表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
116/135

外の世界


 ……おら達は、ずっと勘違いしていたのかもしれない。


 ホゲくんの背で起きた、不可解な襲撃。

 海上進路の情報漏洩。

 それによる、絶妙な機に現れた敵軍。

 フウロウくんの警戒網にかからず、潜入した謎の敵。


 誰もがギザンさんのように疑った。

 いくらあの隊長さんの人柄から集まった、夢を追う組織とはいえ……人が集まれば悪意が生まれる。味方の中に裏切り者がいるのではないか、と。


 だが——


 おらは目の前の男を見る。

 誰にも気付かれず。誰にも認識されず。まるで最初から存在しなかったかのように振る舞う男。


「……内通者なんて、最初から必要なかったのか」

 思わず呟いた。


 こいつがもし……『認識に干渉する力』を持つのなら。


 裏切り者なんか用意せずとも、一人で。

 潜入も、情報操作も、報告も……全部できちまう。


「その通りだとも! ようやく気付いてくれたか、ご老人!!」

「ふふ……それでは皆さん」


 Iの自慢げな顔を横目に、メドゥーサは笑った。

 黄金の瞳が細められる。


「おやすみなさい」


 その瞬間だった。


 まばゆい光線。

 轟音もない。爆発もない。


 黄金色が、戦場をただ、薙いだ。



「「隠れろォォォォォ!!」」


 モグドンくんの怒号。


 すぐさま、地中班の全員は飛び込んだ。

 岩陰へ。瓦礫へ。城壁の裏へ。


 だが——前列は、間に合わない。



「な……!!」

 最前列の隊員が振り返る。

 次の瞬間。


 灰色に……なった。

 肌が。鎧が。掲げていた武器が。


 全て石で包まれていく。


「う、そ――」


 隣の兵士も。そのまた隣も。

 逃げようとした者も。剣を振り上げた者も。


 その姿勢のまま止まった。

 まるで、時間だけが奪われたみたいに。


 誰も倒れない。誰も叫ばない。

 生きていたはずの人間が、ただ石像へ変わっていく。


 ——世界から音が消える。


 数秒前まで怒号が響いていた戦場。

 そのはずなのに……今は。


 ——静寂。


 モグドンくんは、言葉を失った。


 さっきまで肩を並べて笑っていた隊員が。

 こちらへ拳を掲げていた若者が。


 灰色の石像になっていたから。


「……ぁ」

 次に、誰かが声を漏らす。


 だが、それが誰だったのか。

 もう……分からない。


 石像は一つじゃない。

 五つでも、十数個でもない。


 見渡す限り——


 灰色。

 灰色。

 灰色。


 そこにいたはずの仲間達が。

 まるで最初から命など持っていなかったみたいに、並んでいた。


「そんな……」


 喉が震える。

 目を背けたい現実だが……全部、本当だ。


 メドゥーサは満足そうに微笑む。

「相変わらず……良い眺めですねぇ」


 蛇髪が愉快そうに揺れた。


「——人々が、私の力に絶望する瞬間は。」



「っ………テメェェェェェ!!」

 モグドンくんが吠える。


 地面が砕ける。

 今にも飛び出しそうな勢い。


 だが、その肩をおらは掴む。


「待つべ!」

「離せェ!! あの女ァ、ずっと騙してやがった!!」

「駄目……だ! 今行けば石になる!!」


 おら自身も……強く叫んでいた。

 力負けしながらも案外、モグドンくんを抑えられている自分に驚きつつ。


 ——以前までの自分では、無理だった。


 決戦前。カビ助くんが修行している間。

 ギザンさんの協力で、おらは……いざという時のために身体を鍛えていたのだ。皮肉なことにそれが、「味方を止める」という役に立ってしまったが。



 その時だった。


 上空からフウロウくんの声が落ちる。

「モグドン! ピクコノ殿!!」


 振り向く。

 空ではまだ戦いが続いている。


 焼機灼鬼。波奇羽鬼。武危夢鬼。

 極道鳥のボス三人を相手にしながら……それでも彼は、こちらを見ていた。


「なるほどな……」

 低く呟く。

「この組織に、内通者がいたわけではなく——」


 風を読む班長……誰よりも違和感を追ってきた男は、おらの視線の先を見るとすぐに、Iの姿を捉えたみたいだ。


「——最初から、貴様が近くにいたのか」


 おらはIを見る。

 誰にも気づかれず、誰にも認識されず。まるで最初から存在しなかったような男。


「I……その顔、覚えたぞ。一度ならず、二度までも……俺の前で()()()()()()罪は重い……!!」


 フウロウくんが空から睨む。

 だが……。


「おやおやァ? 私を覚えてくださるとは光栄ですねぇ!!」

 

 Iは、歓喜したように叫ぶ。

 まるで賞賛を受ける役者のように、両手を広げる。


「ちっ……その減らず口を全て、吹き飛ばしてやる」


「おお、怖い怖い。ですが……本当に? ()()()()()()()のでしょうかねぇ……?」


 狂気的な笑み。

 その言葉に、信じたくなかった可能性が確信へと変わる。

 

「まさか、お前の能力は——」

 思わず呟く。

「——『存在感の増減』なのか?」


 本当ならば、説明がついちまう。

 内通者がいたかのような、今までの不可解な出来事……あのフウロウくんにも見つからなかった理由も。


 全部。説明はつく。

 つくのだが——なぜだろう。


 胸の奥に、小さな棘だけが残った。


「なぁ、ピクコノさん」

「……どうした? モグドンくん」


 彼は地面を見ていた。

 震えた拳。食いしばった歯。


 怒りか。恐怖か。それとも後悔か。

 おらには分からなかった。が……


「……俺のせいだよな」

 ぽつりと、そんな声だけが聞こえた。

「え?」


「あんたより先に、俺が気づいてりゃ……」

 石像になった仲間達を見る。

「皆、助かったんじゃねぇのか?」


 おらは返事に困った。

 『違う』と、そう言いたかった。


 だが、おら自身……そう言い切れる自信がなかった。


「ピクコノさん……あんたはよくやったよ。もう休んでてくれ」

 彼は立ち上がり、一歩前に出る。


 ゆっくりと……まるで怒りだけで身体を支えているみたいに。


「俺は……行くぞ」

「待つべ!」

「あの女をぶっ潰す」


 その声は静かで……だからこそ怖かった。


「落ち着いてけろ!」

 そんな彼に向けて、おらは空元気で叫んだ。

 だが、彼は——


「落ち着いてられるか!!! あんたは、少し黙っててくれ!!」


 怒号。地面が揺れる。

 今の彼に、おらの言葉は響かないのか。


「見ただろ! まんまと敵に嵌められた姿を!!」


 石像を指差す。


「俺を信じて付いてきた奴らが……俺が守るって言った奴らが!!」


 空気が震える。

 残った数名の隊員たちが息を呑む。


 彼の掠れた声が出る。

「なのに俺は……」

 拳が震える。

「何も守れてねぇ」


 沈黙。

 だがその言葉は、弱音ではなかった。


「だからこそ俺がやるんだ……」


 彼は前を見る。

 Iと、メドゥーサを睨んでいる。


「今度こそ、あいつをブチ殺す」


 その瞳には……まだ闘志があった。

 無謀なほどに……この、絶望的な状況に。



 『君ならできる』『一緒に頑張ろう』と、言いたかった。

 隣にいるのがおらではなく、他の誰か……“英雄”達なら、そうしただろうか。


 だけど、おらはただの田舎者。彼らのように、馬鹿げた理想を“可能性”として語れるような……そんな実力を持っていない。


 それに、彼と同じ『ドリル族』だから。この状況に『穴』なんてないことが……嫌でも分かっちまう。

 その証拠に、『弱天解昇』はとっくに機能を失っていた。


 地中班。探検隊への協力者達。

 さっきまで百人以上いた。それが今は——十数人。


 後方で支援していたおらと、他数人。そしてモグドンくんの近くにいて、物陰にいち早く避難できた者たちだけが残っている。


 もちろん敵のクローン兵も石化に巻き込まれてはいる。

 だが、『石化光線』に、『存在の書き換え』——

 誰が見ても“チート”な能力を有した敵幹部が二人もいる。


 それに対してこちらが対応できる大きな戦力はモグドンくんだけ。

 彼は一度、メドゥーサ一人に敗北を喫している。唯一の勝ち筋といえば……『奴が彼に惚れている』という話だが……。それは、ただおら達の油断を誘うための嘘だったのだろうから、期待できない。


 有利だった乱戦の中に、敵が一人紛れ込んだだけなのに……形勢逆転どころではなく、決定打となってしまった。

 所詮この世は、能力の強さだけがものを言う。


 これが、おらが今立っている世界。

 これが、外の世界の……“絶望”。


 カビ助くん達はこんなのと、ずっと……向き合ってたのか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ