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崖っぷち

【前回の登場人物】

「カビ助」

(種族)ヒト

(年齢)14

(能力)感情を巨大化させる

(概要)この物語の主人公。絶望に呑まれ、冒険を辞める決意をした。


 僕がテントを抜けると、外には荒野地域が広がっていた。

 本で見たことがあったが……やはり、現実で見ると圧巻だな。


 堆積岩が重なり合い、鮮やかな地層が美しく露出している。テントは高台に立てられていたようで、遮るもののない広大な青い空と、荒々しい岩肌があたり一面に広がっていた。

 そして何より特徴的なのは……垂直に切り立った断崖だ。


 僕は、何となく崖際に立った。今は僕一人だけだ。引きこもり生活から、希望と絶望を繰り返す冒険の日々になって……僕の周りには、何だかんだ、常に誰かがいた。

 冷たい風が頬を撫で、僕は目の前に広がる景色をぼんやりと眺める。


「ここから……飛び降りれば……すべてが終わるのか?」


 僕の周りだけ、絶望が何度も繰り返されている。まるで世界に僕が嫌われているように感じていた。

 どうせ、お父さんは生き返らない。戦いに行ったところで絶望をまた味わうだけ。僕に何の希望(メリット)もない。もう……期待をするのはやめた。


 天国に行けば、毎日が楽しいのかな。


 僕の心には、ふとそんな考えが浮かんだ。だがそれと同時に、自分が未来ある子熊の命を奪ってしまったことを思い出す。……僕は、地獄に行くのかもしれない。


 何度も繰り返される絶望、こんな人生なのだから、死んだとしても待ち受けるのは絶望かもしれない。


 崖っ縁に立ちながら、僕は足元を見下ろした。地上は遠く……落ちたとき自分が迎えるのはどんな結末だろうか。


「はぁ、はあ、ゲホっ……ゴホッ……」


 僕はふと、あの日の絶望を思い出す。今でも数分前のことのように脳にこびりついて離れない。

 あれをまた味わうと思うと……胸の中には虚無感しかなかった。


「おい、カビ助、何してる……? まさか……飛び降りるつもりなのか?」


 考えすぎた。もう背後に追い付かれたのか。

 振り返ると、あの男性が駆け寄ってくるのが見えた。彼の顔は()()ではなく、僕が死ぬことで起こる、何らかの絶望の未来を恐れているように感じられた。


 絶望、か。どうせ……僕よりはマシなのでしょう?


 先に着いたのが隊長の方じゃなくて良かった。彼の能力ならば、僕が飛び降りても救出()()()()()()


「やめろ……俺は、お前に、まだ……」


 それにしても……この男性には……申し訳ないことをしたな……。

 突然脱獄に駆り出されたと思いきや、初対面でミツバに拒絶された男性。それでも何の義理があるのか、彼は命懸けで僕の命を救い、心配の眼差しを向けてくれた。


 最後に、お礼くらいは言っておこう。

 僕は彼の方向に一歩踏み出そうとして、体の向きを変える。……その時だった。


 ぐらっ


 偶然、劣化した部分に衝撃を与えてしまったのか。僕の足場は崩れ落ちた。

「は…………?」


「カビ助ぇええええええええ!!!!」


 おい絶望、お前は最後の言葉すら言わせてくれないのか。……まあ大した話ではないが。


 鳥にでもなったかのような感覚だった。重力に引き寄せられるように、僕の体はゆっくりと地面へと落ちていく。

 僕は自分の運命を受け入れ、地面をまっすぐ見つめた。これから、僕が行く場所。







 …………あれ? 怖くない……。


 落ちながら、地面が迫ってくる感覚だけが鮮明に感じられた。風の轟音と共に、今までの記憶がフラッシュバックする。走馬灯……いや、あれはじわじわ死ぬ時に来る奴だっけか?


 映像は、物心ついた時からミツバとの誓いまで続く。()()()()は……脳が回避してくれたのだろう。最後くらいはいい仕事してくれるじゃないか。


『母さん? ちょっと色々あってな。お前の物心がつく前に天国へ行ったんだ』


『あ、カビ助が来たぞー! 菌がうつる! 逃げろーっ!』


『父さん、お前の病気を治すために探検してくるよ。家を頼んだぞ!』


『カビ助くんが授業を受けてないのにも辛い事情があるんですよ』


『カビ助。今まで……、いじめてすまなかった』


『ドラゴンマスクさん……それに探検隊……! なんだかかっこいい‼︎』


『……助けに来たぜ、マスター!』


『おらが保護者としてあんたの旅についていくだ‼︎』


『カビ助くん。『探検隊』に入ってくれないだろうか?』


『お父さんも認めてくれるような、一人前の探検家になってみせる!』


『見事です。モルモット……いえ、カビ助くん』


『ああ……愛してる、ミツバ』


『あたしは、少しでも長くマスターと幸せな時間を過ごせればそれでいい!』










 …………あれ? 怖い……?


 思い返しながら、僕が必要とされている感覚が鮮明に感じられた。最後に流れたミツバの記憶と共に、僕は死んではいけないのだ、という想いが湧き上がってくる。


 探検家だと……仲間だと……恋人だと……誓ったのに、勝手に死ぬなんて。

 どうしようもない屑野郎なのは僕もだった。


「ああ…………。生きれば良かった。」


 ビカっ!

 そう思った時……僕の身体は青白い光を発した……!

生きて。



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