表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
105/135

噴気


 『闇星城』。

 あれが、この戦いの中心。

 現在世界の“絶望”が、集まっている場所。


「ホゲ、まさかお前……!?」

 モグドンさんが驚く。

 隊長も何かを察したようで、暗い顔をしていた。

「………っ!」


「目的地がすぐそこなら、話は早いぜェ……!」

 ホゲさんが、笑う。それは陽気さではない。覚悟の笑みだった。


「こいつらは俺ら水中班が引き受ける!!!」



「「「え……!!?」」」

 一同が口を開けて驚きを隠せない。


 ただでさえ消耗しているホゲさんに……この数、全てを任せる?

 “こいつら”って……見えない謎の敵に、大量の魚人クローンでしょう?



()()()()()()()。ぶち込んでこい、あの城に」


「……何言ってんだよ」

 モグドンさんが、掠れた声を漏らした。


「無茶だろ……」

「この数を、水中班だけで?」

 

 続いて、隊員たちがざわめく。


 ——空気が、揺れている。

 誰も、すぐには動けない。見えない敵による脅威に怯えているのもある。


 だが、件の敵はなぜか……今は、鳴りを潜めている。

 班長達が警戒しているから?


 まあ、何か策を実行するには、またとない好機だ。


 とはいえ……

 当の水中班の隊員たちですら、一瞬だけ言葉を失っていた。


 ……のだが。


「へへ……」

 最初に笑ったのは、水中班の一人だった。


「班長と最後まで暴れられるなら、本望っすよ」

「おいおい、勝手に終わらせんなやァ!」

「俺らが負ける前提で話進めてんじゃねェぞ!!」


 無理やりみたいな笑い声。

 ——けれど。尾は、震えていた。


 少し下を向いたあと、水中班の面々は……

 陽気な掛け声を叫んだ。


「「隊長殿ォ!! 俺らに任せてください!!!」」


 彼らの言葉には、多少の迷いはあれど……ホゲさんへの絶大なる信頼が、感じられた。彼らは全てを覚悟して、死ぬまで諦めない。



 その覚悟を受け、隊長は……

 すぐには、答えなかった。


 ただ——拳だけが、僅かに震えている。


「……隊長?」

 誰かが、判断を待つ。


 数秒。けれどその沈黙は、何分にも感じられた。


「っ……総員」

 やがて。絞り出すような声。


「突入を優先する。」


 その言葉が落ちた瞬間。

 誰も、反論できなかった。彼の拳が、僅かに震えていた。


 僕も、胸の奥がひゅっと冷えた。


 ——置いていくのか? ホゲさんたちを?


 いや……違う。

 隊長だって、そんなこと望んでないはず。

 “今ここで止まれば、全員が死ぬ”と……そう、判断したんだ。


 即断? 迷いはない?

 度を超えて優しい彼にそんなこと、出来るはずがない。


 それでも……!


「隊長……っ!」

 僕があの立場なら……恐ろしくて、判断すらできないだろう。やはり彼は等身大な一面はあれど、人生を何周もしてきたかのような大人なんだ。


 だが……感心している暇はない。


 敵の本当の狙いを早く調べなければいけない。

 それに何より、この状況を打破する方法は……!?


 そう思っていたところに、隊長の声が響く。


「——ホゲの噴気孔に乗れ!!」


「……は?」

 思わぬ方法に、声が漏れる。


 だが、次の瞬間には理解した。唯一、この状況を突破する手段。

「……マジです?」

 それでも呟かずにはいられない。

 

 ——無理だ。

 そんなので、本当に届くのか? この高さ……叩きつけられれば、ただでは済まない。失敗したら、衝撃で死ぬかもしれない。


 だが誰も、止まらなかった。

 波の音だけが響く。さっきまで暴れていた魚人たちの叫びすら、遠く感じた。


 水中班だけが、戦うつもりでいる。ここに残される覚悟を、もう決めている。

 ——それが分かってしまったから。


「「行くぞォ!!」」

 ホゲさんが、深く潜る。

 海が静かになった。さっきまで暴れていた波が、一瞬だけ——止まる。


 誰も、喋らなかった。

 ——ただ。水中班だけが笑っていた。


 巨体が沈むと同時に、海面が大きく引き込まれた。

 水が、吸い寄せられる。


「ひっ……覚悟、決めるしかないのか!」


 静寂。一瞬だけ、世界から音が消えた。

 探検隊員が、次々と泳ぎ、彼の噴気孔に集まっていく。


「へへ……」

 水中班の誰かが、震える尾を隠すように笑った。


「こんな派手な送り出し、最初で最後っすね」

「縁起でもねェこと言うなァ!!」


 ホゲさんは笑った。——けれど。

 その巨大な尾びれからは、絶えず血が流れていた。

 

 そして……


 バゴォォォォォッッ!!

 爆発。海を突き破る、巨大な水柱。


 白い奔流が、砲撃のように空へ撃ち上がる。


「掴まってろォ!! 吹っ飛ぶぞォォ!!」


 次の瞬間。身体が、宙へ放り出された。


「「うおおおおおっ!?」」


 視界が反転する。水圧が、顔面を叩く。風が体を切り付ける。

 海が一気に遠ざかり、代わりに青空が迫る。

 

 僕らはまるで——撃ち出された弾丸のように吹っ飛んだ。

 そして……ホゲさんの読み通り。宙から見た視界には、『闇星城』であろう建造物が写っていた。博士の設計図で見た通り、断崖に聳え立っている禍々しい城。


 だが。


「届か……ない!」


 誰の目にも、それは明らかだった。

 城まで、あと少し。ほんの少しなのに。

 軌道が、足りない。このまま落ちれば——海面に叩きつけられる。


 ホゲさんの努力と、水中班の覚悟が無駄になる。それどころか、海面に叩きつけられて衝撃で死んでしまう可能性だってある。


 ——その時だった。


「「空中班!!」」

 鋭い声が、空を裂いた。フウロウさんだ。


「展開しろ!!」

 翼を広げ、風を掴む。

「“受け止める”ぞ——誰一人として落とすな!!」


 その指示と同時に。

 青い空に、影が広がる。待機していた空中班……無数の鳥たち。

 編隊を組み、一直線に突っ込んでくる。


「「いくぞ!!」」


 ——ドンッ!!

 衝撃と同時に、身体が支えられた。


「うわっ!?」


 見ると、僕は巨大な鳥の背に乗っていた。

 他の隊員たちも次々と空中でキャッチされていく。


「あ……ありがとうございます」

 僕は真下の彼に向かって言った。


「礼ならフウロウ班長に言うことっすね。……ま、落ちないように掴まっててください」


 僕と仲間たちを乗せたその彼は、『ハヤツバ』と言うらしい。

 そして——


「全員、乗れ!! そのまま滑空だ!!」

 編隊の中央から、隊長と博士を乗せたフウロウさんの声。


 鳥たちはそのまま進路を変え——異様に暗い空へと滑り込む。


「必ず追いつけ、ホゲ」

 隊長は、その言葉だけを漏らして前を見た。


 そして——最後まで、一度も後ろを振り返らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ