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繋がれた道

【前回の登場人物】

「ハヤツバ」

(種族)トリ

(年齢)21

(能力)?

(概要)空中班員。カビ助を乗せている。

************************************************



 ——風が、変わった。


 海の匂いが薄れていく。代わりに鼻を刺したのは、湿った石の臭い。そして、鉄錆のような——嫌な気配。


「見えてきたっすよ!!」


 ハヤツバの声。鳥たちが一斉に高度を落とす。

 僕は、眼下を見下ろした。


 断崖。ホゲさんの巨体が遠目に見える。

 そんな海を見下ろすように、ここには巨大な城がそびえ立っている。


 『闇星城』。ダークスター団の根城。


 近づけば近づくほど、その異様さが分かった。

 壁面はただ黒いだけじゃない。まるで生き物みたいに脈打つような紋様が走っている。巨大な尖塔は空を突き刺し、その上空だけ雲が渦を巻いていた。

 太陽は昇っているはずなのに。この城の周囲だけ、薄暗い。


「…………っ」

 背筋が冷える。


 ここに——いるのか?

 世界をクローンという絶望に沈めた存在が。


 鳥たちは速度を落とし、断崖の一角へ滑り込む。そこは辛うじて足場になっている岩場だった。


「着地するぞ!!」


 フウロウさんの号令。そして。

 ——ドサッ!!


「うわっ!?」


 衝撃。ハヤツバは勢いよく着地した。

 僕らは地面を転がりながら、なんとか受け身を取る。


 周囲でも、次々と隊員たちが降り立っていた。


「全員、無事か!?」

「我らは問題ありません、隊長!」

「いや……一部は、先の戦いで……!」

「負傷者、軽傷数名です!」


 隊長が即座に周囲を確認する。その声を聞いて、少しだけ安心した。透明人間らしき謎の敵勢力のせいで負傷者は出ていても、これだけの人数の中で、数名で済んだのは奇跡だろう。水中班と負傷者を除けば……『探検隊連合軍』の人数は、ざっと二百人は残っている。


 ……生きてる。

 本当に、ここまで来たんだ。


 僕はゆっくり立ち上がる。


 目の前には——巨大な門。


 何十メートルあるのか分からない黒鉄の扉。その表面には、無数の傷跡が刻まれていた。爪痕。焼け跡。斬撃。

 まるで、今まで何人もの挑戦者を拒み続けてきたみたいに。


 その門の向こうから、重たい振動が響いてくる。

 ——ドクン。——ドクン。


 城そのものが、心臓みたいに脈打っていた。


「……気味悪ぃな」

 ゴハートが低く呟く。


「ボクも、こういう場所は苦手です……」

 土台モンも珍しく顔を強張らせていた。


 師匠だけが静かに城を睨んでいる。

「だが……退く理由にはならねぇ」


 その言葉に、皆の空気が少しだけ引き締まる。


 やがて。

 隊長が、全員の前へ出た。


「総員、聞いてくれ!」


 全員の視線が、彼へ集まった。

 ざわめきが止まる。誰かが、剣を握り直した音がした。鎧の擦れる音。荒い呼吸。もう、誰も笑っていない。

 隊長はそんな皆を見渡して——静かに口を開いた。


「想定外の突入の仕方だが……作戦は、昨夜確認した通りだ」


 隊長は城を見上げながら続ける。


「地中班と、一部の地上班は第一層正面へ展開。敵主力を引きつける」

「俺らが崩れれば、退路がなくなるから気をつけろよ!」


 モグドンさんの声に、地中班ははっきりと応じる。

「「はい!!」」


「博士はフウロウと共に行動し、全体指揮の補佐を。空中班は上空から全域索敵しつつ、二人を守ってくれ」

「頼んだぞ、お前ら」


 フウロウさんの声に、博士と空中班が手を上げる。

「「了解です!」」

「仕方ないですね〜」

 


 そして、隊長の目が僕たちを見る。


「カビ助くん。ゴハート。土台モン。シャド」


「——はい」

 僕らは静かに頷いた。


「『突入班』は、敵の隙を突いて城内部へ侵入だ」

「我と……『地上班』も一緒であるな?」


 ギザンたち、監獄突破部隊も隊長を見る。

 彼は真剣な表情のまま、頷いた。……隊長がこういう場で微笑みを浮かべないのは、珍しい。

 

「改めて……君たちには、城内部の攻略を任せる」


 その言葉に、僕らと地上班の皆は返す。


「分かりました」

「お前も、とっとと武蔵を倒してこい」

「マスターのことは、俺たちに任せろ!」

「……任せてください!」

「「了解!!!」」

「その任務、請け負った」


 胸が、少しだけ重くなる。

 ——いよいよだ。

 今までは、ただ絶望に振り回されて……言われるがままに、この場所へ来るまでの戦いだった。でもここからは……違う。

 ここからが、本番。僕はやっと、この場所に戻ってきた。自分たちの頭で動き、この手で、ジャックを倒し……ミツバを救ってみせる。


 だが、これは僕の『個人的な願い』だ。


「私たちが達成すべき目的は“三つ”」


 隊長が続けて指を立てる。

 『目的』……それは、『ボス』を倒すために踏むべきステップ。


「敵幹部……戦力の中枢を破壊すること。そして……幹部を人質とした、ボスとの交渉」

 これは、僕たち突入班が。


「監獄最深部の重要人物を救出すること」

 これは、ギザンたち地上班が。


「そして——」


 一拍。低い振動が、足元から伝わってくる。まるで、この城そのものが生きているみたいだった。

 冷たい風が吹く。潮の匂いはもう薄い。代わりに鼻につくのは、鉄錆みたいな臭い。

 嫌な場所だ……が、隊長は構わず続けた。


「奴らが複製体を生み出している目的と方法に、辿り着くこと」


 空気が、張り詰めた。

 ——確かに、それが分からなければ相手の戦力は無限大……か。

 これは、特定の誰とかじゃなく、見つけたらすぐに共有すべき真実。


 一同が唾を呑む音が聞こえた気がした。

 その時だった。


 ギィィィィィィィィ……と、低い音。


「……っ!!」

 巨大な正門が、ゆっくり開いていく。


 黒い隙間。その奥から——赤い光が漏れた。


「来るぞ!!」

 モグドンさんが叫ぶ。

 次の瞬間。


 ——ヴゥゥゥゥゥゥゥン!!


 警報。

 耳を裂くような警告音が、城全体から鳴り響いた。


『警戒レベル上昇。侵入者ヲ確認』

『第一層防衛部隊、出撃開始』


 機械みたいな声が響く。

 そして——黒い門の奥から、兵士たちが現れた。


「…………!」


 僕は再び、息を呑む。

 その姿は、統一されていない。


 人間の兵士はもちろん……

 獣人に、魚人に、昆虫に、鳥類。


 種族が、バラバラ。

 なのに全員、同じ目をしていた。感情のない、濁った瞳。命令だけに従って動くような存在。


「全部……クローンかよ」

 ゴハートが顔をしかめる。


 しかも数が多い。門の奥から、次々と湧いてくる。

 まるで、城そのものが兵士を吐き出しているみたいだった。


「ボーっとするな! 配置につけ!!」

 隊長の号令。


 その瞬間、探検隊が一斉に動いた。各地から協力者として集まってくれた人たちも、遅れてはいるものの、叫びながら前に出る。


「地中班!! いくぞォ!!」

 モグドンさんが拳を打ち鳴らす。


「「オオオオオ!!」」


 地中班が前方へ走る。巨大な武器を構え、重装備に、大盾。まるで“壁”そのものみたいな集団。その中に広がる勇ましい空気へ、他の協力者達も共鳴していく。


「空中班、上昇!!」

 続いて、フウロウさんが翼を広げる。


「おいスライム、しっかり掴まれ!!」

「フウロウ、お前…………毎度思いますけど、意外と荒っぽいですね!?」


 次の瞬間。


 ——バサァッ!!

 暴風。フウロウさんが博士を乗せたまま、一気に空へ舞い上がった。


「全域の風を読む!!」

「敵配置、逐次共有します〜!!」

「「了解。通信機は持ちました!」」


 上空へ散っていく空中班。隣にいたはずのハヤツバも、いつの間にか飛び立っていた。彼らを見送りながら、僕は息を呑む。


 始まった……。最終決戦が。


「カビ助——」


 低い声。

 振り向くと、師匠だった。


「俺たちは、まだ動かないでいい」

「……え?」


 突入班の役目は、今じゃないんだ。

 敵主力が正面へ集中した瞬間。その隙を突いて、侵入する。


「今は彼らに任せて、待て」

 師匠が静かに言う。


「焦って飛び出せば、全部終わる」


「……っ」

 分かってますよ。でも、胸が騒ぐんだ。

 正面ではもう戦闘が始まっている。


「ブチ抜けェ!!」

 モグドンさんの拳が炸裂する。


 ——ドゴォォォォン!!

 最前列のクローン兵がまとめて吹き飛んだ。


 だが、その直後。無数の敵兵が、地中班へ雪崩れ込む。


「迎え撃てェ!!」


 怒号。爆音。金属音。

 城門前が、一瞬で戦場へ変わった。


 空では荒っぽい風が舞い、地上では土煙が舞い。

 クローン兵たちが、次々と押し寄せてくる。


 その光景を見ながら。僕は、拳を握った。


 ——本当に、僕が行くんだな。


 この城の奥へ。

 彼らの傷を背負って、進むんだ。


 ホゲさんたちが命懸けで繋いでくれた……この道。

 絶対に、無駄にはしない。


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