向き合う者たち
師匠の複製体が腕を振り上げた。
「………!」
彼の得意技、『黒舎利弾』が無言で放たれる。
本物の彼と、まるで変わらない威力。
「ギャハハ……味方だと心強ぇな」
「「くっ……!」」
黒い衝撃が走り……空間そのものを裂くような、重い一撃。
当たれば終わり。彼の技を間近で見てきた僕だから……喰らったことはなくとも、それだけは伝わってきた。
だが——その時。
背後から、もう一つの弾が放たれる。
「『闇舎利弾』」
ドドドォン……ッ!!
同じ威力の技が——激突。
轟音と共に、部屋の中央が吹き飛んだ。
黒い衝撃が天井まで駆け上がる。
師匠が……守ってくれたんだ。
「師匠!」
「チッ……やっぱ、そう来るよな」
ジャックが少しだけ苦い顔をする。
そして、ゆっくりと師匠が前へ出た。
「行け、カビ助」
師匠が振り返らず言う。
「お前らじゃ……無理だ」
「……師匠。まさか、一人で……?」
「ああ。こいつは任せろ」
この間にも襲いかかる複製体の拳を受け止めながら。
師匠は……言った。
「ミツバを、救ってこい」
「あ……」
一瞬だけ、言葉を失った。
『ジャックを殺してこい』では、ないんですね。
僕は、無意識のうちに目的を履き違えていたのかもしれない。開戦前まで、ミツバを救うことだけを考えていたはずなんだ。だからこそ、何度も絶望を受けてもここまで頑張ってこれた。怒りの感情任せでは、何事も長続きしないから。
だけど、実際に相対して……僕は、奴を“ジャックとして”見てしまっていた。ミツバの身体は、奴が僕の怒りを誘うために使っている“道具”だと。
そう意識することは、戦いにとっては良いことなのだろうけど……肝心の目的を見失ってしまっていては、本当の“勝利”はできない。それではジャックの思う壺だろう。
この戦いは、ただ力を示すだけじゃない。
——ミツバを救う方法を、探すことが先決。
師匠は、それを分かっている。
「……はい!」
僕は強く頷いた。
その直後。黒と黒がぶつかる。
複製体が再び踏み込む。師匠本人も迎え撃つ。
——もう割って入れる空気じゃない。
まるで鏡同士の戦い。それも、僕らとは次元の違う戦い。
一歩近付くだけで、巻き込まれる。
「じゃ、後は頑張れよ」
そう言ってジャックが後ろへ下がる。
趣味の悪いあいつのことだから……自身のクローンとの戦闘で苦しむ僕らの姿を、高みの見物でもするつもりだろう。
だが……あいつは、僕と師匠しか頭になかった。
「待て、クソ野郎」
ジャックの目の前で、壁が砕けた。
ゴハートの『人魂シュート』だ。退路を塞ぐように壁へ叩き込まれている。
「誰が行っていいっつった?」
「……チッ」
ジャックの笑みが僅かに消える。
視線がゴハートと土台モンへ向く。
「そういやいたな、脇役ども」
僕は——ミツバを、救わなきゃ。
すぐに、ゴハートの応援に向かおうとする。
だが……次の瞬間。
僕の前へ、一人の少年が立った。
——僕自身の、複製体だ。
「…………」
無表情。だけど……ダガーを構えている。
こいつを放っておけば、皆の邪魔になるだろう。
なら……やることは一つだ。
「師匠が一人で“自分”と向き合うなら——」
こちらもダガーを構える。
「こいつは、僕一人でやる」
ゴハートが振り返った。
「……本当にいいのか?」
土台モンも続く。
「マスターが負けることに関しての心配ではありません」
一拍。
「しかし……ミツバさんの運命を、ボクらに任せても良いのでしょうか?」
僕は少しだけ笑った。
自分の複製体に、睨みを効かせた後——
「ゴハート、土台モン」
二人を見る。
「そっちは任せた」
それだけ言う。
説明はいらない……後は、この二人なら伝わる。
振り向かない。迷わない。
前だけを見る。
かつての自分なら……誰かに助けを求めていたかもしれない。
だけど今は違う。
『汝はもう、“守られる側”ではない』
ギザンの言葉が脳裏を過った。
——選択するんだ。
僕にしか出来ないこと。そして、仲間に任せることを。
だから……僕は前へ出る。
すると呼応するように複製体も前へ出る。
「すぐに決着をつけてやる」
決意。ミツバを救うために、急いでゴハート達の救援に向かう。僕が来るまでの間は、きっと彼らがジャックを足止めしてくれるはずだ。
そして……背後からゴハートの声。
「——ああ」
拳を鳴らす音が鳴る。
「任された、マスター」
振り返らなくても分かる。
あの二人は、笑っている。
「ボクらはジャックを——逃がしません」




