死者の冒涜、それは忘却
【前回の登場人物】
「武蔵」
(種族)ヒト・ダーク
(年齢)15
(能力)?
(概要)探検隊の命を狙う武者。闇の力を扱えるようになっていた。
************************************************
——ギィン!!
城の上空で、再び凄まじい火花が散る。
隊長と武蔵。二つの影が、尖塔の上で激突していた。
斬撃が交わる度に、空気が震える。まるで雷鳴みたいな衝撃が、戦場全体へ降り注いでいた。
「す、すげぇ……」
協力者の誰かが呟く。
「流石はドラゴンマスクさんだ!」
「おい。隊長“様”だろ!?」
「かっこいい……!」
「なんでだろ、戦場なのに感動してきた……」
「私たちの村を、救ってくれたときと同じだよ!」
誰もが、空を見てしまう。
圧倒的なまでの力に、目を奪われる。
——だが。
「お前ら、前を見ろォ!!」
モグドンさんの怒号。
その瞬間、地上へ飛び込んできたクローン兵を、ドリルがまとめて吹き飛ばした。
——ドゴォォォン!!
「隊長が敵を引き受けてくれてる!!」
「今のうちに押し返せ!!」
地中班が再び前進する。
空の決戦。地上の乱戦。
二つの戦場が、同時に動いていた。
そして——もう一つ。
「フウロウ、右翼上空に敵反応です」
「確認した。数は?」
「三十……いや、五十!?」
上空。
博士が装置を操作しながら叫ぶ。
フウロウさんは翼を広げたまま、風を読んでいた。
「来るか……?」
その目が細まる。
「空中班、迎撃準備」
「「了解!!」」
鳥たちが一斉に編隊を組み直す。
隊長が武蔵と戦うため此処を離れた今——。
空の防衛は、実質フウロウさん達だけになっていた。
当然敵も、それを理解している。
「司令塔を狙ってきますかっ!?」
「ちっ……当然といえば当然か」
フウロウさんの声は静かだった。
「……あれ」
その時、僕の喉が、止まった。
——空の向こう。
黒雲の奥から。三つの影が、ゆっくり現れる。
雑兵よりも、巨大な翼を広げている。
——熱い。
そう思った次の瞬間。反対側の頬が、凍えるように冷えた。
普通のトリ族の複製体なんかじゃない。人間より、二回りは大きい。
「…………あれは!」
見覚えがあった。
——いや。忘れられるはずがなかった。
燃え盛る翼の荒い巨軀。
氷の羽の刺々しい巨軀。
異様に膨れ上がった、筋肉の巨軀。
僕らが倒したあの姿を……忘れるはずがない。
「そんな……!」
ゴハートの顔から、血の気が引く。
「……嘘だろ?」
ドドリ村の、裏山。
焦げた巨大樹の下にあるはずが、消えていた死体。
嫌な予感は、ずっとあった。
それが今——最悪の形で目の前に現れている。
土台モンが呟いた。
「ボクの読みは正しかった、ということですね……」
「うん……残念なことに、ね」
最初に口を開いたのは、炎を纏う巨鳥。『焼機灼鬼』だった。
「戦い、か……何だか随分と久しい感じがするのォ」
渋い声。
燃える羽根から火の粉が散る。その全身は、まるで業火そのもの。
炎鳥組を束ねていた首領。
アイス一族の罠に嵌められて……死んだはずの男。
「ほう」
続いて、氷の翼を持つ巨鳥が眼鏡を押し上げる。
「これは興味深い。私には憶えがないのに関わらず、“我々を見て驚く者たち”がいるとはね……」
冷え切った声。
空気が凍る、彼の名は『波奇羽鬼』。アイス一族の、冷酷なボス。
そして——最後の巨鳥が、牙を剥いて笑った。
「ハハァ……!!」
筋骨隆々の身体。傷だらけの胸。複数の腕が、不気味に蠢く。
「やっと殺し合えるってかァ!? 最高じゃねぇか!!」
『武危夢鬼』。
暴力の塊みたいな男。剛力会の首領。
三つの組織の……ヤクザの首領。
だが、それだけに止まらず……彼らの背後からは、他の極道鳥たちも飛んできていた。その中には、僕が初めて出会った鳥である、『ファイアブル』の姿もある。
彼らは、あの時全員——僕らが殺した。その話は掘り返されることなく、僕らは十字架を背負って生きていこうと思った……そのはず、なのに。
「クローン……しかも、新型!」
土台モンが震える声を漏らす。
『新型』とは、感情を移植され、本来は「言葉を扱わずに命令に従うだけ」のクローンが強化されたもの。先ほど奴らが声を発していたことから、そう判断した。
「ここまでやるんですか……!」
「厄介なのはそこだけじゃないぜ……」
ゴハートにも、動揺が走る。
「感情を移植された『新型複製体』。それは裏を返せば……記憶がないってことだ」
一瞬、彼の言っている意味が分からなかった。
だが……次の瞬間。僕はそれを理解することとなる。
空が、吠えた。
「——行くぞォ!!」
最初に空中班に突っ込んだのは、武危夢鬼だった。
——バゴォォォォン!!
空気そのものが爆ぜる。彼が複数の腕を振り抜いた瞬間、衝撃波が編隊へ叩き込まれた。
「ぐあああっ!?」
「右翼が崩れる!!」
空中班の鳥たちが、一気に吹き飛ばされる。
だが——そこへ重なるように。
「燃え尽きんさいやァ!!」
焼機灼鬼が、巨大な翼を振るう。
——ゴォォォォォッ!!
炎。不気味に暗い空を真っ赤に染める火炎旋風が、鳥たちへ襲いかかった。
「回避しろ!!」
「うわぁあ!!」
「ぐっ……熱ッ……!」
空が焼ける。逃げ遅れた鳥の羽根へ火が移り、編隊が乱れる。
その隙を——見逃さない者。
「なるほど。空中戦とは、“陣形崩し”が肝心なのですね」
静かな声。
波奇羽鬼の翼が開く。
——ギギギギギ……!!
空気中の水分が、一瞬で凍結した。
「なっ……!?」
「翼が凍る!!」
鋭い氷柱が空に展開される。まるで氷の檻だ。
逃げ場を失った鳥たちへ、炎と拳が同時に襲いかかる。
——ドゴォォォォン!!
——メキィィィィッ!!
「うわあああっ!!」
「編隊、維持できません!!」
空中班が、押されている。
ゴハートの言いたいことって……つまり……!
「あの三人……本来なら絶対に共闘しない」
炎鳥組とアイス一族は、常に敵対関係だった。武危夢鬼も、気に食わなければ誰にでも喧嘩を売るような男だ。
なのに今は——。
「右から押し込むんじゃぁ!!」
「承知しました。では左は私が封鎖しましょう」
「ハハァ!! 逃げ場ねぇなァ!!」
連携している。
あの敵対組織達が、完璧に。
ゴハートが歯を食いしばった。
「……記憶がねぇからだ」
「っ……!」
「あいつら、本来の因縁を知らねぇ。だから“敵”は俺たちだけになる」
その声に、僕の背筋が冷えた。
本来なら混ざり合わないはずの勢力……。互いに憎み合っていた怪物たち。
それを都合のいい部分だけ残して、一つの軍勢に変えている。
「そんなの……!」
土台モンが顔を歪める。
「死者への冒涜にも程がありますよ……!」
だが、敵は止まらない。焼機灼鬼が笑う。
「ええのォ!! 燃やし放題じゃァ!!」
空が——崩れ始めている。
当然だ。フウロウさんも強いが、彼らも上澄みのトリ族。
生前ですら、危険人物だった。
それが今——“余計な意思のない兵器”になって戻ってきた。
「フウロウ……」
博士が低く言う。
「あれ、相当ヤバいですよ〜」
「ああ……分かっている」
フウロウさんは短く答える。
だが。その視線は、一切ブレていなかった。
「総員、空の維持を優先しろ」
「「……!」」
「隊長は今、武蔵を止めている」
空の上。
遠くで再び、巨大な斬撃がぶつかる。
——ギャリィィィン!!
空間が軋む。
「ならば我々は、隊長のため——」
フウロウさんが翼を広げた。
「“こいつら”を止めるだけだ」
その瞬間。
「やっちまえェ!!」
焼機灼鬼が咆哮する。
——ボォォォォッ!!
その声と共に、炎鳥組の子分クローン達が夜空を焼いた。
彼らは無言。……最新技術は、首領達にしか使っていないのか?
「行きますよ〜!!」
「「おおおおおおお!!」」
博士が粘着弾を展開。空中班も一斉に飛び出す。
そして。
空中でもまた——新たな決戦が、始まった。




