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偽りの三人目


 空で、爆音が弾けた。


 ——ドォォォォン!!


 炎と氷。二つの翼が同時に激突する。

 フウロウは歯を食いしばった。


 眼前には巨大な極道鳥。

 全身を炎で包む焼機灼鬼。


「どうしたァ!!」

 焼機灼鬼が笑う。

「空の班長サマの実力はその程度かァ?!」


 炎の翼が振るわれる。

 爆炎。熱風。空気そのものが燃える。


「っ……!」

 フウロウは旋回しながら回避した。


 ——下の戦場では、風が乱れている。

 こんなところで立ち止まるわけにはいかないのに。


 その直後。

 横から氷柱が飛来する。


「考え事とは余裕ですね」


 波奇羽鬼。眼の奥の瞳が冷たい。

 さらに。


「喰らえオラァ!!」


 武危夢鬼。複数の腕からなる、拳の連打。


 空が揺れる。三方向同時攻撃。

 正直——旅立つ前のカビ助に負けたと聞いて、舐めていたが。


 こいつら、強い。

 空中班は四十名ほど。対してこいつらはその三倍。


 しかも余計な記憶を抜いたクローン兵であるせいで——仲間割れするでもなく、連携が取れている。


「それでも——まだ希望はある」


 こちらには、班長が二人いる。

 スライム博士の知恵と装置があれば、この状況も打破できる。


「おい、スライム!」


 フウロウは叫んだ。

 自身の背に乗っている、もう一人の班長に向けて。


 ——だが。


「おい……?」


 返事がない。どういうことだ?

 背中が軽い。


 振り返る。


 ——いない。

 そこにいるはずのスライムが。


 消えていた。


「なっ……!?」

 一瞬だけ思考が止まる。


 いつ? どこで?

 落ちた? 攫われた? もしくは——?

 

 だが。考える暇はなかった。


「よそ見とは舐められたものですね」

 氷刃。

「死ねやァ!!」

 炎。

「隙だァ!!」

 拳。


 三方向から殺到する。

 フウロウは反射的に翼を広げた。

「『風刃』」

 暴風が炸裂する。


 余裕がない。状況確認すらできない。


 そんな時に。

 下から声が聞こえた。


「――アーッハッハッハッハッハッ!!」

 笑い声。


 異様なほど大きな。


 戦場全体へ響くような高笑い。


「……?」

 フウロウが眉をひそめる。


 風が乱れている。

 地の戦場に、何か、いる? だが見えない。


「誰もいない……が、叫び声……?」


 殺意が押し寄せる……こんな時に。


 ——嫌な予感がする。

 

 だが、行けない。

 対応できない。加勢できない。


 戦場を離れれば空中班が崩壊する。

 フウロウは歯を食いしばった。


(地中班……協力者達……モグドン……!)

 下方を一瞬だけ見る。


「耐えていてくれ……!!」



◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



 断崖の端。拘束されたメドゥーサの前。


 そこに男が立っていた。

 どうやら、おらと……もう一人。

 異様な殺気に反応したモグドンくんだけが、奴の姿を捉えているみたいだった。


 細い体。真っ白なスーツ。長いコート。役者のように大仰な仕草。

 そして——自分自身に酔っているような笑顔。


「諸君!!」

 男は大きく両腕を広げた。

「拍手したまえェ!!」


 まるで舞台の上のよう……だった。

 

「この私!!」

 誇らしげに。陶酔しながら、胸を張る。

「ダークスター団幹部が一人。『I』様の登場だァ!!」


 芝居がかった一礼。

 おら達以外、誰も見えていないのに……その大袈裟な声に、戦場が静まり返る。


「I……?」

「幹部だと……!?」

「三人目なんて、聞いてねぇぞ!!」


 誰も知らない。そんな幹部。

 そもそも、皆……透明な敵がいたことすら、頭から抜けていたようだった。


 ——そういえば。


 ホゲくんの背で、あの敵が暴れた時もそうだった。

 ギザンさんが内通者の仕業かと疑い、フウロウくんが何人の部隊かもわからないと言った、謎めいた勢力。


 結果、敵は一人で、内通者ではなかったが——

 本来なら、真っ先に調べないと危険なはずなんだ。


 なのになぜ、自分たちはそんな要注意人物の正体を暴こうとせず……()()()()()()()()()()のか?


 


「アハハハハハハ!! 当然だろう!?」

 その男は満面の笑みで答えた。

「主役は、最後に現れるものだからねェ!!」


 ……違う。求めているのは、そんな説明じゃない。


 承認欲求、自己顕示欲。注目願望。

 そんな全てを煮詰めたような声色だった。


「いやぁ!!」

 奴は大袈裟に肩を竦める。狂ったような笑い声。


「弱者は、空を見上げて、強者同士の決闘に夢中!!」

「強者が……目前の戦争に夢中!!」

「一部の者は、門から侵入した友人達に夢中!!」


 最後の言葉に、おらのことだと胸が痛む。

 もしかして——もっと早く気を向けていれば?


 見張りの彼らは、殺されずに済んだのか?

 これから始まるであろう、こいつの謀略を……阻止できたのか?


「その間ずっと私はここにいたのに!!」

 奴は自身の胸を強く叩く。

「誰も見てくれないんだから困るよねェ!!??」


 狂気じみた笑み。

 同時に、おらの背筋が冷える。


 違う。こいつは、まさか……

 ただ『透明』になっていたんじゃない。


 この喧しさを気取られないなら、もっと別の何かだ。

 誰も……気を張らなかった? 誰も……探そうとしなかった?


 まるで——

 そこに()()()()()()()()()()()みたいに?


 そこまで考えた時。


 鎖が崩れる音がした。

 ガシャン。


「あ——」


 メドゥーサを拘束していた枷が落ちる。奴の瞳を塞いでいた、何重にも巻かれた布もスルりと解かれる。


 蛇髪が蠢いた、女がゆっくり立ち上がる。


「ふふ」

 唇が歪む。

「ようやく……自由ですか」


 その黄金の瞳が細められた。

 Iと名乗った男が、優雅に一礼する。


「美しきレディ・メドゥーサ。貴女のナイトがお迎えに参りました」

「ご苦労……と言いたいところですが、貴方は好みじゃないのですよねぇ」

「うぇぇ!? 何故ですか!?」

「ふふ……自分で考えなさい」


 メドゥーサは笑う。

 そして……ゆっくりと。


 戦場へ顔を向けた。


 最前線……最も兵が密集している場所。

 乱戦を続けながらも、Iの演説に気を取られた地中班。


 しかも厄介なことに……彼らは。

 それどころか、モグドンくんすらも?


 メドゥーサの解放には気づいていないようだった……???


 そこへ。彼女の瞳が向く。

 『能力』がまるでヒステリックな人みたいに、絶叫した。


『AaAAAAAAaaaaaAA……!!!!』

『危険!! 危険!!!』

『危険危険危険危険危険危険危険!!!!!!』



 おらは、ここ何十年で一番大きな声量で。


「「モグドォォォォォン!!」」

 そう叫んだ。


 敬称とか、羞恥心とか、今はどうでもいい。この危険を……少しでも早く伝えなければ。


 瞬間、モグドンくんは気付いた。振り返る。メドゥーサを見る。

 そして。顔色が変わった。


 思い出したのだろう。

 滅ぼされた村々。石像になった仲間達。

 ドドリ村の——あの日の絶望を。


「全員——!!」

 肺が裂けそうなほど叫ぶ。

「「物陰に隠れろォォォォォォォ!!!!」」


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