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崖っぷち

【前回の登場人物】

「子熊」

(種族)?

(年齢)6

(能力)空間転移

(概要)ジャックが憑依していた器。カビ助が知らずに殺害。


「カビ助」

(種族)ヒト

(年齢)14

(能力)感情を巨大化させる

(概要)この物語の主人公。絶望に呑まれ、冒険を辞める決意をした。

********************************************



 僕がテントを抜けると、外には荒野地域が広がっていた。

 本で見たことがあったが……やはり、現実で見ると圧巻だな。


 堆積岩が重なり合い、鮮やかな地層が美しく露出している。

 テントは高台に立てられていたようで、遮るもののない広大な青い空と、荒々しい岩肌があたり一面に広がっていた。

 そして何より特徴的なのは……垂直に切り立った断崖だ。


 僕は、何となく崖際に立った。

 今は僕一人だけだ。引きこもり生活から、希望と絶望を繰り返す冒険の日々になって——

 僕の周りには何だかんだ、常に“誰か”がいた。


 冷たい風が頬を撫で、僕は目の前に広がる景色をぼんやりと眺める。


「ここから……飛び降りれば……すべてが終わるのか?」


 僕の周りだけ、絶望が何度も繰り返されている。

 まるで……世界に僕が嫌われているように感じていた。


 どうせ、お父さんは生き返らない。

 戦いに行ったところで絶望をまた味わうだけ。

 ——僕に何の希望(メリット)もない。


 もう……期待をするのはやめた。


「天国に行けば、毎日が楽しいのかな」

 僕の心には、ふとそんな考えが浮かんだ。


 だがそれと同時に、自分が未来ある子熊の命を奪ってしまったことを思い出す。

 ……僕は、地獄に行くのかもしれない。


 何度も繰り返される絶望——

 こんな人生なのだから、死んだとしても待ち受けるのも絶望かもしれない。


 崖っ縁に立ちながら、僕は足元を見下ろした。

 地上は遠く……落ちたとき自分が迎えるのはどんな結末だろうか。


「はぁ、はあ、ゲホっ……ゴホッ……」


 僕はふと、あの日の絶望を思い出す。

 今でも数分前のことのように脳にこびりついて離れない。


 “あれ”をまた味わうと思うと……胸の中には虚無感しかなかった。


「おい、カビ助、何してる……? まさか……飛び降りるつもりなのか?」


 考えすぎた——。

 もう背後に追い付かれたのか。


 振り返ると、あの男性が駆け寄ってくるのが見えた。

 彼の顔は“心配”というよりも——

 僕が死ぬことで起こる、何らかの絶望の未来を恐れているように感じた。


 “絶望”、か……。

 どうせ、僕よりはマシなのでしょう?


 先に着いたのが隊長の方じゃなくて良かった。

 彼の能力ならば、僕が飛び降りても救出()()()()()()


「やめろ……俺は、お前に、まだ……」


 それにしても……この男性には——

 本当に申し訳ないことをしたな……。


 突然脱獄に駆り出されたと思いきや、初対面でミツバに拒絶された男性。

 それでも何の義理があるのか、彼は命懸けで僕の命を救い、心配の眼差しを向けてくれた。


 最後に、お礼くらいは言っておこう。

 僕は彼の方向に一歩踏み出そうとして、体の向きを変える。



 ……その時だった。



 ぐらっ


 偶然、劣化した部分に衝撃を与えてしまったのか——

 僕の足場は崩れ落ちた。


「は…………?」


「カビ助ぇええええええええ!!!!」


 おい、絶望。お前は最後の言葉すら言わせてくれないのか。

 ……まあ、大した話ではないが。


 身体が宙に浮く。

 重力に引き寄せられるように、僕の体はゆっくりと地面へと落ちていく。


 僕は運命を受け入れ、地面をまっすぐ見つめた。


 これから、僕が行く場所。







 …………あれ? 怖くない……。


 落ちながら、地面が迫ってくる感覚だけが鮮明に感じられた。

 風の轟音と共に、今までの記憶がフラッシュバックする。


 走馬灯……いや、あれはじわじわ死ぬ時に来る奴だっけか?


 映像は、物心ついた時からミツバとの誓いまで続く。

 ()()()()は……脳が回避してくれたのだろう。


 最後くらいはいい仕事してくれるじゃないか。




『母さん? ちょっと色々あってな。お前の物心がつく前に天国へ行ったんだ』


『あ、カビ助が来たぞー! 菌がうつる! 逃げろーっ!』


『父さん、お前の病気を治すために探検してくるよ。家を頼んだぞ!』


『カビ助くんが授業を受けてないのにも辛い事情があるんですよ』


『カビ助。今まで……、いじめてすまなかった』


『ドラゴンマスクさん……それに探検隊……! なんだかかっこいい‼︎』


『……助けに来たぜ、マスター!』


『おらが保護者としてあんたの旅についていくだ‼︎』


『カビ助くん。『探検隊』に入ってくれないだろうか?』


『お父さんも認めてくれるような、一人前の探検家になってみせる!』


『見事です。モルモット……いえ、カビ助くん』


『ああ……愛してる、ミツバ』


『あたしは、少しでも長くマスターと幸せな時間を過ごせればそれでいい!』




 …………あれ? 怖い……?


 思い返しながら、僕が必要とされている感覚が鮮明に感じられた。

 最後に流れたミツバの記憶と共に、「僕は死んではいけない」という想いが湧き上がってくる。


 探検家だと……仲間だと……恋人だと……誓ったのに、勝手に死ぬなんて。

 どうしようもない“屑野郎”なのは僕もだった。


「ああ…………。生きれば良かった。」


 ビカっ!

 そう思った時……僕の身体は青白い光を発した……!

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