繋がれた道
【前回の登場人物】
「ハヤツバ」
(種族)トリ
(年齢)21
(能力)?
(概要)空中班員。カビ助を乗せている。
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——風が、変わった。
海の匂いが薄れていく。代わりに鼻を刺したのは、湿った石の臭い。そして、鉄錆のような——嫌な気配。
「見えてきたっすよ!!」
ハヤツバの声。鳥たちが一斉に高度を落とす。
僕は、眼下を見下ろした。
断崖。ホゲさんの巨体が遠目に見える。
そんな海を見下ろすように、ここには巨大な城がそびえ立っている。
『闇星城』。ダークスター団の根城。
近づけば近づくほど、その異様さが分かった。
壁面はただ黒いだけじゃない。まるで生き物みたいに脈打つような紋様が走っている。巨大な尖塔は空を突き刺し、その上空だけ雲が渦を巻いていた。
太陽は昇っているはずなのに。この城の周囲だけ、薄暗い。
「…………っ」
背筋が冷える。
ここに——いるのか?
世界をクローンという絶望に沈めた存在が。
鳥たちは速度を落とし、断崖の一角へ滑り込む。そこは辛うじて足場になっている岩場だった。
「着地するぞ!!」
フウロウさんの号令。そして。
——ドサッ!!
「うわっ!?」
衝撃。ハヤツバは勢いよく着地した。
僕らは地面を転がりながら、なんとか受け身を取る。
周囲でも、次々と隊員たちが降り立っていた。
「全員、無事か!?」
「我らは問題ありません、隊長!」
「いや……一部は、先の戦いで……!」
「負傷者、軽傷数名です!」
隊長が即座に周囲を確認する。その声を聞いて、少しだけ安心した。透明人間らしき謎の敵勢力のせいで負傷者は出ていても、これだけの人数の中で、数名で済んだのは奇跡だろう。水中班と負傷者を除けば……『探検隊連合軍』の人数は、ざっと二百人は残っている。
……生きてる。
本当に、ここまで来たんだ。
僕はゆっくり立ち上がる。
目の前には——巨大な門。
何十メートルあるのか分からない黒鉄の扉。その表面には、無数の傷跡が刻まれていた。爪痕。焼け跡。斬撃。
まるで、今まで何人もの挑戦者を拒み続けてきたみたいに。
その門の向こうから、重たい振動が響いてくる。
——ドクン。——ドクン。
城そのものが、心臓みたいに脈打っていた。
「……気味悪ぃな」
ゴハートが低く呟く。
「ボクも、こういう場所は苦手です……」
土台モンも珍しく顔を強張らせていた。
師匠だけが静かに城を睨んでいる。
「だが……退く理由にはならねぇ」
その言葉に、皆の空気が少しだけ引き締まる。
やがて。
隊長が、全員の前へ出た。
「総員、聞いてくれ!」
全員の視線が、彼へ集まった。
ざわめきが止まる。誰かが、剣を握り直した音がした。鎧の擦れる音。荒い呼吸。もう、誰も笑っていない。
隊長はそんな皆を見渡して——静かに口を開いた。
「想定外の突入の仕方だが……作戦は、昨夜確認した通りだ」
隊長は城を見上げながら続ける。
「地中班と、一部の地上班は第一層正面へ展開。敵主力を引きつける」
「俺らが崩れれば、退路がなくなるから気をつけろよ!」
モグドンさんの声に、地中班ははっきりと応じる。
「「はい!!」」
「博士はフウロウと共に行動し、全体指揮の補佐を。空中班は上空から全域索敵しつつ、二人を守ってくれ」
「頼んだぞ、お前ら」
フウロウさんの声に、博士と空中班が手を上げる。
「「了解です!」」
「仕方ないですね〜」
そして、隊長の目が僕たちを見る。
「カビ助くん。ゴハート。土台モン。シャド」
「——はい」
僕らは静かに頷いた。
「『突入班』は、敵の隙を突いて城内部へ侵入だ」
「我と……『地上班』も一緒であるな?」
ギザンたち、監獄突破部隊も隊長を見る。
彼は真剣な表情のまま、頷いた。……隊長がこういう場で微笑みを浮かべないのは、珍しい。
「改めて……君たちには、城内部の攻略を任せる」
その言葉に、僕らと地上班の皆は返す。
「分かりました」
「お前も、とっとと武蔵を倒してこい」
「マスターのことは、俺たちに任せろ!」
「……任せてください!」
「「了解!!!」」
「その任務、請け負った」
胸が、少しだけ重くなる。
——いよいよだ。
今までは、ただ絶望に振り回されて……言われるがままに、この場所へ来るまでの戦いだった。でもここからは……違う。
ここからが、本番。僕はやっと、この場所に戻ってきた。自分たちの頭で動き、この手で、ジャックを倒し……ミツバを救ってみせる。
だが、これは僕の『個人的な願い』だ。
「私たちが達成すべき目的は“三つ”」
隊長が続けて指を立てる。
『目的』……それは、『ボス』を倒すために踏むべきステップ。
「敵幹部……戦力の中枢を破壊すること。そして……幹部を人質とした、ボスとの交渉」
これは、僕たち突入班が。
「監獄最深部の重要人物を救出すること」
これは、ギザンたち地上班が。
「そして——」
一拍。低い振動が、足元から伝わってくる。まるで、この城そのものが生きているみたいだった。
冷たい風が吹く。潮の匂いはもう薄い。代わりに鼻につくのは、鉄錆みたいな臭い。
嫌な場所だ……が、隊長は構わず続けた。
「奴らが複製体を生み出している目的と方法に、辿り着くこと」
空気が、張り詰めた。
——確かに、それが分からなければ相手の戦力は無限大……か。
これは、特定の誰とかじゃなく、見つけたらすぐに共有すべき真実。
一同が唾を呑む音が聞こえた気がした。
その時だった。
ギィィィィィィィィ……と、低い音。
「……っ!!」
巨大な正門が、ゆっくり開いていく。
黒い隙間。その奥から——赤い光が漏れた。
「来るぞ!!」
モグドンさんが叫ぶ。
次の瞬間。
——ヴゥゥゥゥゥゥゥン!!
警報。
耳を裂くような警告音が、城全体から鳴り響いた。
『警戒レベル上昇。侵入者ヲ確認』
『第一層防衛部隊、出撃開始』
機械みたいな声が響く。
そして——黒い門の奥から、兵士たちが現れた。
「…………!」
僕は再び、息を呑む。
その姿は、統一されていない。
人間の兵士はもちろん……
獣人に、魚人に、昆虫に、鳥類。
種族が、バラバラ。
なのに全員、同じ目をしていた。感情のない、濁った瞳。命令だけに従って動くような存在。
「全部……クローンかよ」
ゴハートが顔をしかめる。
しかも数が多い。門の奥から、次々と湧いてくる。
まるで、城そのものが兵士を吐き出しているみたいだった。
「ボーっとするな! 配置につけ!!」
隊長の号令。
その瞬間、探検隊が一斉に動いた。各地から協力者として集まってくれた人たちも、遅れてはいるものの、叫びながら前に出る。
「地中班!! いくぞォ!!」
モグドンさんが拳を打ち鳴らす。
「「オオオオオ!!」」
地中班が前方へ走る。巨大な武器を構え、重装備に、大盾。まるで“壁”そのものみたいな集団。その中に広がる勇ましい空気へ、他の協力者達も共鳴していく。
「空中班、上昇!!」
続いて、フウロウさんが翼を広げる。
「おいスライム、しっかり掴まれ!!」
「フウロウ、お前…………毎度思いますけど、意外と荒っぽいですね!?」
次の瞬間。
——バサァッ!!
暴風。フウロウさんが博士を乗せたまま、一気に空へ舞い上がった。
「全域の風を読む!!」
「敵配置、逐次共有します〜!!」
「「了解。通信機は持ちました!」」
上空へ散っていく空中班。隣にいたはずのハヤツバも、いつの間にか飛び立っていた。彼らを見送りながら、僕は息を呑む。
始まった……。最終決戦が。
「カビ助——」
低い声。
振り向くと、師匠だった。
「俺たちは、まだ動かないでいい」
「……え?」
突入班の役目は、今じゃないんだ。
敵主力が正面へ集中した瞬間。その隙を突いて、侵入する。
「今は彼らに任せて、待て」
師匠が静かに言う。
「焦って飛び出せば、全部終わる」
「……っ」
分かってますよ。でも、胸が騒ぐんだ。
正面ではもう戦闘が始まっている。
「ブチ抜けェ!!」
モグドンさんの拳が炸裂する。
——ドゴォォォォン!!
最前列のクローン兵がまとめて吹き飛んだ。
だが、その直後。無数の敵兵が、地中班へ雪崩れ込む。
「迎え撃てェ!!」
怒号。爆音。金属音。
城門前が、一瞬で戦場へ変わった。
空では荒っぽい風が舞い、地上では土煙が舞い。
クローン兵たちが、次々と押し寄せてくる。
その光景を見ながら。僕は、拳を握った。
——本当に、僕が行くんだな。
この城の奥へ。
彼らの傷を背負って、進むんだ。
ホゲさんたちが命懸けで繋いでくれた……この道。
絶対に、無駄にはしない。




