超獣たちの転移事情
今回は土台モン視点のお話です。時系列は少し前。
異界の空は、今日も静かだった。
ボクは座標も曖昧な、「モンスター族」が住み着く天空城で瞑想していた。
「……そろそろか」
胸の奥で小さく軋む感覚を覚えていた。
数式が、揺れている。世界の構造が、ごく僅かにだが乱れ始めている。
呼び出しの前兆だ。
「お、珍し。お前さんがそんな顔しとるの」
背後から、気の抜けた声がした。
振り返ると、同族が、冷たい床に腰掛けていた。
フォルムは可愛らしいが、どこか雑で、力の入った存在感。彼の名は「工事モン」。
「……気づいてるんでしょう?」
「そらまあな。ワイも一回、呼ばれとる身やし?」
彼は関西弁で、からからと笑う。
「で? どんなマスターや?」
「まだ、断片しか……でも、かなり不安定だ」
ボクは空を見上げた。
歪みは、感情を媒介にしている。純度が高すぎて、逆に危うい。
「絶望と……諦めが、混ざってる」
「ほー。そらまた厄介やな」
工事モンは顎を掻きながら言った。
「ワイの元主人もな、最初はそないな目しとったで」
「……どうなったの?」
ボクは不意に問いかけたがーー
一瞬、沈黙が落ちる。
そして……彼はそのまま、話を切り替えた。まずい話だったらしい。
「お前の主人は……ワイの元主人の、お友達の、師匠の、息子さんや」
「何だそれ……、近そうで結構遠くないか?」
「はは、そうやな。しかし……どんな奴かは、聞いとらんな」
工事モンはそう言ったが、ボクは何となく知っていた。……いや、感じていた。
「……彼は、運命を変えたくても、頼ることしかできないみたいだ」
ーー笑い声がすると思っていた。
しかし工事モンは大人しい声で、目を細める。
「ええやん。それ」
「え?」
「一人で世界変えようとする奴より……よっぽどマシや」
…………?
やはり、前の主人に、何かあったのか。
それを聞く間もなく、工事モンは立ち上がった。
「ほな、行ってこい。呼ばれたら戻れんかもしれんで?」
異界の種族は、別次元へ影響を与えすぎる。だからこそ異界に生まれるのだし、移住しても他種族とはあまり関わらない者たちもいる。
よって……一度均衡を崩してしまえばボクらには責任が降りかかる。つまり……戻るには、後始末が必要だ。
工事モンは「素材を別の物に精錬する能力」を持つ。そしてそれは物理法則を超越すればーー次元の記憶から、彼の存在自体を消すことも可能だ。だからこそ一度召喚された身でありながら、帰ってきている。
ーーしかし、ボクの能力では記憶までには干渉できない。専門外って奴だ。
「戻るつもりはないよ」
ボクは、歪みへと一歩踏み出す。
「彼の世界は、まだ危うい。なら――」
「お前が支える、っちゅうわけやな」
彼は背中越しに、優しく手を振った。
「良いマスターやとええな」
「……うん」
次の瞬間、世界が裏返った。
土台モンの補足 兼 前作の種明かし。
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