嘩だ。


 いや。子供なのは……僕の方だけ、か。



「それでいいのか?」

 そんな時、再び同じ言葉。

 

 だが今度はシルヴァではなく、“あの男性”だった。

「お前が来ないなら——」


 それはドラゴンマスクではなく、僕に。向けられた言葉だった。


「俺たちは容赦なく、お前の父や恋人を殺すかもしれん」

「……っ!」


 言われてみれば、その通りだ。


 父さんのクローンに、敵となったミツバ……彼らにとっては、ただの障害でしかない。

 確かに、彼のいう通り。探検隊員でも無くなった奴に、「彼女達を傷つけないで欲しい」と頼む権利はなくなって当然だろう。



「そうでなくても、俺の……」


 男性が暗い声で、続けようとする。

 その顔は、何故だか苦しそうだった。無理しているのが一目で分かる。


 ああ、やめてくれ。

 ……そんな顔をするなよ。


 そんな顔をされたら、僕はまた――!!


 早く決断しなければ。

 どうする……?


 父さんを。ミツバを!


「っ……僕は。」

 喉の奥が震える。


 どうする。どうする。どうする。


 頭の奥で、また……あの光景が蘇った。

 倒れる子熊。流れる血。甲高い絶叫。


 ——あの時と同じだ。

 また、僕に「選べ」と言うのか。


 誰かを救うために、誰かを見捨てろと?


 ミツバは恋人以前に、命の恩人だ。絶対に、捨てたくない。

 だけど、そのために。身を粉にして……このまま“こいつら”に協力するのか。


 僕が行けば、ミツバが助かる可能性が上がる?


 いや……違う。


 それは、罠だ。変わるのは、意識だけ。

 結局僕は、こいつらに……他人に、良いように使われるだけだ。


(行ったところで、また絶望を味わうだけ)


 わずかこの間0.3秒。

 僕は、彼の胸倉を掴んでいた。


「……勝手にしてくれ‼︎」


 言い張り、突き放す。

 そして僕は、テントを飛び出した。


 胸が苦しい。息ができない。


 走りながら僕は思った。


 ——本当に、これでいいのか?



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