表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
128/134

「ただの少年」

 ——沈黙。

 誰も言葉を発せない。


 新たな器……それはきっと、適当な“誰か”ではダメなんだ。そんな人物を連れてくる前に、ジャックの魂は消えてしまうだろうから……この場の三人の中から、“誰か”を選択しなければならないのだ。

 こんな屑のために……大切な仲間の、誰かを差し出す……?


 ジャックは続ける。


「別に、オレが憎けりゃ放置して良いんだぜ?」

「ちっ……分かってて、言ってるくせに。」

「ハ……そうだよなぁ?」


 奴は拘束されたミツバを見る。

「俺が消える時。代わりがいなきゃ——」


 腹を抱えて、笑う。

「この女も終わりだァ!! ギャハハハハハ!!!」


「…………ううっ!!!」

 全身が冷えた。


 つまり……ミツバを助けるには、ジャックを消してはならない。

 だが、ジャックを消さないためには……誰かが。


 誰か一人が、自由を奪われなければならない?


「「……」」


 誰も喋らない。

 ゴハートも、土台モンも。言葉を失っていた。


 当然だ……いくら彼らでも、怖いだろう。

 選ばれた方は終わる。身体を奪われる。意識を奪われる。


 生きていても……それはもう死と変わらない。

 そんなの、簡単に差し出せるはずがない。ミツバの体が道具のように使われていた現実を知る僕らには、自ら『差し出す』なんて……とても言い出せなかった。


 ジャックは愉快そうに笑った。


「お前が選ぶんだぜ、カビ助?」

「は……?」


 奴はそのままゆっくりと。二人を見回す。


「ボクらは“使い魔”です。マスターの選択を、恨みはしません」

「ミツバを救うんだろ……? あんたのために死ぬ覚悟なら、俺たちはとっくにできてるよ」


「そんな……いやだ、えらべるわけ……っ!?」


 ぞわりとした。

 ゴハートの拳が震えている。土台モンも唇を噛んだ。


 誰も答えられない。答えられるわけがない。


「お前が悪いんだよ、カビ助……。“大切なモノ”を、何個も作るからだ」

「違う……」

「そうかよ。で……? お前はどっちを“殺す”んだ?」


「“殺す”……?」


 脳裏に、子熊の心臓を貫いてしまった時の映像が流れる。

 今でも……あれは、耐えられない。気が狂った僕の愚かな判断で……未来ある命を一つ、奪ってしまったんだ。それを……また、繰り返すのか?


「こんなの、間違ってる……!」


 だが、そんな中。

 無意識から出た自分の発言を通じて、もう一つの映像が蘇った。


『戦いとは、そういうものなり。常に“何か”を秤にかけねばならぬ』


 僕が仮初の“英雄”になった後の……ギザンとの、会話。

 そういえば、あの時も“僕が一人でやった”と思われていることに対して、「こんなの、間違ってる」……そう思ったんだっけ。


 ——僕は、ミツバを見つめる。


 拘束されたままの彼女。

 苦しそうな呼吸。

 血の付いた口元。


 ようやく会えたのに。

 ようやく……ここまで来たのに?


「……」


 仲間を信じろと、そう教わった。

 全部一人で抱えるなと、そう教わった。


 だけど……今。

 この状況で、誰かに押し付けるのか?


 ゴハートに? 土台モンに?

 そんなこと、出来るわけがない。


 ギザン……僕は、どこまで教わろうと「ただの少年」みたいだよ。

 彼女一人を救うために、ここまで乱される自分が情けなくなる。


「……僕だ」

 気付けば口が動いていた。


「ん?」

 ジャックが振り向く。


 僕は前へ出る。足は震えていた。


 ——怖い。

 当たり前だ。コイツに乗っ取られるのは、死ぬより怖い。


 だけど。それでも。


「器が必要なら、僕を選べよ……っ!!」


 次の瞬間、全員がこちらを見る。


「マスター!?」

「何言ってるんだよ……!?」

 土台モンとゴハートが叫ぶ。


「ミツバを治せ。その代わり、僕を選べ」


 今度ははっきり言った。


 そのまま、ジャックを睨む。喉が震える。心臓が痛い。

 だけど。目だけは逸らさない。


 再び、静寂が落ちた。誰も、何も言えない。

 僕の言葉が、まだ空気の中に残っている気がする。


 勢いで言ったわけじゃない——本気だ。


 ゴハートや土台モンを差し出すくらいなら。

 ミツバを見捨てるくらいなら。


 僕がやるしかない。そう思った。


 そんな中。

 ただ、ジャックだけが、ゆっくりと口角を吊り上げた。


「ギャハハ……やっぱ最高だぜ」


 だが。その笑いは今までより小さい。

 まるで……ずっと待っていた答えを聞いたみたいに。


「なあ、カビ助……」


 そして、奴はゆっくりと顔を上げる。

 その目が、真っ直ぐ僕を見る。


「気付いてないだろうけど、お前さ」

「……なんだ?」


「今……自分に、酔ってるだろう!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ