現実主義者の生屍奴隷
【前回の登場人物】
「ミツバ」
(種族)フルーティア
(年齢)13
(能力)浄化効果のあるクラブアップル
(概要)カビ助の気持ちが増幅して召喚された“恋人”。
「ジャック」
(種族)?
(年齢)6
(能力)空間転移
(概要)「ダークスター団」の幹部。外見は幼いが性格は棘がある。
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……恋人は、二人の愛の結晶として子を作る。
血筋を残すために相手を求める者もいる。
より強い個体を生み出すために相手を探す者もいる。
地球では異なる民族同士が愛し合い、偶然強い個体が生まれることもあるという。
それを「ハーフ」と呼ぶらしい。
だが……DR星には、存在しない。
種族を超越した力は、努力や環境によって後天的に得られるものだ。
生まれながらに二種族を併せ持つ者など、確かに聞いたことがなかった。
二種族の力を得た者であっても、基本能力は生まれながらの種族のまま。
後天的に得た能力は補助に過ぎない。
この星は、地球に似ているようで、確かに違う。
『他種族同士では生殖できない』
それは、政策による“禁止”ではなく——
法則による“不可能”なのだ。
「マスター……ごめん、ごめんなさい……あたし……知ってたのに……あんなこと……!」
ミツバは再び目に涙を浮かべている。
ジャックはそんな僕らを見て再び嘲る。
……許せない。
せっかく立ち直れた彼女を、再び泣かせるなんて。
そんなどうでもいいことを僕が知らなかっただけで。
「おい、クソガキ……。生殖できないから、何だってんだよ?」
僕が睨みつけると、ジャックは肩を揺らして笑った。
「子作りしないカップルなんて存在するだけ無駄、ってことだよ。繁殖することは生物の本能、快楽、義務さ」
はぁ……話にならない。
いや、一般的な意見か?
ジャックは幼い外見に反して、長年生きてきたような“現実主義者”のようだ。
「それとも何だ? お前ら、その関係で幸せになれるとでも思ってんのか?」
だが、悪いな。
僕は現実を見てこなかった“引きこもり”なんだ。
「僕は——死ぬ瞬間に幸せなら、それでいい!」
自分でも驚くほど、声が響いた。
「そのためにこれまで生きて来たんだ。それに『孫の顔が見たい』なんて言う親も、僕にはいないしな。それで——」
僕はミツバの方へと視線を移す。
彼女の顔に安堵した、自分の気を引き締めて。
……今が人生の分岐点だ。
真剣にいかなくちゃな。
「ミツバ。僕は君と出会って最初、とんでもない女の子に好かれたなと思った。それに君は、隊長のことを“人騙し”と言ったくせに……ゲホッ、僕のことを騙していたね。でも、そんなことはどうでもいい」
息を吸う。
「もう一度聞かせてくれ。君は僕を、どうしたい? 君は本当に、敵じゃないんだよね?」
脱獄した囚人を見つけ出した看守。
本来ならこんな話し込んでいる状況ではない。
だが——
ジャックは黙って見ている。
どうせ、仲間割れを期待しているのだろう。
だが。
ミツバは涙を拭い、叫んだ。
「あたしは、マスターと幸せになれればそれでいい! 子供が作れなくても、たとえ……二人の関係に終わりが訪れても、幸せな時間が少しでも長く欲しい‼︎ 」
静寂。
ジャックは顔を歪める。
僕は頷く。
「よし……うん。そんな君だから、信じようと思えるんだ……!」
子供がいなければ……
二人の時間は、歳を重ねるごとに減り、互いにストレスを抱くだろう。
ジャック……いや一般的意見の通り、幸せではなくなってしまう。
だけど僕らはそれら全てを覚悟し、同意した。
もう二人に常識は通じない。不信感も、わだかまりもない。
「恋愛は、お互いが幸せになれる相手とするものだ。生殖だけが全てじゃない」
バン!!
そんな時、ジャックは痺れを切らしたのか——いや、呆れたのか。
奴は近くの棚を蹴り飛ばした。
……嘲る表情から、戦闘の表情になった。
「分かったよ……! お前らみたいなバカップルには、“絶望”を与えて現実を見せてやる」
「悪いが、僕ら二人ならお前なんかに負ける気はしないぞ?」
「その通りよ。アンタがどれだけ強力な力を持っていようと、あたしの知識とマスターの精神力で対応できる」
僕らが自信たっぷりにそう言うと——
ジャックは、にやりと笑った。
「確かに、オレひとりならな」
何だよ? こっちは本気でそう思ってるんだぞ。
お前の空間転移なんてすぐに……!
ジャックは、笑ったまま、指を軽く鳴らした。
「ま、まずは小手調べと行かせてもらうか」
その瞬間、空間が歪む。
ぐにゃり、と視界が歪み——
次の瞬間、数体の影が床へと吐き出された。
「なっ……!?」
ジャックが、にやりと笑う。
「いいもん見せてやるよ。お前らに“現実”ってやつをな」
その瞬間——空間が、歪んだ。
「来い」
ズズズ……。
裂け目の中から、次々と人影が吐き出される。
床に転がるように現れたのは……見覚えのある顔だった。
「……え?」
思わず、声が漏れる。
人影は……あの牢の、看守たちだった。
彼らはゆらりと立ち上がる。
目は濁り、表情は歪んでいる。まるで、生屍みたいに。
「……ふざけるなよ」
そのうちの一人が、こちらを睨みつけた。
低い声。
その奥にある感情は、ミツバに向けられたものだった。
「おじょうぅぉおおおさぁぁああああん⁉︎」
「てめぇのせいで……俺たちは……」
「失態を犯したゴミとして……ジャック……様の、捨て駒だ!」
ミツバの肩が、びくりと揺れた。




