表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
124/135

「少年」と「カビ助」


 眼前に立つ少年は、何も言わなかった。

 怒りもない。憎しみもない。ただ無言で、ダガーを構えている。


「…………」


 気味が悪い。……生きている感じがしないんだ。

 まるで、誰かに操られる人形みたいで。さらに自分と同じ顔だから、未来の僕の成れの果てなんじゃないかって想像して。余計に胸が苦しくなる。


 だが、相手は心の準備なんて待ってくれやしない。そもそも、複製体だから「心」が分からないのだ。

 次の瞬間、少年は地面を蹴った。


「……っ!」


 一瞬で距離を詰めてくる。

 僕と違って……迷いがないからか、詰めが速い。


 こちらも反射的にダガーを抜く。


 ——金属音。そして火花。

 互いの刃がぶつかった。


 そして、力が拮抗し、勢いがおさまって……そのまま離れる。


「……」

 少年は再び無言。


 言葉を交わす余地すらない。ただ、相手を倒すためだけに動いている。

 その姿に、少しだけ息苦しさを覚えた。


 なんだろう。どこか見覚えがある。

 ……そんな気がした。


 だが、考えるより先に。

 目の前で、閃光が弾けた。


『ツルピカフラッシュ』


 ビカッ!!

 眩い光で、前が見えない。このまま目を塞いでいては、隙をつかれて致命傷を負わされるだろう。僕だったら、そうする。


 だが……技が同じということは。


「それの対処法は、知ってる!」

 僕は目を瞑りながら、同じ技の構えをした。


「『ツルピカフラッシュ』」

「……!?」


 こちらの視界は奪われたが……相手もきっと、想定外の光に戸惑っているはずだ。

 僕の技のレパートリーで致命傷を与えるには、照準を合わせることが必須。ダガーにせよ、人魂にせよ……視界を奪われては、意味がない。


「どうする? 閃光合戦でも続けるか?」


 父さんから教わった、『ツルピカフラッシュ』。

 血の繋がりで再現していただけと知ったのは、つい最近だけど……、それ以前にこの技は、何度も使ってきた。打破される瞬間も、何度も見てきた。


 だから分かる。

 光が収まるまでに、こちらも時間を稼げばいい。


 我ながら致命的な弱点だけど……それだけだ。


「お、視界が戻ってきた」

「……」


 どうやら、複製体の思考は、この閃光合戦がイタチごっこだと判定したらしい。『ツルピカフラッシュ』を諦めて、距離を詰めてくる。


 そして、連発してダガーを投げた。

 一投。二投。三投。

 どれも正確に、僕の急所だけを狙っている。我ながら、こういう時のコントロールは完璧だ。


「くっ……!」


 避ける。弾く。躱す。

 ここが敵のホームだからか、残弾数が多い。僕と違って、ダガーを投げ続けるという戦略が可能になっている。


 だが……やはり、違和感があった。

 あいつは何故か、近付こうとしない。


 ずっと。一定距離を保っている。

 その姿はまるで——


「“昔の僕”みたいだな」


 遠くから目眩しして。安全な場所から投擲して。肝心な大技は全て仲間頼りだから、いざ一人になると不安定。その癖に、援軍を呼ぼうともせず孤独に争い続ける。


 彼は……傷付くのを恐れていた頃の、自分。

 ——そんな戦い方だった。

 それを見て、少しだけ胸が痛くなる。


 本物の僕だって、もちろん……今だって怖い。

 孤独は痛い。痛いのは嫌だ。かといって死ぬのも嫌だから逃げる。

 

 だけど……それだけじゃ大切なモノを守れないことを知った。お前が僕の複製体なら、そんな情けない姿、もう見せないでよね?

 いや……記憶も感情もないのだった。


「『隆起』!」


 僕は事前に呪文を唱えて、土台モンの技を放った。


 床が盛り上がる。石壁が生まれる。

 そして飛来したダガーがそこに、突き刺さった。


 少年は僅かに動きを止める。

「……?」


 見れば、不思議そうな顔だった。

 まるで……。「そんな技は知らない」とでも言いたげに。


 僕も少しだけ眉をひそめる。


「どうしたの?」


 おかしい。彼が僕のクローンなら。

 僕と同じ力を持っているはずじゃないのか?


 なのに。『隆起』を見せたら困惑してるし……それどころか、彼はダガーでの攻撃と『ツルピカフラッシュ』のワンパターンな戦略だ。


 あえて使ってない……?

 いや。もしかして、使えない?


「まさか——」


 その時、複製体は再び駆け出した。


 ダガー。閃光。ダガー。閃光。

 それしかない。それだけを、交互に放っている。


 僕は徐々に確信し始めていた。


「はぁ……はぁ……」

 呼吸を整える。そして、目の前の少年を見る。


 同じ顔。同じ身長。同じ癖。

 だけど、こいつと僕では、何かが決定的に違う。


 左手を前へ出し、呪文を唱え始める。


「ひとつの声は風に消え ふたつの想いは空に散る

 みっつの祈りが重なる時 道なき道が開かれる

 私の声を標とし 今ここに血の力を」


 ——切り替え、成功。

 

「『人魂シュート』!」


 少年の目が僅かに揺れる。知らない技を見た時の反応だった。


 ゴハートの力で、青白い炎が放たれる。

 少年は驚いたように跳び退く。躱された……けど、はっきりした。


 やっぱり、知らない。

 記憶がない以前に。この技を……使えないんだ。


 胸の奥がざわつく。

 もし……もしも——少年が持っているのが、父さんの力だけだとしたら。


「お前……」

 言葉が漏れる。

「いつの僕なんだ?」


 ——返事は、ない。

 当然だ。感情のないクローンに答えられるはずがない。


 だけど。聞かなくても十分だった。

 答えはもう出ている。


 こいつは……


「石化された時の、僕なのか」


 ミツバと出会う前の。

 あの絶望を味わう前の。

 ゴハートと土台モンに救われる前の。

 師匠に鍛えられる前の。


 まだ何者でもなかった頃の――僕だ。


 だから、仲間の力を使えない?

 呪文で繋げるという発想そのものがないから?


「そうか……」

 僕は小さく息を吐いた。


 すると、隙ありとばかりに少年が再び突っ込んでくる。

 一直線。迷いのない軌道。


 だけど。

 今の僕には見えていた。


「ごめん」


 振り下ろされたダガーを弾く。

 少年の体勢が崩れる。

 その隙に懐へ入る。


「なら——終わらせないと」


 拳を握る。右手に青白い炎が集まる。

 この力で、仲間の力で。終わらせてやる。


 今の僕は、一人じゃない。

 あの時だって、ゴハートが隣にいてくれたけど……僕はまだ、孤独から真の意味で救われてはいなかった。ずっと自分を蝕んでいた、コンプレックスという名の“心のカビ”。そうして開いてしまった穴から、絶望が溢れないように……もらった優しさでただ繋ぎ止めて、取り繕っていただけ。その証拠に、離れ離れになった途端……精神が崩れ落ちただろう? だから……僕は……いや、「カビ助」は。


「ただの『少年』には負けない!」


 弾丸を撃ち出す要領で、そのまま拳を振り抜いた。


 すると——いつもより強い衝撃。

 少年の身体が吹き飛ぶ。壁へ叩き付けられる。


「これは、『人魂ナックル』?」


 本当は『人魂シュート』を打とうとしたのだが、思いの外相手が至近距離にいたため、ゴハートのもう一つの技みたいになってしまった。

 偶然の産物……まあ、ある意味で僕らしい習得の仕方?


 ——少年は、壁からも崩れ落ちる。


 静寂……。動かない。


 僕は息を切らしながら近付いた。

 倒れた彼の、顔を見る。


 やっぱり……気持ち悪い。

 こんな真似をしたダークスター団は、許せない。


 でも、どこか懐かしかった。

 弱くて、未熟で。でも必死だった頃の自分を思い出せた。


「ありがとう」


 自然と口から漏れた。

 だがこれは当然、ダークスター団への感謝ではない。


「“君”が絶望したから……“僕”は、大切なものに気づけた」


 君のおかげで、僕はここまで来られた。

 何かを変えるってことは、その弱さを理解するってことだから。


 だから――もう大丈夫だよ。


「………」

 当然、返事はない。


 だけど。どこか肩の荷が下りた気がした。


 その瞬間。

 遠くから轟音が響く。


 ゴハート達のいる方向だ。


「……っ!?」

 顔を上げる。


 そうだ、まだ終わっていない。


 ジャックがいる。

 ミツバを救わなきゃいけない。


 僕はダガーを握り直し、次の戦場へ向かって駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ