弱天解昇
今回はピクコノさん視点です。
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ギギギギギギ……。
黒鉄の門が軋みながら開いていく。
その向こうへ……突入班は、迷わず駆けていった。
ゴハートくんに、土台くん。シャドくんに、ギザンさん。そして……カビ助くん。
「どうか、無事でいてくんろ……!」
おらは誰にも聞こえない声で、そう呟く。
「行けェ!!」
「「うおおおおおお!!」」
モグドン班長の怒号。地中班が前へ出る。
クローン兵の群れが押し寄せる。
大盾がぶつかり。槍が突き出され。
城門前は完全な乱戦になっていた。
「右押されてるべ!!」
「増援来たぞォ!!」
「押し返せェ!!」
怒号が飛び交う。土煙が舞う。
空では鳥達の戦い。上では、隊長と武蔵の剣戟が鳴る。
戦いに関しては素人なおらは——その中で。
戦場全体を見回し、皆んなに指示を出していた。
「……それにしても」
違和感。
ずっと感じている。姿の見えない、謎の敵。
だが……正体が全くと言っていいほど掴めない。
おらはシャベルを握りながら眉を寄せた。
カビ助くんたちは無事に侵入した。隊長さんは武蔵と交戦中。空ではフウロウくんたちが戦っている。
戦況は決して良くないが、崩壊もしていない。
概ね、作戦通りにことが運んでいる。なのに——
「不穏な空気だべ……」
胸の奥がざわつく。
理由は、あの透明な敵?
あれだけは引っ掛かっていた。
ホゲくんの背で、隊員を殺した謎の存在。そいつは今、また現れて味方を襲い始めたと思ったら……すっかり鳴りを潜めている。
誰も正体を掴めないまま。皆、乱戦に夢中で——気づけば話題から消えていた。
仕方のないことだ。不明な敵の正体を探していれば、目の前の敵に殺されちまう。
戦場とは、そういう場所。正直、こんな場所に自分がいていいのかと感じている。
そんな時、旅に誘うのを遠慮していたカビ助くんと……そんな彼を、危険な世界に連れ出してしまった、おら自身が告げた言葉を思い出す。
『でも、危険ですよ』
『おらにも出来ることがあるんだろう?』
あの時は、石化を解除することだけだと思っていた。
でも……きっと、他にもある。この場にいるドリル族は、モグドンくんとおらの二人だけ。けども彼は、戦いの指揮で忙しいはずだ。
戦えない……おらが、出来ること……。
「——念の為、やってみっか。『弱点解析』」
視界に、無数の線が浮かぶ。
建物。兵士。武器。地形。全てに綻びが見える。
物にも。人にも。心にも。
地面が穴ぼこで荒れるように、弱点は存在する。
それを見抜くのがおらの、ドリル族の力だった。
敵兵にも、味方にも。伝えたい弱点はいくらでも見つかる。
「けども、今は見えない対象を認識したい……こんな時、どうすれば?」
悩んでいると、空で爆音が響く。
空中班と、極道鳥たちの戦い……どんどん激しくなっていくべな。
ん? 空中班……?
空中班といえば、風を読むフウロウくんだ。
おらは、彼が海上で敵を探知していた時のことを思い出した。
そういえば、彼は——
“何もない状況”から、異変を感じ取っていた。
「もしかして、今見るべきは“戦”ではなく——」
風。それは、空間の流れだ。
何も見えない……弱点がない時は、“見方”が間違っている?
そうだ。
畑だって同じだ。地面を見るだけじゃ駄目だべ。
風を見る。日当たりを見る。水の流れを見る。
……全部合わせて、初めて作物は育つ。
なら——見るべきなのは。
「——探検隊という、“畑”全体か?」
静かに、息を吐く。そして……
神経を集中させ、再び『能力』を発動した。
その瞬間——世界が変わる。
浮かぶ景色が、今までの能力とは別物だった。
さしずめ、弱点解析の派生といったところか。
名付けるならば……『弱天解昇』?
ただ単に穴を見つけるだけでなく……上昇気流の如き勢いで食いつき、その奥底まで見抜く技。
——真っ白な視界。
気を抜くと脳みその中まで空っぽになっちまいそうだ。
その中で目を凝らせば、黒い何かが見え隠れしている。
「ここ……か!?」
黒い何か。今にも飛んじまいそうな頭でそれに食いつく。
その瞬間………脳の中に“黒”の情報が敷き詰められるような感覚。
戦場の片隅に、妙な影が見えた!
断崖の端。拘束されたままのメドゥーサ。
そこだけ……まるで染みのような違和感がある。
「なんだべ……?」
ドドリ村を襲い、おらを洗脳した、あの女。
あいつは、厳重に拘束されている。それに、ちゃんと見張りもいる。
彼らは地中班の精鋭たちだ。腕っぷしはもちろん異常なほど強い。
任せておけば問題ない……はずなんだ。
本来なら……心配する理由なんてない。
なのに。
『弱天解昇』が警鐘を鳴らしている。
そこが危険だと。今すぐ迎え、と。
「すまねぇ!! 頼むべ、誰か——」
言いかけた。
対処する……その瞬間だった。
ギリ……と。何かが軋む音。
見張りの一人が膝をついた。
疲労か? ……そう思ったが違う。
首元に。細い赤い線。
その線が——ぱっくりと開いた。
その次の瞬間、見張りの一人が崩れ落ちた。
「……は?」
首が、切れていた。胴から血が噴き出す。
——糸ノコギリで、切断されたみたいに。
その隣の隊員も倒れる。
さらに……もう一人。
何かに斬られたように、音もなく、崩れた。
「なっ——!?」
近くにいた、誰もが理解できない。
そして。空間が歪んだ。
水面越しに景色を見るみたいに。
ゆらりと。
何もない場所が揺れる。
そこから、一人の男が現れた。
「——アーッハッハッハッハッハッ!!」
高笑い。
戦場全体へ響くような大声。
その高笑いは、剣戟も怒号も貫いて戦場へ響いた。
思わず誰もが顔を上げる。
その中にはモグドンくんはもちろん……隊長さんや、フウロウくんの姿もある。
「何だ……っ!?」
「誰もいない……が、叫び声……? 風も随分と荒れているな……?」
「誰だ、テメェは!? 部下に何しやがった!!」
おらは確信した。ずっと探していた。
探検隊を掻き回していた影。そいつが——
「——見つけたべ」
今、目の前にいる。




